第190話 冥府の番犬

「ダンジョン内転移」


 ダンジョン内転移を連続発動し最下層に向かう中、俺は先ほど七海さんから言われた言葉を思い出していた。


 Aランクダンジョン【冥獣めいじゅうダンジョン】。

 最下層の60階層で待ち受けるは、討伐推奨レベル40000のダンジョンボス――オルトロス。

 二本の首を持ち、炎を自在に操る強力なAランク魔物だ。


 ただでさえ強力なその魔物は、迷宮崩壊時ということで、通常の何倍もの強さを得ているはずだと七海さんは言っていた。


 ただ――



『とはいえ、他のダンジョンのように10倍などということはまずないだろう。魔物が強力化するパターンは幾つかあるが、その中でも頻出なのは二つ。他の魔物の死体を魔石ごと喰らう――通称【魔物喰い】によってレベルが上昇するパターン。そして今回のように迷宮崩壊時の魔力を吸収し強くなるパターン。ただ共通しているのは、強力化には一つの限界があるということだ』

『限界?』

『ああ。多くの魔物に共通していることだが、どれだけ強力化しようと討伐推奨レベルが10万を超えることはまずない。ごくまれにその限界を超えるものもいるが、少なくともには現れない。もしかしたらそれ自体が魔物の限界なのかもしれないな』

『………………』



 確かに、思い返してみると、あの日戦ったイフリートも10万レベルだった。

 あれが一つの限界だと七海さんは言っているのだろう。

 しかしそれは逆に言ってしまえば――


「……10万までは、普通にいくってことだよな」


 転移を重ね、辿り着いた最下層。

 ボス部屋はすぐに見つかった。

 俺が足を踏み入れると、巨大な扉がズズズと音を立てながら閉じていく。


 そして、は現れた。



 闇をどこまでも濃く煮詰めたかのような漆黒の毛皮で覆われた巨躯きょくは、ただそこにあるだけで尋常ならざる威圧感を放っている。

 そして狩猟者が獲物に向けるかのごとく、の眼光が鋭く俺を射抜く。

 常人ならば、殺気に満ちたその視線を受けるだけで膝が崩れ頭が空っぽになることだろう。

 それほどまでに圧倒的なオーラを纏っていた。



 そんな中、俺は小さく笑い、鑑定を使用する。



 ――――――――――――――


【ケルベロス】

 ・討伐推奨レベル:100000

 ・ラストボス:冥獣ダンジョン


 ――――――――――――――



「……なるほど。レベルだけじゃなく、姿かたちまで変わったわけだ」


 Sランク魔物、ケルベロス。

 あの日戦ったイフリートと同等の実力を誇る、圧倒的格上。

 今の俺が、この強敵に勝てるだろうか――


「……いや、違う。そうじゃない」


 ――思い出すのは、彼女クレアの背中。

 俺はあの日、高みを見た。

 Sランク魔物さえ一蹴してしまう程の圧倒的な力を。


 強くなりたいと思った。

 追いつきたい、追い抜きたいと思った。

 そう、彼女に誓った。

 だから。


「悪いが、こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ」


 たとえ俺が、どれだけこの強敵に劣っていたとしても。

 それで退くことはありえない。

 ただこの衝動に従うままに。

 強さを求めるままに。

 死力を尽くし、この壁を乗り越えてみせよう。



「さあ――いくぞ」



 そして俺は、力強く一歩を踏み出した。



 ――――――――――――――


 天音 凛 19歳 男 レベル:44286

 称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)・賢者の意思を継ぎし者

 SP:29250

 HP:348400/348400 MP:94060/94460

 攻撃力:80300

 耐久力:68780

 速 度:82900

 知 性:72470

 精神力:68370

 幸 運:70040

 ユニークスキル:ダンジョン内転移LV30・略奪者LV1

 パッシブスキル:身体強化LV10・剛力LV10・忍耐LV10・高速移動LV10・精神強化LV10・魔力回復LV2・魔力上昇LV10・状態異常耐性LV4

 アクティブスキル:金剛力LV10・金剛不壊LV10・疾風LV10・不撓不屈LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・纏壁LV5・浄化魔法LV1・索敵LV4・隠密LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV8・隠蔽LV1


 ――――――――――――――


【ダンジョン内転移LV30】

 使用MP:1MP×距離(M)

 条  件:全てのダンジョン内に対して転移可

 転移距離:最大で1000メートル

 発動時間:0.2秒×距離(M)

 対象範囲:発動者と発動者が身に纏うもの


【派生スキル:瞬間転移タイム・ゼロ

 100MPを使用することにより、半径20メートル以内なら0秒で転移可。


【派生スキル:全景支配ピース・ルーラー

 発動対象に含まれる魔力と同量のMPを消費することにより、視界に映るものを転移させることが可能。人や魔物、およびそれらが身に纏っているものに対しては使用不可。

 継続時間:10秒

 クールタイム:10時間


 ――――――――――――――


無名の騎士ネームレス・ナイトつるぎ

 ・無名の騎士が装備していた剣。

 ・装備推奨レベル:10000(MAX)

 ・攻撃力+100%

 ・敵のレベル(討伐推奨レベル)が自分より高かった場合、HPとMPを除くステータスの全項目を+100%。


 ――――――――――――――


魔奪まだつ短剣たんけん

 ・隔絶の魔塔を制覇した者に与えられる報酬。

 ・装備推奨レベル:32000

 ・攻撃力+72%

 ・刃に触れた魔法を、魔法発動時と同量のMPを消費することで吸収することができる。吸収した魔法を発動することも可能。その際にMPは消費しない。

 ・保管可能数:最大で7種類。


 ――――――――――――――


吸血きゅうけつ短剣たんけん

 ・装備推奨レベル:40000

 ・攻撃力+60%

 ・敵(人・魔物)を切り裂いた際、刃に触れた血液を吸収することができる。吸収した血液に含まれる魔力を、HP、MPに変換することも可能。


 ――――――――――――――


 終焉をもたらす者(ERROR)

 ・ラストボスを単独ソロで討伐した者に与えられる称号。

 ・ラストボスと戦闘時、ステータスの全項目が+30%。

 ・ERROR発生。条件の一部が満たされていないことを確認しました。再び条件を満たすまで、この称号の効果は発揮されません。


 ――――――――――――――

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