第196話 同行のお願い

 宵月にやってきた俺は、さっそくギルドマスター室に向かった。

 無事に治療が済んだことや、ついさっき冥獣ダンジョンの迷宮崩壊ダンジョン・コラプスを解決したことなどについて報告するためだ。


 最後まで報告を聞き終えたギルドマスターは、こくりと頷く。


「報告ご苦労。迷宮崩壊については既に連絡が来ていたから知っていたが……それにしたってよくケルベロスを倒せたな。レベル的にはイフリートと同等だったんだろ?」

「はい。ですがイフリートと違って相性は悪くない相手でしたし……何より、俺もあの時とは違って成長しましたから」


 カインとイフリートを倒したことによるレベルアップはもちろん、【全景支配ピース・ルーラー】という新たな力と、治療を重ねるうちに身に付いた魔力感知能力。

 これらを手にしておきながら、今さらあのクラスの敵に敗北することなど許されない。

 ……本気で最強を目指すためには。


 そう考えての返答だったのだが、ギルドマスターは少し呆れたような表情を浮かべる。


「あれからそんな時間も経っていない中で何を言ってんだってツッコみたくなるところだが……それがお前だったな」

「それが、とは?」

「いや、いい、気にすんな」


 どこか俺の問いを煙に巻くような態度で、ギルドマスターは手をしっしと振る。

 まあどうしても訊きたいことではなかったので、特に気にする必要はないだろう。


 それより……


「ところで、今日クレアはいないんですか?」


 俺がクラシオンを出てその足で宵月までやってきたのは、報告もそうだが、それ以上にクレアに会うことが目的だった。

 というのも少し前、彼女が俺に告げた言葉が関係する。


 クラシオンに向かう前、俺は彼女にこう問いかけた。

『クレア。もしかして君も、スパンの影響を受けないのか?』――と。


 それに対するクレアの返答は、半分正解で半分不正解というもの。

 そしてその理由について教えてもらえるのは、俺の治療が終わってからという話になった。

 色々とイレギュラーがあってかなりの時間が経ってしまったが、ようやく教えてもらえる日がやってきたという訳だ。


 そんな考えからの問いだったが、ギルドマスターは首を横に振った。



「クレアなら、今日はまだ来てないな。何でも、少し用事があって冒険者協会本部に寄ってから来るって言ってたが」

「どうりで、姿を見なかったんですね」

「まあ、あと数時間もしないうちに来るとは思うが。アイツに用事があるんなら、待機所か休憩室で時間を潰すといい。お前自身、迷宮崩壊を解決したばかりで疲れてるだろうからな」

「……そうします」



 これでひとまずの用事は済んだ。

 俺は一度頭を下げ、ギルドマスター室を後にする。

 そしてそのまま、ギルドマスターの提案通りに待機所へと向かった。


 すると、


「……凛?」

「やっぱり、皆いたのか」


 そこには、ゆっくりとくつろぐ零たち四人の姿があった。

 真っ先に反応した零につられるように、華、由衣、灯里の三人もこちらに視線を向けた。


「お兄ちゃん、こっちに戻ってきてたんだ」

「ついさっきな」

「ってことは、体の調子はもう大丈夫なのね?」

「ああ、もう万全の状態で動けるくらいにはな」


 華と灯里の質問に答えていると、いつの間にか立ち上がっていた由衣が奥の方から更に乗ったお菓子を持ってくる。

 皆が食べているのと同じものみたいだ。


「おかえりなさい、凛先輩。これ食べますか?」

「ああ、ありがとう……っと、そうだ」


 お菓子を受け取りながら、由衣には話したいことがあったためそのまま続けて言う。


「ここに来る途中、由衣の妹と会ったぞ」

「……へ? 妹って、紗衣のことですか? ど、どうしてそんなことに?」


 困惑したような表情を浮かべる由衣。

 まあ、そうなるか。


「ただの偶然なんだけど、少し体調が悪そうなところに出くわして病院まで付き添うことになってな」

「さ、紗衣は大丈夫だったんですか!?」

「ああ、そこは心配しなくていいと思う。どちらかと言うと、俺のお節介だった気もするし」

「そうだったんですね……ならよかったです。あっ、凛先輩も。妹を心配してくれてありがとうございます!」


 笑顔で礼を告げる由衣。

 彼女と紗衣の笑みが重なって見え、二人が姉妹であるということを強く実感する。


 そして、そんな風に言葉を交わす俺と由衣だったのだが……


「……む、家族への紹介イベント。まさか由衣に先を越されるとは」

「零、アンタいきなり何言い出すの?」

「あはは……なんだかこんなやり取りも見慣れてきた気がしますね」


 俺たちのやり取りを見て、零たちもまた各々の反応をするのだった。


「そうだった……ねえ、凛」

「ん? なんだ?」


 しかし直後、零が何かを思いついたかの様子で俺の裾を引っ張る。


「凛はこの後、時間ある?」

「そうだな……」


 クレアが来るのを待たなくちゃいけないけど、ギルドマスターの発言的にもう少しはかかりそうだし。


「1~2時間くらいなら大丈夫だと思うけど」

「そう。ならちょうどよかった」


 俺の返答を聞いた零は、少しだけ楽しそうに笑いながら言った。



「これから、わたしたち四人でダンジョン攻略に行く。よかった凛もついてきて」

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