第180話 次の目的地
ギルドマスター室につくと、中には見知った顔が二つ並んでいた。
ギルドマスターと八神さんだ。
そういえば、八神さんと会うのはカイン戦以来か。
かなり事後処理を押し付けてしまっていたようだし、感謝を伝えておきたいところだ。
しかし俺が行動に移すよりも早く、八神さんが口を開く。
「久しぶりだな、天音。怪我の方は大丈夫か?」
「はい。一応こうして動く分には。それから、各所への説明などを受け持ってくれていると聞きました。ありがとうございます」
「……その程度、こちらが受けた恩に比べれば大したことはない。一度ならず二度までも、君に仲間を命を救ってもらった。心から感謝する」
「っ」
頭を深く下げる八神さん。
予想していなかった行動に驚く俺に向かって、八神さんは続ける。
「それから、この機会に謝りたいことがある」
「謝りたいことですか?」
「ああ。合同攻略の際、君に向けていた態度のことだ。あの時はすまなかった」
合同攻略か。
あれからまだ一か月も経っていないはずなのに、随分と昔のことのように思えてしまう。
確かにあの時、八神さんは俺に対して警戒心を抱いていた覚えがある。
今の今まで、すっかり忘れてたけどな。
あの時の態度に対して思うところは特にないが……一つだけ気になることはあった。
「ちなみに、どうしてあそこまで俺を警戒していたんですか?」
「……剣崎ダンジョンで起きた迷宮崩壊のことを覚えているか?」
「はい」
覚えているも何も、現場にいたくらいだからな。
それが何か関係しているんだろうか?
「迷宮崩壊後、現場で待機していたうちの者たちからの報告に、君の名前があった。たった一人、制止を振り切ってダンジョンに入っていった奴がいたとな」
「…………」
「あまりにも不可解な行動。冒険者としての規律を乱す判断。その出来事を知っていたからこそ、そんな奴がギルドマスターやクレアさんから信頼を得ているという事実が理解できず、さらには共にダンジョンを攻略しなくてはいけないと聞き、警戒していたのだ」
……なるほど。
確かにあの時、救援に来たのは宵月のBランクパーティーだった。
俺の行動が他のメンバーに共有されていたとしてもなんら不思議ではない。
それを踏まえて考えると、八神さんの行動は至極当然だ。
どちらかというと、責任は俺にあると言えるだろう。
当時の八神さんの考えが分かって、ようやく腑に落ちた気がした。
「そういうことだったんですね」
「ああ。今となっては、なぜダンジョンに入っていったのかは察している。あの日、ラストボスを倒して黒崎を救ったのは君だったんだろう?」
「はい、その通りです」
「……やはりな。ハイオーガとの戦いもそうだったが……それ以上に、あの異世界人との戦いを見て理解した。君はこれまでに数々の強敵と戦い、多くの命を救ってきたんだろう。どおりで、黒崎や葛西が君のことを手放しに褒めるわけだ」
「……ど、どういたしまして?」
なんと返していいか分からず、少し気の抜けた返答になってしまった。
八神さんの言葉に少し気恥ずかしさを覚えていると、違う声が飛び込んでくる。
「さて、二人の話が終わったところで、今後のことについて話そう。クレア、説明を頼む」
「分かりました」
三人の視線を一身に受けた状態のまま、クレアは話し始める。
「用件は一つ。凛くんの状態についてです。凛くんは現在、外傷などは癒え日常生活には問題ないものの、魔物との戦闘は行えないという状態です。自然治癒では一か月ほどかかってしまうのですが、とある方法を使えば三日ほどで完治できるはずです」
「っ、本当か?」
「はい」
俺の言葉に対しクレアは頷く。
それが本当なら、ダンジョン攻略に復帰できるタイミングが早くなる。
できるだけ早く、その方法を試したいところだ。
そんな俺の気持ちが表情から伝わったんだろうか。クレアは小さく微笑んだ後、その答えを告げる。
「私の知り合いを頼ります」
「知り合い?」
「ええ。治癒魔法に長けていて、外傷だけではなく、現在の凛くんのような状態も癒すことができる方です。名を
「七海 静香……って、もしかしてSランク冒険者のか!?」
「はい、その方です」
予想もしていなかったビッグネームに驚いていると、クレアは続けて言う。
「その方に私からお願いしたところ、凛くんの治療を快く受け入れてくれました。というわけで、さっそくですが、明日から七海さんがギルドマスターを務めるギルド【クラシオン】に遠征へ行くことになりました」
「本当に急だな……けど、ありがたい」
俺の体を治してもらえるのももちろんだが、このタイミングでクレア以外のSランク冒険者と会えるのも嬉しかったりする。
何か今後の参考にできるかもしれないからな。
「ちなみにですが、今のところ向かうのは私と凛くん、二人の予定です。八神さん、私たちは三日間この町を離れるので、後のことはお願いします」
「ええ、心得ています」
クレアの言葉に、八神さんは頷く。
そうか。クレアも俺に同行するということは、宵月の最大戦力がこの場からいなくなるということ。
