第2話

… 僕が美男子何だからブスが美女か …



「地獄だぁ~~」



思わず声が出た。するとスマホが鳴り出す、着信にはユミカと出た。メールを解読した結果、彼女と判明した子だ……当然の事ながらブスである。



「こいつとはまだ接触を避けよう」



僕は居留守を使い電話を回避した。


 最初の難関は彼女と別れることだ…記憶喪失で逃げ切るにしてもまだ話しづらい…すると、またスマホが鳴る。


 今度はニジTV美麗と画面に出た。



… テレビか…これを利用して記憶喪失を大々的に宣伝するか、いろいろ動きやすくなりそうだ …




「もしもし…」



「ちょっと!心配したじゃない!!いったい今まで何してたのよぉ!」



いきなり、怒られた。まぁ本気で心配してくれたんだと言う事は解る…この人は僕の味方になりそうだ、声の感じからして中年の女だ。



「ちょっと待って下さい!まず落ち着いて下さい」



「……何それ…?よそよそしい話し方……まさか、本当に記憶喪失だったの????」



「そっそうです…それで、その…力になって貰いたいんです」



「まさか……私の事もわからないの…」



眉間にシワを寄せて、亮介が自分を忘れた事の怒りに震える美麗。


 電話だが、声のトーンに怒りを感じとる亮介。



「げっ……すっすみません」



亮介が逃げ無いよう怒りを抑えて冷静な素振りで話す美麗…



「今どこ?」



「マンションです…」



「すぐに行くわ」



… あいつ、私を忘れただって!ふざけやがって…許さん、おもいっきりぶん殴って思い出させてやる …





思ったより、早くに美麗さんがやって来た。



亮介が玄関を開けて、わざわざありがとうございますと言い切る前に腰の入った重いパンチをかまされる!



「いってぇ~~!!!」



「ごめんねぇ~! 理由はどうあれ私を忘れるとは許さん」



なおも殴り掛かる美麗、ボクシングで鍛えた亮介は美麗のパンチをことごとくかわして、後ろから抱きついて取り押さえた。



「ちょっとー、放しなさい!もう殴らないから」



「本当ですね…放しますよ…ビックリしたなぁ~もう」



「その痩せかた……本当に記憶喪失だったの…」



ボクシングをやっている僕の体は引き締まっている、こっちの僕との違いだ…僕を知ってれば痩せたと思う、それが幸いして精神病の信憑性に繋がった。



「ろくに食べて無かったから…」



「う~ん、取り敢えずショック療法は効かなかったわね」



… 嘘つけぇ~!!!ムカついて殴りたかっただけだろう!この人、味方で大丈夫かな …



「………」



「何…なんか不満そうねぇ」



… 当たり前じゃボケェ~~!とは言えず、へつらう僕なのだ …





「家に戻って来たって事は記憶も多少戻ってるの?」



「自分の名前は分かったんですけど…知り合いや友達とか家族もわからないです」



「日常生活に支障はないの?」



「それは大丈夫です」



「それと……言いにくいんだけど貴方に家族は居ないの施設の出身よ」



「そっそうですか…」



「なんか…気弱になったわね。前のあんたは俺には、友達など居ない“居るのは敵と手下だ”ってよく言ってたわよ」



… 何だそりゃ、やっぱ僕性格悪いんだこっちでも…前の世界では虐げられてるからだと思ったけど、本質的に悪いとはライトにショック! …



「なんでそうなったかも、わからないよね…」



「……はい」



しばらく沈黙が続いた…美麗は何か考えているようだ。



「今日は、もう帰るけど明日朝イチで脳の検査するわよ…ちゃんと用意しといてね」



「…それより、テレビで無事な事報告したいんだけど」



「はぁ~~! 何のためよ…ファンサービスならSNSで十分でしょ!それじゃ明日」



… ちっ、こいつ生意気だなぁ!今度お仕置きしよ…どうせ性格悪いって思われてるだろうし…くそぅ~~テレビ出たかったな …




美麗が帰ってちょっとしたらチャイムが鳴ったモニターを見るとユミカだ。



「げっ…来やがった」



… どうする……電話でも居留守だしそのまま居留守にするか …



ユミカがインターホンに怒鳴り出した。



「美麗ちゃんに聞いて居るのは分かってるのよ!開けなさい!」



… あのババア、やっぱ敵だな。ちっ、仕方ない話すか …




僕は居留守を諦めてユミカと話す事にした。



「お邪魔します…」



「どうぞ」



部屋を見渡すと、僕に振り向き話し出した。



「貴方…1ヶ月何してたの?部屋は特に変わって無いけど…」



来た、質問!…このまま質問責めかな…だからまだ会いたくなかった。



美意識逆転の世界で僕が楽しく生きる秘策、記憶喪失になり脳に軽い障害を受け美意識が逆転。要するに僕は障害でこっちの世界とは真逆のセンスになってしまったと言う設定だ。



