第181話 二人目の邂逅

 翌日。

 ギルド【クラシオン】にやってきた俺たちは、目の前の光景に息を呑んでいた。


「……なるほど、これが上位ギルドか」


 そこにあったのは、大企業のオフィスかと見紛う程の巨大な建物だった。

 クラシオンは大規模かつ、実力ある冒険者が揃うギルド。

 だからこそ、これだけの資金があるのだろう。


「では、行きましょうか」


 クレアだけは既に何度も来たことがあるらしく、うろたえず中に入っていく。

 残された俺たちは顔を見合わせた後、遅れて彼女に続いた。



 受付を終え、ギルドマスターが待っているという部屋まで案内される。

 中に入ると、白色の壁に囲まれた殺風景な様子が目に飛び込んできた。

 部屋の大きさといい、内装といい、訓練室か何かなのだろう。


 ただ一つ、問題があるとすれば――


「中には誰もいないみたいですね?」

「うん。まだ来ていないのかな?」


 華と由衣が、率直な感想を漏らす。

 俺も同じ疑問を抱いていた。

 ギルドマスターが待っているという話だったのに。

 もちろん由衣の言う通り、まだ来ていないだけの可能性はある。

 むしろそっちの方が高いだろう。

 ただ、俺は室内からどこか異様な何かを感じ取っていた。


 ……何かが、隠れている?


 そう思った直後、


「ッ!」


 何かが急速に接近する気配を感じた俺は、素早い足運びで、華たちを庇うように立つ。

 その時、視界の隅にクレアの姿が映った。

 彼女は何も行動を起こしていない。


 ……なるほど、そういうことか。


 納得する俺の前で、は突如として色を帯びた。

 突如として前方に赤色の槍が出現したかと思えば、凄まじい勢いで俺たちに迫ってくる。


「――――っ」

「下がりなさい!」


 瞬間、驚異的な反応速度で、零と灯里がそれぞれ剣と盾を召喚するのが背中越しに分かった。

 二人はなんとか槍を迎撃しようとするも、僅かに間に合わず――


「お兄ちゃん!?」

「凛先輩!」


 遅れて状況に気付いた華と由衣の声に応えるようにして、槍は俺の喉元寸前で動きを止めた。

 そして一秒も経たないうちに、跡形もなく消えていく。


「消えた……?」

「今の、なんだったのよ」


 俺とクレアを除く四人が、状況を理解できずあっけにとられる中、どこからともなくパチパチパチと拍手の音が聞こえた。

 俺たちは反射的に音のした方へ視線を向ける。

 すると先ほどまでは誰もいなかったはずの部屋の中心には、一人の女性が立っていた。

 得意げかつ楽しげな表情からは、どこか活発な印象を覚える。


 彼女は笑いながら近づいてくる。


「魔力の乱れに反応できた者が一名、視認してから反応できたのが二名、それにも及ばなかった者が二名……うん、だいたいは把握できたかな」


 その呟きに対し、クレアが反応する。



「……七海さん、相変わらず趣味が悪いですよ。それに凛くんの状態は事前に説明していたはずです。もし彼が魔力を使って、体調が悪化でもしていたらどうするつもりだったんですか?」

「そうなったら謝罪せざるをえなかったろうね。もっとも、クレアくんが興味を持つくらいさ。そうはならないと確信していたよ。現に彼は攻撃に気付くだけでなく、君の反応を見て意図まで把握していた様子だったしね」

「……はあ、七海さんは変わりませんね」

「もちろん、人はそう簡単に変わらないさ。しかし君は……そうでもないみたいだけどね」

「? 今、何かおっしゃいましたか?」

「いやなに、クレアくんの白銀の髪はいつ見ても綺麗だなと言ったんだよ。後でじっくり触らせてもらってもいいかな?」

「……ちょっと気持ち悪いので嫌です」

「ふむ、つれないところも変わらないか。さて、積もる話はまた後でするとして……」



 そこでようやく、その女性はこちらに視線を向ける。

 そして再度、ある意味で憎たらしいともいえる不敵な笑みを浮かべ――


「やあ、初めまして。私の名前は七海ななみ 静香しずか。ここ【クラシオン】のギルドマスターを務めると同時に、日本で10番目のSランク到達者さ」


 ――邂逅一番(誤字ではない)で攻撃を仕掛けてきたその女性――七海 静香は、ウィンクしながら言う。


「これから、よろしく」


 彼女は俺にとって出会うのが二人目となる、Sランク――10万レベル超えの冒険者だった。

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