残された中で最も強力なのは、八神さんの率いるAランクパーティー。
その辺りの調整もあり、八神さんはこの話し合いの場に呼ばれていたんだろう。
何はともあれ、これで用件は済んだ。
この後も別の用事があるという八神さんは先にギルドを出ていき、残された俺、クレア、それから少しギルドマスターも一緒になって休憩室に向かう。
すると――
「だ、だから言ってるでしょ! 私はタンク以外に転職したいんだって!」
――中から、灯里の叫び声が聞こえてきた。
それを聞いたギルドマスターが首を傾げる。
「誰の声だ? 聞き覚えがないが」
「凛くんの知り合いの方が、今この部屋にいるんです。何かの話で盛り上がっているようですが……」
ぞろぞろと三人で中に入る。
するとそこには、零、由衣、華の三人に囲まれた灯里がいた。
何をやってるんだ、あいつら? まあ大体は察しがつくけど……
その時、灯里が俺の存在に気付き、大声を上げる。
「ちょっと凛、助けなさいよ!」
「……どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないわよ! この子たちが私のレベルが2000あって、前までタンクをしていたって言った瞬間、パーティーに入らないかって頼んできて……」
やはり予想通りだったみたいだ。
それにしてもレベル2000を超えていたのか。そこは素直に驚いた。
まあ、慣れない刀剣類の武器で無名の騎士に挑もうとしていたくらいだから、元々1500は硬いと思っていたが……
華たち三人にとって、これ以上ない好条件。
逃したくないと思うのは自然のことだろう。
そんなことを一人考えていると、隣にいたギルドマスターが興味深そうに「ほう」とこぼした。
「この前クレアから新しく盾職を勧誘したいと聞いていたが、結局天音が自分で連れて来たのか」
「どうなのでしょうか? 本人としては、あまり乗り気ではないようですが……」
「まあ、ギルドとしても方針的に本人の実力が分からないことには加入はさせられないが……」
ギルドマスターはじっと灯里の顔を見た後、何か納得したように頷いた。
「……悪くない目をしている。クレア、後は頼んだ」
「……また目、ですか。はあ、分かりました」
クレアはため息をついた後、ゆっくりと灯里のもとに歩いていく。
それに気付いた灯里は、びくっと体を震わせた。
「え、えっと……」
「突然申し訳ありません。その……灯里さんと呼ばせていただいてよろしいですか?」
「は、はい! どうぞ!」
「ありがとうございます。私のことはクレアと呼んでください。灯里さんは現在、所属しているパーティーやギルドはありますか?」
「ないですけど……」
「それでは提案なのですが、宵月に加入するつもりはありませんか?」
その提案を聞き、灯里は目を丸くする。
「宵月にですか!? そ、それ自体は嬉しいですけど、タンクとして勧誘されているなら、今すぐにはお答えしかねるというか……」
「では、仮入団はどうでしょう? 今後、灯里さんがどういった方針で冒険者を続けるのかも含めて、ご協力できればなと思うのですが」
「……うっ」
うろたえる灯里。
仮入団に興味自体はあるものの、最後の決断をしかねてるといった表情だ。
助け舟を出すべきか。俺がそう考えているうちに、華が寂し気な笑みを浮かべて灯里に向き合う。
「……私は、灯里ちゃんがいてくれた方が嬉しいなっ」
「うっ。そ、そんな目で見るんじゃないわよ……はあ、仕方ないわね」
そして、諦めたように息を吐く。
昔から華に弱いのは変わってないみたいだな。
結局、その後は流れるようにして灯里の仮入団が決定した。
しばらくは華たちと同じパーティーで活動しつつも、色々な武器を試すということになった。
……現時点でなんとなく、オチは見えてるような気はするが。
話がまとまって、後は解散となったタイミングで、ふとクレアは「あっ」と呟いた。
そして灯里たち四人に視線を向けて、こう尋ねる。
「せっかくの機会です。皆さん、明日からの連休、何か予定はございますか?」
その問いに対し、四人は顔を見合わせた後、首を横に振る。
クレアは続けて、彼女たちにとある提案をするのだった。
――――――――――
同時連載中の『不遇職【人形遣い】の成り上がり ~美少女人形と最強まで最高速で上りつめる~』が、明日の3月5日(金)から全国で発売されます!
内容を簡単に説明すると、『世界最速のレベルアップ』がソロで強敵に挑む作品だとするなら、『人形遣い』はパーティーで強敵に挑む作品になっています。
無名の騎士戦、纏雷獣戦、カイン戦などが好きな方なら間違いなくハマるであろう熱いバトルが含まれており、さらにはtef先生が描いてくれた魅力的なヒロインたちが登場します! Web版から大幅に加筆したので、読みごたえは抜群だと思います!
余裕があれば、こちらもぜひ手に取っていただけると幸いです!
よろしくお願いいたします!
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