第6話 配信者


ーーー


 「はいはーい、どうも。ニシウリですよいしょ〜 今日はですね、めっちゃくちゃ可愛いドールが届いたんでそれを皆さんに見てもらおうと……あ〜、いま日本大変なことになってますよね〜 まあ自分は色々語れるほどの頭は持ってないんでいつも通りの配信やっていきますわ」


 世界的に普及している動画配信サイトで、水希はトップに上がっている動画を見ていた。急上昇動画は全て今日の出来事を面白おかしく編集したものばかりで辟易へきえきする。

 そんな中、いつもと変わらないテンションでいつもと変わらない生配信を行うこの配信者に水希の沈みきった心は少し救われた。


「日本が大変な時に不謹慎だ」と厳しい言葉を投げかける者もいるが、ニシウリという覆面配信者は「はい無視」と中指を立てて一蹴し、配信を続けた。火に油を注ぐような危なっかしい人だな、と思ったが嬉々として購入したドールを紹介するその姿は今日一日の心の疲れを笑いでほぐしてくれた。


「……って、呑気に動画見てる場合じゃないな」


 水希は生まれて初めて動画の作成ボタンを押した。スマートフォンから今日撮影した動画をアップロードし、必要なトリミングとテロップを施す。

 辿々たどたどしい手つきで動画を編集していると、自室の襖が勢いよく開いた。


「ただいま〜 みーくん〜」


 そこにはベロベロに酔い潰れた母親の姿があった。時刻は夜中の十二時半。スナックで働く母はいつもなら苦手な酒は飲まずにノンアルコールで接客をするはずなのだが、今日は珍しく酒の匂いをさせて帰ってきた。


「おかえり」

「ごめんね。久しぶりに飲んじゃった。みんな暗いんだもん。飲まないと、もうやってらんなくってさ」


 詳細を聞かなくてもどういった理由で飲み屋街までもが暗くなっているか、手に取るように分かってしまう。

 皆、次は自分が死ぬかもれしないという恐怖心を酒の力を借りて一時的に緩和しているのだ。それは目の前にいる母も同じだった。


「母さん、死んじゃうのかなぁ」


 力無く呟く母に、かけてやる言葉も見つからなかった。今自分が発する言葉はどんな台詞よりも軽薄で無責任な気がしたからだ。


「私が死んだら、水希はどうなっちゃうんだろう……」


 自身のその言葉が引き金になり、母は糸がふつりと切れたように泣き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る