第128話 VSグリフォン

 突如として、俺の目の前に現れた魔物――グリフォン。

 無名の騎士ネームレス・ナイト纏雷獣てんらいじゅうと同様、過去に目撃された記録がない存在だった。

 敵の能力が何であるかを一つずつ確かめながら戦う必要がある。


 さらに討伐推奨レベルが25000ときた。

 間違いなくこれまで俺が戦ってきた中で最強クラスの敵だろう。


 だけど、不思議と恐怖はなかった。

 これまで俺は数々の強敵との戦いを乗り越えてきた。

 その経験が確かな自信となって、俺という存在を支えてくれているのだ。


「こい、無名剣ネームレス


 呼び掛けに応じるように出現したのは、白銀の刃を持った一振りの長剣。

 右手でそれを強く握ると、特殊効果によって俺の全能力値が上昇するのを感じる。


 さらに、金剛力と疾風を同時使用。

 十分すぎるほどの力が、この体に備わる。



「――さあ、始めるとするか」



 俺は地面を強く蹴り、空高く飛翔した。

 まばたきする間もなくグリフォンに急接近し、その勢いのまま無名剣を振るう。

 だが――


「ッ、これは!」


 ――接近したことによって俺は気付いてしまった。

 グリフォンの体が、目に見えない強風によって守られているのを。

 それはさながら、纏雷獣の雷やサラマンダーの炎を彷彿とさせる魔法の鎧だった。


「くっ!」


 強風に跳ね返されグリフォンへの接近は失敗する。

 いともたやすく俺は地面に押し返された。


 着地すると同時に、ここからの戦い方を考える。

 サラマンダー戦と同様、魔奪剣であの風を奪うか?

 いや、討伐推奨レベル10000のサラマンダーでさえMPの2割以上必要だったのだ。

 グリフォンの巨体を纏う鎧にもなれば、間違いなくその数倍のMPを使う羽目になるだろう。

 

「ガァァァアアアアア!」


 などと考えているうちに、グリフォンは反撃を仕掛けてきた。

 巨大な翼をはためかせ、大気を歪ませるような烈風れっぷうを放つ。

 あまりにも烈風の威力が高いのか、反動でグリフォンの体が少しだけ後ろに下がっていた。


 いや、敵の観察は後だ。

 俺の矮小な体を呑み込まんとばかりに迫ってきたこの烈風を、まずはなんとかしなくては!


 回避するか?

 それも悪くないが、あえてここは――


魔奪剣グリード!」


 ――深紅の刃を振るい、烈風を奪い取る!


「よし、成功だ」


 魔奪剣の刀身に、新しく黄緑の光が宿る。

 MPは1割近く減少したけど、これで新たな攻撃手段を得た。


 無名剣ネームレス魔奪剣グリード、瞬間転移、炎の螺旋放射、烈風――これらの手札をどう使えば、あの風の鎧を打ち破れるだろうか。

 思考の果てに、俺は辿り着く。


 風の鎧は厄介だが、決して完璧なわけではない。

 纏雷獣と比べても攻撃性は圧倒的に劣るだろう。

 問題は、風の力が強いせいで近寄ることができないということ。


 逆に言えば、近寄れさえすれば後は簡単だ。

 スキルや無名剣の効果によって上昇した攻撃力パラメータに頼り押し切ってしまえばいい。

 だから今考えるべきは、風の鎧を打ち破りグリフォン本体に迫るための手段。


 余計な策はいらない。

 俺は圧倒的な速度を生み出すことで、その壁を突破すると決めた。


「よし、いくぞ」


 決意の言葉を口にしたのち、上空にグリフォンがいるにもかかわらず、あさっての方向に走り出す。


「早く」


 グリフォンの位置も、上空から迫る攻撃も意識の外に追いやる。

 俺が今求めているのは、純然たる速度のみ。


「――もっと、速く」


 一秒にも満たない間に、俺が出せる最大速度に達する。

 それを理解した俺は、迷うことなく地面を強く蹴り――跳んだ。


 その先には誰もいない。壁があるのみだ。

 このままだと勢いよく壁にぶつかって無様な羽目に遭ってしまうだろう。


 ――無論、そんな未来が訪れる可能性は皆無だが。



瞬間転移タイム・ゼロ



 そう唱えた次の瞬間――俺はグリフォンの眼前に転移していた。

 地上で得た速度をそのままに。


 瞬間転移を何度も使用するうちに、俺は理解していた。

 転移前に俺が保有していた運動エネルギーは、転移後にも消えないということを。

 それゆえに、このような作戦が可能となった。


 だけどまだ足りない。

 グリフォンが纏う風の鎧を完璧に突破するには!



 ――――もっと、疾く!



 だからこそ俺は魔奪剣の切っ先を後方に向け、小さく告げた。


解放リリース


 魔奪剣から放たれるのは、グリフォンから奪った烈風。

 グリフォンは先ほど、これを放った反動で後ろに下がっていた。

 グリフォンの巨体でさえそうなるのだ。やつより遥かに軽い俺の体なら、その影響は何倍にも膨れ上がるだろう。


 予想は的中。

 限界を超えた速度を生み出した俺は、そのまま無名剣をまっすぐ突き刺す。



「いけぇええええええええええ!」

「グォォォオオオオオオオオオ!」



 ロンギヌス。

 そう名付けたくなるような渾身の一撃が、風の鎧を切り裂き、グリフォンの顔面に突き刺さり――その体をまっすぐと貫いた。


 体にぽっかりと穴があいたグリフォンと、体勢を崩した俺が同時に落下する。


「おっと」


 このままだと変な着地になりそうだったので、瞬間転移を使って綺麗に着地しておいた。


 遅れて、どさりと地面に落ちてくるグリフォン。

 そして脳内にシステム音が響き渡る。



『エクストラボスを討伐しました』


『経験値獲得 レベルが387アップしました』


『エクストラボス攻略報酬 レベルが80アップしました』



「よし、勝ったぞ」


 レベル差が2倍近くあったからだろうか、経験値獲得によるレベルアップはかなりのものだった。

 満足げに頷いた俺は、血を払うために無名剣を数回振るう。


 そして最後に、魔奪剣の深紅に染まる刀身を見て一言。



「余った」



 かくして、俺は鈴鹿ダンジョンを完全攻略するのだった。



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 天音 凛 19歳 男 レベル:14885

 称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)・賢者を超えし者

 SP:9210

 HP:115930/115930 MP:21370/32920

 攻撃力:26520

 耐久力:22800

 速 度:26830

 知 性:25960

 精神力:22590

 幸 運:24150

 ユニークスキル:ダンジョン内転移LV21・略奪者LV1

 パッシブスキル:身体強化LV10・剛力LV10・高速移動LV10・魔力回復LV2・魔力上昇LV10・状態異常耐性LV4

 アクティブスキル:金剛力LV10・疾風LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・纏壁LV1・浄化魔法LV1・索敵LV4・隠密LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV6・隠蔽LV1


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