くにすらのに

「先輩は私のこと、ただの後輩とか、妹みたいって思ってるかもしれません。でも私は、私は……」


 文芸部の後輩、東雲綾香は頬を赤く染め僕の目を真っすぐと見つめている。

 「でも私は」

 この言葉の続きは彼女の口から出てこない。

 もちろん僕だってこのあとに続く言葉の察しは付いている。

 だけどそれを自分から言う勇気はなく、二人きりの部室に沈黙の時間が流れていく。


「その、やっぱり先輩は、私をそういう風には見れないってことですか?」


 先に沈黙を破ったのは綾香の方だった。

 しかしそれは言葉の続きではなく、質問という形での切り返しだ。


「僕は……


***


 ここまで表示されたところで2つの選択肢が現れた。


「ちょっと! また私が出てるゲームやってるの!?」

「いいじゃん。里菜以外のキャラは攻略してないんだし」


 1人ゲームをたしなんでいたところに妻が慌てた様子で乗り込んできた。

 普段は下ろしている髪をまとめているので洗い物でもしていたのだろう。


「そういう問題じゃないよ。本物がここにいるんだから」


 彼女は僕の耳元にそっと口を近付ける。


「この距離で私の声を聴けるのが、あなたの特権なんだよ?」


 僕が恋したその声に、今日もしっかり心を掴まれてしまった。

 

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