第1話 学園編1
目の前には立派な門。今日から俺が通うことになるヴェルムス学園の正門である。我らが神聖ブルグンド帝国では15歳以上、かつ剣と魔法の実技試験で認められた者たちは学園に通うことができる。
「やっとここまでこれた、、、」
我が帝国領のエリートたちが通うことができるのがここヴェルムス学園だ。そりゃもう入るために頑張った。
前世の記憶を思い出したのが6歳の頃。転生したと気づいた時には強くてニューゲームいけるか!?と息巻いていたが当然ながらそんな甘いことは無かった。家柄は貴族でもなんでもない移民の一家。そして魔力的な才能も極めて平凡。もちろん6歳の子供に身体的な能力も期待することはできない。そんなわけで幼少期は極めて普通に過ごした。もちろんこの世界の知識の習得には努めたし、できる限りの範囲で魔力の鍛錬も積んだ。おかげで同世代の中では優秀なほうではあったが所詮はその程度。噂に聞く勇者や聖女のように幼少期から異才を発揮する、なんてことは欠片もなかった訳だ。
そんな俺に転機が訪れたのは10歳の頃。この世界では平民の子供は家族の仕事を手伝うのが当然なのだが、俺もご多分にもれず両親の仕事を手伝っていた。両親は東方からの移民で貿易商とまでは行かないものの、東方関連の雑貨を仕入れて販売する専門商社兼雑貨屋みたいな商売をしていた。
特になんの代わりもないある日、親に頼まれこの地方最大の商会であるバートン商会にお使いに行った。あとから振り返るとこの日がある意味で俺のターニングポイントになるわけだがそんなことは当時の俺は知るよしもなく。
親に頼まれたお使いを無難にこなした俺はそこで同年代の女の子を見つけた。それがユーナだ。商会のフリースペースで何やら本を見ながら唸っていた。
「どうしたの??」
なんとなく気になった俺は時間的にも余裕があったこともあり何気なく声をかけた。
「ん、、、?誰??」
「僕はサギサワ商会のコウ。今日はお使いで来たんだ。突然ごめんね。なんか困ってたみたいだったから。」
「そうなんだ。私はユーナ。ちょっとこの部分がわかんなくて、、、」
彼女が見せてきたのはどうやらこの世界の学校の教科書のようで簡単な四則演算が乗っていた。
「これは??」
「算数の問題だよ。宿題なんだけどわかんなくて困ってたの。」
「ふーん。。。紙とペンある?」
この出来事がきっかけで俺はユーナと仲良くなった。その後もバートン商会にたまに訪れてはユーナに勉強を教えてあげるという日々がすぎる。
そしてまたある日。
「君がコウ君か!ユーナから話は聞いているよ、いつもありがとう。」
ユーナの親父さんに出会った。この人がバートン商会総帥のヴォーグ・バートンさん。俺の最初のパトロンになる人だ。
ヴォーグさんと話しているうちにどうやら彼は俺に関心を持ったらしい。色んな算数の問題を解かせたり、市場の様子を聞いてみたり、世界情勢に関して聞いてみたりしてきた。(ユーナは退屈そうに足をプラプラしながらクッキーをかじっていた。)
「いや、なかなか面白い子だね!勉強とかはどうしてるんだい?」
「基本的には自習です。たまに両親に教えてもらったりしてますが。うちは学校にいけるほど余裕があるわけではないんで。」
この世界、学校があることはあるが基本的には貴族向け。裕福な平民も通っている。また初等教育の段階では家庭教師を雇うことも多いらしい。平民向けの教育は一般的には家庭内で両親が行いつつ、休日には教師や学がある平民の有志が寺子屋的なものを開催している。俺も基本的には寺子屋で学び、そして家では自習。書物や紙はこの世界では貴重品では無かったので本や教科書は探せば安価で手に入った点は幸いだった。
「そうか。ふむ。。。学校には関心はあるかい?」
「もちろんあります!たださっきも言いましたけどウチにはお金が。。。」
「そうだね。確かに学費は問題だ。サギサワ商会の規模であれば確かに余裕がある訳ではないだろう。」
「そうですね。実はうちの親も学校に行きたいか僕に聞いてくれたんです。ちょっと大変だけど行きたいなら出せないことはないからどうする?って。ただ断っちゃいました。」
「そうか。では奨学金があることは知っているかね?」
「奨学金??そんなのあるんですか?」
「学校によるがね。ある程度以上の才覚がある者に対して機会を提供するためにね。」
そして俺は平民向けの奨学金(返済不要)が存在するヴェルムス学園の存在を知った。あとはひたすら勉強した。自習だけでは限界があったので、ユーナの学校の教科書を見せてもらったり、ヴォーグさんの厚意でユーナの家庭教師の先生に教えてもらったり。これで苦手だった魔法もそれなりに使えるようになった。
そしてあっと言う間に15歳になり、そして晴れて今日ヴェルムス学園に入学する。
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