第141話 大盾と硬化薬

 ハイオーガ討伐後、脳内にシステム音が響き渡る。



『エクストラボスを討伐しました』

『経験値獲得 レベルが1683アップしました』

『ダンジョン攻略報酬 レベルが100アップしました』

『エクストラボス討伐報酬 レベルが200アップしました』



 討伐報酬は合わせて300と、かなり多めだった。

 まあ、それよりも経験値で増えたレベルの方が多いのは多いんだけど。


 さらにシステム音は続く。



『本ダンジョンが初めて攻略されたことを確認しました』

『エクストラボスを討伐したことを確認しました』

『挑戦者全員の残存HP量が50%以上であることを確認しました』

『ボーナス報酬 【全遮の大盾】が与えられます』



 そこでシステム音は止み、代わりに大きな盾が一つと、飴玉のようなものが一つ現れる。

 俺はその二つに向かって鑑定を使用した。



 ――――――――――――――


硬化薬こうかやく

 ・60秒間、体の強度を高めてダメージを30%軽減する。

 ・クールタイム:10分間。


 ――――――――――――――


全遮ぜんしゃ大盾おおたて

 ・装備推奨レベル40000。

 ・防御力+40000。

 ・物理攻撃を受けた後は耐久力が、魔法攻撃を受けた後は精神力が一時的に上昇する。上昇分のステータスを特定範囲にいる相手に分け与えることが可能。


 ――――――――――――――



「……これまたとんでもない防具だな」


 鑑定結果を見て、俺は思わずそう呟いてしまった。


 このダンジョンの本来の攻略報酬であろう硬化薬だけでも、驚くほどの効果を有している。

 だが、それ以上に衝撃的だったのがもう一つのボーナス報酬、全遮の大盾だ。



 敵の攻撃を受けるたびに防御力が上昇し、それを他人に譲渡することができるという破格な性能。

 惜しむらくは、装備推奨レベルが高いことと、盾のサイズが大きいことだろう。

 小柄な女性ならすっぽり隠れてしまいそうなほど大きなこの盾を装備できるのは、守りを専門とするタンクくらい。

 片手に剣、片手に盾といった運用も難しいサイズだ。



 ……少なくとも、速度と手数を重視する俺に使う機会はない。



 となると、専門のタンクに譲ってしまうのが一番いい使い道に思えるが、俺の身近にタンクなんていただろうか……あっ。

 まずい、鑑定結果に夢中になるあまり忘れていた。今は合同攻略の最中だ。

 恐る恐る視線をそちらに向けてみると、彼らは驚愕を隠しきれていない表情のまま、無言で俺を見つめていた。



「天音、お前はいったい……っ」



 呆然としたまま何かを尋ねようとする八神だが、急にはっと口を閉ざす。

 恐らく、先ほどのように、俺の力に関しては詮索しない決まりがあることを思い出したのだろう。


 リーダーの八神が質問を止めたのなら、自分たちも聞くわけにはいかない。

 そんな微妙な空気が部屋いっぱいに流れる。


 さて、今度ばかりは言い訳できないだろうな。

 そう思い、どこまでの情報を開示するか瞬時に考えるが……

 次に発言したのは、俺ではなく八神だった。


「まったく、まさかたった一日のうちに、これほど驚きが続くとはな。だが、もう痛いほど理解した。先ほどの光景が、まぎれもない現実だったということは」


 そこで少し言葉を止めた後、八神は言う。


「天音、一つだけ訊かせてほしい。冒険者歴は一年と少しだということだが、それ以前にダンジョンに潜っていたわけではないんだな?」


 冒険者になれる18歳以前から、不正でダンジョンに潜りレベルを上げていたのではないのか。

 八神はそう疑問に抱いたようだ。


「はい。法律を破ったことはありません」


 まあ、法の抜け穴的な方法でレベルアップはしてるけどね。

 さすがにそこまで言う必要はないだろう。


 すると、八神は静かに目をつむり、



「なら、これ以上は何も訊かないでおく。もっともこの質問に関しても、初めから答えは分かっていたが……そんな不正をするような人間が、わざわざ自分のユニークスキルを衆人のもとに晒し、無能と蔑まれるはずないから」