「正直…まだ記憶は曖昧なんだ」



「美麗ちゃんに名前以外記憶が無いって聞いたよ」



「すまない…君の事も、その…」



「いいよ、仕方ないじゃない。気にしないで」



… おっ…? 何だこの感じ…普通は美麗みたいに怒るんじゃないの? いや、美麗みたいに怒る方が異常かぁ? …




ユミカは真っ直ぐ亮介を見つめると以外な事を言い出した。




「ごめんなさい…私達、別れましょう …それが、お互いのためだと思う…」



? ? ??



「えっ…今なんて?」



「私達、まだ付き合って1年ぐらいだし…傷は浅いうちが良いと思うの」



想像と違い過ぎて考えがまとまらない、僕にユミカが説得を始めた。



「貴方は私を忘れた…そんな貴方のそばに居るのは辛いの…」



… なんか知らんが、願ったり叶ったりだぞ …



「貴方も誰だか分からない女が彼女だって言って来ても、迷惑でしょ?」



「そっそんな事は…」



… げっ、しまった! つい口が滑って心にも無いのとが……彼女の気持ちが変わったらヤバい! …



「まぁ確かに私みたいな美女に突然彼女ですって言われたら嬉しいかも知れないけど…」



ブスの上から発言はムカつくが、こっちの世界では彼女が美女だから仕方ないが、違和感がエグい。



「貴方ならいつでも素敵な彼女を作れるよ…それだけの男前なんだから…そうでしょ」



ユミカの問いにニヤけて答える僕…



「いやぁ~~どうかなぁ~~」




「でも、かといって記憶障害の貴方を見捨てたと世間に思われるのはちょっと嫌なの」



「んっ…?」



「今まで築き上げてきた好感度を落とすのはイヤなの!」



… やだやだ、わがままな女だな、どうしたいってんだ …



「ニジTVで貴方のパートナーを決める番組やらない?実際はパートナーと言うか記憶障害の貴方をフォローしてくれるサポーターの女性、それを決めるの!」



「僕のサポーター…」



「もちろん、気に入ったら彼女にしてもセフレでも構わないのよ。審査員は私達だから」



「TVで……あっ、それって美麗がプロデューサー?」



「そうね美麗ちゃんがプロデュースすると思うよ」



… 企画のついでに、あのババアいじめてやるか …





難航すると思われたユミカとの別れは簡単にすんだ… 何か野心の強い女だな、何であんなのと付き合ってたんだこっちの僕は、同じブスでも性格良い子にしないと。



 ユミカは僕が素直に別れると分かると本音を少しずつ話し出した。




「正直、貴方と付き合ってから男人気ががた落ちしてたの…浮気される女ってのも気に入らなかったし…」



ユミカは、こっちの僕が浮気してたのを知っていたようだ…もしかしたら前から別れる事を考えていたのかも知れない。



「貴方は浮気者なのよ」



「いや、記憶ないし…でも、そんな事ないと思うけどなぁ~」



「まぁ、それはどうでもいいけど…こういったオーディション企画はウケるのよ」



「とにかく、僕にとっては新しい人生のスタートだ」



「…新しい?」



「えっ、いやぁ~記憶を失くして生まれ変わったみたいな意味…」



「そうね、お互い頑張ろう」



頑張るか、いったいユミカは何を目指してるんだろう…ブスに興味は無いが凄く気になったので聞いてみた。



「ユミカは何を目指してるんだ?」



「本当に…記憶無いんだね……」



… なっ何で、そんな悲しそうな目で僕を見る …




ユミカは、目標を聞かれた事で改めて僕の記憶喪失を認識したのか僕を見つめる目は悲しくうつむいた………でも結局、ブスが際立つ。



でも僕は、本当は記憶が無いじゃなくて別の僕なんだけどね…だが、そうは言わない。


 神様に口止めされた訳じゃ無いけど、別の世界から来たって言っても良いのか聞いたら“構わないがキチガイと思われるぞ”って言われた。



告白にメリットは無い、あるのは自分にマイナスの事だけだ…そんな事を考えているとユミカが話し出した。




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