第202話 海龍ダンジョン①

 翌日早朝、玄関に向かうと、ちょうど外に出るタイミングが華と被った。


「今日も宵月に行くのか?」

「うん! 昨日と同じで、新規ダンジョンの調査の続きだよ」

「なるほど」


 ダンジョンは出現した後、しばらくの間、中のギミックを確かめるための検証が行われる。

 昨日の調査一回だけでは、まだ足りなかったのだろう。


 ……ん、待てよ?


「そういやあのダンジョンのエクストラボスは24時間周期で復活するって言ってたけど、今日も戦うつもりなのか?」

「もちろん! せっかくスパンに関係なく討伐報酬をもらえる機会だもん、逃すはずないよ!」

「そうか」


 華たちが順調にレベルアップしてくれるのは、俺としても望ましい。

 ただ――


炎の獅子イグニス・レオだったか。昨日は無事に勝てたとはいえ、格上であることには変わりないんだ。決して油断するなよ」

「ぜんぜん平気っ! お兄ちゃんは大船に乗ったつもりでいてね!」

「あのな……」


 余裕を見せる華にどう注意を呼びかけようかと思ってると、華は笑みを真剣な表情に変える。


「本当に大丈夫だから。心配しないで、お兄ちゃん。これまでお兄ちゃんが強い相手と命がけで戦うところを何回も見てるんだもん。それなのに油断なんてしたりしないよ」

「……そっか。ならいい」

「うん!」

 

 言われてみれば、それもそうだ。

 華たち四人は、全員が命を失う危機を経験してここにいる。

 冒険者としての覚悟と意識が欠けている奴はいないだろう。


 心の中でほっと安堵の息をついていると、華が尋ねてくる。


「そういうお兄ちゃんは、宵月には行かないの?」

「ああ。今日は直接目的地に向かう」

「目的地って……どこ?」


 そう訊いてくる華に、俺は答えた。


「Aランクダンジョン――海龍ダンジョンだ」



 ◇◆◇



 数時間後。

 俺は目的地である海龍ダンジョンの前に到着した。


 そこで俺は、ダンジョンの中へと続くゲートを見ながら呆然と呟く。


「……話には聞いていたが、すごい光景だな」


 これまでに見てきた町中に出現するゲートとは違い、海龍ダンジョンのゲートはなんと海面・・に存在しており、その先が真っ白な魔力で覆われているせいで何も見えなくなっていた。


 通常、ダンジョンは地中と置換され出現すると言われている。

 そんな中、ここ海龍ダンジョンは海と入れ替わっている・・・・・・・・・・のだ。

 これを聞くだけで、その壮大さが分かることだろう。


「それじゃ、さっそく挑むとするか」


 俺はそう呟き、海龍ダンジョンへのゲートを潜るのだった。




 ――――海龍ダンジョン。

 日本全土に存在する12個のAランクダンジョンのうち、最も攻略が難しいとされているダンジョン。


 その理由は、ダンジョンの中に入るとすぐに判明した。


「……すごいな。これが本当にダンジョン内の風景なのか」


 視界には、一面に広がる巨大な海が存在していた。

 広がる海の中には、現実ではありえないであろう足場が所々存在しており、そこを歩くことでなんとか前に進むことができる。

 こういった摩訶不思議な光景が広がるのもまた、フィールド型ダンジョンの仕組みと言えるだろう。


「思えば、フィールド型ダンジョンを攻略するのはこれが初めてになるのか……いや、イフリートがいたボス部屋も一種のフィールド型だったかな」


 イフリートと戦った時の光景を脳裏に思い浮かべる。

 部屋には草花が咲き乱れる庭園が存在し、大きな池が設置されていた。

 さらに室内だというのに夜空が広がり、満月が存在するという特殊な状況。

 あそこはボス部屋限定でのフィールドだったが、この海龍ダンジョンはダンジョン全体がそういった仕様のようだ。


「そう考えてみると、普通のダンジョンと比べるよりはむしろ【隔絶の魔塔】の方がイメージには近いかもしれないな」


 あそこはエクストラダンジョンだったため一概には比べられないが、階層全てが特殊なギミックを持ったフィールド型ダンジョンと呼んでも差し支えないだろう。


 ――そう、ここで気にかけておかなけれならない点が一つある。

 フィールド型ダンジョンの特徴として、特殊なギミックを有する場所が多いのだ。


「当然、ここ海龍ダンジョンもその中の一つ」


 視界いっぱいに広がるゴールの見えない・・・・・・・・海を見渡しながら、俺は事前に集めておいた情報を思い出すのだった。

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