 後半部分に関しては声が小さく聞き取れなかった……と言いたいところだが、冒険者は五感も優れているから聞こえてしまった。

 うん……これは多分、俺のスキルが何であるかまではバレてそうだな。

 まあそこに関しては隠してないから別に構わないんだが、問題はその先、スパンを無視したレベルアップについてだ。



 冒険者歴一年強の人間が40000レベルの魔物を倒すなど、普通あり得ない。

 勘がいい人間なら、零のように答えに辿り着いてしまう可能性が高い。

 八神たちを疑うわけではないが、さすがにこれはまだ明かしたくない。


「……ん?」


 そんなことを考えていると、いつの間にか目の前で八神を含めた全員が頭を下げていた。


「天音、君は一度ならず二度までも、このパーティーを救ってくれた。本当にありがとう」


 八神に続くようにして、他の者たちも感謝の言葉を告げる。

 なんだろう、こう、無性に背中がかゆくなる。



「顔を上げてください。それよりも、今回の報酬をどう分け合うかを話し合いましょう」

「今回、ボス討伐に最も貢献したのは天音だ。いや、貢献というよりはもはや、天音一人の力で成し遂げた成果だろう。報酬に関しては全て天音が受け取ってくれ」

「……いいんですか? この盾なんかは、俺には使えないから喜んで譲りますけど」

「残念だが、うちのギルドにも装備推奨レベル40000の盾を扱える者はいない。売るなり知り合いに譲るなり、好きに使ってほしい。俺たちはレベルアップ報酬だけで十分だ」



 そういえば、レベルアップ報酬はここにいる全員に与えられたのか。

 冒険者にとっては常識だが、普段ぼっちだからうっかり忘れていた。

 確かに彼らからしたら、300レベルアップはかなり価値がある報酬だろう。


 それで満足してもらえるのなら……意固地になる必要はないか。


「分かりました。ならこの二つについては俺がもらいます。それから――」


 さらに言葉を紡ごうとすると、ここにいる全員が淡い光に包まれる。


「帰還の時間だな。話は上でしよう。その前にハイオーガの死体と大剣を回収する」


 八神は少し慌てた様子で、残る戦利品を回収していく。

 その様子を眺めていると、ふと俺は自分に向けられた視線に気づいた。

 そちらに顔を向けると、なぜか東雲さんがぽーっとした表情で俺を見ていた。


「東雲さん? どうかしましたか?」

「えっ!? う、ううん、何でもないわ。少しぼーっとしてただけよ」

「? ならいいんですが……」


 納得する俺の前では、東雲さんが両手を頬に当てながら「そう、そうよ。戦ってるところとかはちょっとかっこいいかなと思ったけど、年下の男の子に本気になるわけがないわよね。うん、そうに決まって――」と、一人で何かを呟いていた。


 あまり触れない方がいいなと思ったので、彼女から視線を外しておくことにした。

 すると、それから数秒も経たないうちに転移魔法が発動する。


 こうして、俺たちの合同攻略は無事に終わりを告げるのだった。



 ――――――――――――――


 天音 凛 19歳 男 レベル:19438

 称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)・賢者を超えし者

 SP:26710

 HP:152650/152650 MP:25700/41730

 攻撃力:35000

 耐久力:29750

 速 度:35440

 知 性:33440

 精神力:29540

 幸 運:31210

 ユニークスキル:ダンジョン内転移LV22・略奪者LV1

 パッシブスキル:身体強化LV10・剛力LV10・高速移動LV10・魔力回復LV2・魔力上昇LV10・状態異常耐性LV4

 アクティブスキル:金剛力LV10・疾風LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・纏壁LV2・浄化魔法LV1・索敵LV4・隠密LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV8・隠蔽LV1


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