機械人形

 機械人形オートマタを家に連れて帰った。家といっても、簡素な荒屋だ。本当に寝るだけの簡素な。そろそろここも引き払って、立派な家でも欲しいな。

 杖で四角く線を描くと、薄い膜が張った。それは、ちょうど人が通れるくらいの大きさの。

 転移魔法はわりと魔力を消費するが、今回は仕方ない。さすがにここに寝させるわけにはいかないだろう。必要最低限のものを膜の中へと放り込む。杖をふって、簡素な荒屋を解体する。一瞬で何も無い荒野へと成り果てた。元の姿に戻っただけだ。

 機械人形オートマタを抱きかかえて、膜の中へと入っていく。膜を抜けると、そこは、大きな洋館の中だった。


「さすがに大きすぎたかな」


 ぽつりと言葉をこぼす。

 転移魔法とこの洋館の建築でだいぶ魔力を消費した。私のような百年しか生きていない魔法使いだとこれが一日の限界だ。

 なんとか機械人形オートマタをベッドに寝かせて、自分は床に倒れ込む。もう使える魔力はない。瞼がゆっくりと落ちていく。私の意識も一緒に落ちていく。


 □□□


 新緑を思わせるような澄んだ歌声が響いてきて、私は重たい瞼を開けた。銀糸の髪がリズムに合わせて揺れている。揺れが止まって、こちらを認識する。


『あなたは、どなたですか。 マスターはどちらに?』


 青い瞳がこちらを見つめている。ここはどこだ、前の持ち主はどこだ、と聞いてくる。この機械人形オートマタも、詳細を知らないまま、連れてこられたのだろうか。


「私は、しがない魔法使いだ。きみのマスターのことは知らない」

『魔法使い? 百年前に滅びたとされるあの魔法使いですか?』

「そう、最後の生き残りの魔法使い。」

『マスターは、どちらに』

「知らない」

『なぜ。 …………ああ。 そうでした。』


 急にがくんと俯く。思い出したらしかった。マスターは死んだ、わたしは廃棄だ、と繰り返した。そうして、急に頭を上げる。


『ここはスクラップ工場ですか?』

「いいえ」


 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。パチパチと瞬きを繰り返す様は、機械人形オートマタなどではなく、まるで生きた人間のようによくできている。


「ここは私の家。」

『スクラップ工場ではなく、』

「ではなく、私の家」


 厳密に言えば、ちょっと前に魔力で建てた私の家、になるのだが。細かいことは言わない。もう一度、パチパチと瞬きをして、険しい顔で、機械人形オートマタは言う。


『廃棄対象の所持は罪に問われますよ』

「魔法使いなのに?」

『……魔法使いに法を適用するのは難しいことかもしれませんが。廃棄と決められた物は廃棄しなきゃいけないので、あなたを追って、行政のものがくるでしょう。だから……私を廃棄してください、放棄してください』


 ずい、と私に迫る機械人形オートマタの表情はとても真剣な顔をしている。それでも、一度決めたことは曲げたくないから。


「私は、廃棄したくないし、きみと一緒にいたいんだ。 それが私の望みだよ」


 機械人形オートマタは、本日何度目かになる瞬きを繰り返した。


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