第126話 鈴鹿ダンジョン
ダンジョンでは基本的に、難易度が上がるほど階層は増え、下に行くほどフロアは広くなっていく。
Bランクともなれば、その傾向は顕著だ。
現にここ鈴鹿ダンジョンは、全50階層となっている。
攻略には一日、下手をすれば数日がかかるほどの大きさである。
しかしながら、それも当然、正攻法で挑戦すればの話だが――
「まだ入ってから十数分しか経ってないけど、だいぶ下の方まで来たな」
ダンジョン内転移を発動すること十数分、俺はおもむろにそう呟いた。
現在俺は、他の者たちが数時間かけて辿り着く第30階層にいた。
そのままの流れで第31階層に行くために、ダンジョン内転移を発動しようとした次の瞬間だった。
「キシャァァァ!」
「むっ」
気色悪い音とともに、何かが俺に迫ってくる。
反射的に地面を蹴り、それを回避した。
先ほどまで俺がいた空間を貫いた赤色の何かは、しゅるると音を立てながら元の場所に戻っていく。
見ると、そこには岩のような鱗で覆われた巨大なトカゲが存在していた。
鑑定を使用してみる。
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【ロックリザード】
・討伐推奨レベル:8000
・岩石の鱗を纏ったトカゲ型の魔物。刃物による攻撃、および魔法を弾く頑強な鱗が特徴的。
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「……ふむ。ロックリザード、討伐推奨レベル8000か」
ここまでは運よく魔物とは遭遇しなかったが、ここにきてようやくお出ましになったらしい。
とはいえ、ぶっちゃけ
「せっかくだ、戦っていくか」
ダンジョンボスばかり討伐していたら、じきに慣れて、頭を使わず戦うようになってしまう恐れがある。
そのため、常に新しいタイプの魔物とは戦いたいと思っていた。
「
アイテムボックスから、透明に輝く刀身が特徴的な短剣――魔奪剣を召喚する。
刃物の攻撃は効きにくいとあるが、試すだけならタダだ。
それに――
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無名の剣豪
・他者に頼ることなく、刀剣と自らの力のみで困難を乗り越えた者に与えられる称号。
・称号保持者がレベルアップした際、装備している刀剣類の武器の性能もアップする。
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称号の効果を発揮するためにも、極力武器を装備した状態で戦いたいからな。
そうこうしているうちに準備は整った。
というわけでさっそく、
「いくぞ」
小さく息を吐いた後、俺はロックリザードに向かって駆け出した。
「シャーッ!」
耳に残る音とともに、ロックリザードの口から放たれるのは、槍を彷彿とさせるほどに鋭い赤色の舌だった。
まともに喰らえばダメージは避けられない。
しかし――
「遅い」
――今の俺にとって、その程度の攻撃は脅威ではない。
軽いステップでかわした後、素早く魔奪剣を振り上げる。
「ギャウッ!」
たった一撃で舌は切断され、ロックリザードは声にならない悲鳴を上げた。
攻撃を仕掛けるなら今!
「はあッ!」
馬鹿正直に、鱗に攻撃するわけではない。
鱗と鱗の間に刃を潜ませるようにして、鋭い斬撃を浴びせる。
作戦は成功。
斬撃によってロックリザードの中身に深い裂傷を負わせることに成功し、さらに剥ぎ取られた鱗が数枚、宙を舞った。
後はむき出しになった肉に刃を突き立てるだけ。
そう方針を立てる俺に対して、ただやられるロックリザードではなかった。
「キシャァ!」
「――ッ」
突如としてロックリザードの内部で爆発が発生したかのように、体を纏う鱗が勢いよく放出された。
数十を超える強固な岩石が俺に向かって飛んでくる。
「
瞬時に俺はロックリザードから距離を取り、攻撃を回避した。
まさかの反撃に驚いたが、これでロックリザードを守る鎧はなくなった。
今度こそ、後は一撃を浴びせるだけ――
「……ほう」
――と思った直後、ロックリザードの体から一斉に岩石の鱗が生えてきた。
瞬く間のうちに、元通りの姿に戻る。
「再生能力まで持っていたのか。いや、鱗が元通りになるだけなら再生とは言わないのかな? ……まあどっちでもいいか。こうなったからには仕方ない」
俺は魔奪剣をアイテムボックスの中に戻すと、右手を拳にし、左の手の平を軽く叩いた。
パンッと、気持ちいい音が響く。
「鱗を剥ぎ取ってからトドメを与えるっていう二段攻撃が防がれるんなら、一発で片をつけるしかないよな――纏壁っと」
体に透明の壁を纏う。
さらに瞬間転移を発動し、ロックリザードの上空に出現。
そして――
「喰らえ」
――渾身の一撃を、ロックリザード目掛けて振り下ろした。
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賢者を超えし者
・クエスト【賢者の闘争】を特定の条件でクリアした者に与えられる称号。
・武器を持たない状態での戦闘時、攻撃力、耐久力、速度の各項目を+30%。
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賢者の拳は軽々とロックリザードの鱗を粉砕し、そのまま肉体を貫く。
「よし、なんとかなったな」
こうして、俺はロックリザードの討伐に成功するのだった。
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