第183話 四者四葉
華たちがいるという訓練場に足を踏み入れた瞬間、と歓声が沸いた。
「おおっ、宵月が勝ったぞ」
「模擬戦とはいえ、まさか2000レベルで3000レベルを倒すとは驚きだ」
「とんでもないスキルだな、あの剣」
部屋の真ん中には、その場に立ち尽くす零と、座り込んでいるクラシオンの男性がいた。
周囲の言葉を聞くに、どうやら模擬戦をして零が勝利したらしい。
その手には、ゆらゆらと揺れる黄緑色の刀身が特徴的な剣が握られていた。
零が保有するユニークスキル【魔法剣】だ。
すると、零は俺に気付く。
「凛、来てたんだ。体の方は?」
「少しはマシになった、ってところかな。軽くなら動けるよ」
「そっか。ならよかった」
「それより聞こえたぞ。3000レベルの相手を倒したんだって? 凄いな」
「……あ、ありがとう」
零は真正面から褒められたことに対し、恥ずかしそうにしながら礼を言う。
俺は小さく笑った後、彼女が手に持つ剣に視線を向けた。
「確か、想像した剣を生み出せるんだよな?」
「うん」
「……改めて思うが、本当に優秀なスキルだな」
剣の形ならば、どんなものでも創造できる力。
その性能の良さを改めて認識していると、零は首を横に振った。
「そこまで凄い物じゃない。スキルレベルや使用MP量によって、生み出せる物には限界がある。生み出せたとしても、今のわたしのステータスじゃ扱えないことだってある」
「まあ、それもそうか」
零の言う通りだ。
本当にどんな物でも生み出せるなら、レベルという概念を超えて、遥か格上にも通用する力だということになる。
しかしオークジェネラルに敗北しかけていたことからも分かるように、そこまで万能な力ではないんだろう。
あれ?
そういえば、あの時は?
「けど、カイン戦の時はどうだったんだ? 思い返してみたら、あの時の零の動きは、明らかにレベルのそれを超えていた気がするんだが……」
俺がカインにトドメを与える直前、彼女の振るった刃がカインを食い止め、俺は九死に一生を得た。
あの時、零は明らかに限界を超えた動きをしていた。
あれはいったい何だったんだろう?
本人自身もよく分かっていないのか、あごに手を当てたまま考え込む。
「あの時は……無我夢中であまり覚えてない。ただ、あのままだと凛が死ぬって分かった瞬間……強く、ただ強く届いてほしいって願ったの」
「……それに、スキルが応えてくれたと?」
「……うん。きっとそう」
……なるほど。
想いに応える力、か。
ということは、もしかしたら零のスキルにはまだまだ先があるのかもしれない。
本人すら自覚していない、特別な何かが。
思ったままのことを零に伝えてみると、彼女は魔法剣をじっと見つめる。
「わたしの知らない……限界を超えた、特別な力」
その呟きには、どこか希望のような感情が込められているように聞こえた。
と、そんな風に二人で話し合っていると――
「零先輩! 全然うまくいかないです! ってあれ? お兄ちゃん来てたの?」
「来てたよ」
きょとんとした表情を浮かべる華の手には、ブォンブォンと不規則に揺れる何かが握られていた。
というか、これはまさか……
「華、手に持ってるのは何だ?」
「魔法剣だよ! 零先輩からコピーしたんだ!」
どうやら華のユニークスキル【
確かカイン戦で得たSPを使い、スキルレベルが5までならコピーできるようになっていたはず。
零の魔法剣がレベル5以下なことには少し驚きだが、優秀なスキルであればあるほど、レベルを上げるSPが必要となるため、なかなかレベルが上がらない。
LV10までのダンジョン内転移とは、まったく格が違うということだろう。
いずれにせよ、華が魔法剣をコピーできるのはありがたい。
これでより一層、強固なパーティーになることだろう。
まだ全然使いこなせてないみたいだけど。
華に泣き付かれた零は、苦笑しながら答える。
「このスキルを使うには、イメージがとても重要。だからこそ、最初は具現化するのがすごく難しい」
「零先輩もそうだったんですか?」
「もちろん。ちなみに、2本以上の具現化は慣れるまで止めておいた方がいい。背反する属性の2本が間違えて混ざった日には、反発してすごいことになる。というかなった。爆発こわい」
「爆発したんですか……」
「したみたいだな……」
まあ、気持ちは分かるよ。
オタクは誰だって一度は二刀流に憧れるからね。
そんなやりとりを終えた後、レクチャーが始まった二人を置いて辺りを見渡す。
由衣はどうやら、クラシオンの先輩冒険者からヒーラーとしての心得を聞いているみたいだ。今は声をかけない方がいいな。
となると、残るは灯里だが――
「ええぇ……」
何故だかは不明だが、部屋の片隅で体育座りをしていた。
再会してから、こんなんばっかだなアイツ。
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