第125話 次のステージ

 一時間後、華の顔に疲労の色が見え始めてきたタイミングで、探索と魔物討伐については終わることにした。

 ただ、レベルアップ効率のことを考えたら、このまま帰るのは惜しい。

 華は高校生なため、ダンジョン攻略に来れるのは週に一度か二度。

 ダンジョン攻略後のスパンの影響は比較的小さいため、せっかくなので攻略して帰ろうと思った。


 だけど、ダンジョン内転移は俺にしか発動できないし、普通にこのダンジョンを攻略しようと思えば半日近くかかる。

 華の体力的にも、それは難しいだろう。


 というわけで。

 悩みに悩んだ末、俺が取った行動は一つ――



「よし、いくぞ!」

「ええっ!?」



 ――華をお姫様抱っこして、全力で最下層まで駆け下りた。

 そして約30分後、ダンジョンボスを一撃でぶっとばし、華は12レベルアップするのだった。



「……お兄ちゃん?」

「はい」


 ただその代償として、攻略後、ダンジョンの外で華は不機嫌そうな顔で俺を睨んでいた。

 怒った顔もまた可愛い。


「“せっかくだし攻略もしていくか。いい方法があるんだけど試していいか?”って言われたから頷いたけど、突然抱きかかえられて高速移動だなんて想像してなかったよ! ちょっと楽しかったけど!」


 楽しかったんだ。

 それは何よりです。


 元気いっぱいで文句を言う華。

 ただ、本当に怒っていたわけではないらしい。

 深いため息をつくと、「んっ」と手を差し出した。


「まあ、私のためを思ってやってくれたことだし許してあげる。ほら、お兄ちゃん、早く帰ろっ」

「ああ」


 俺は華の手を握り、一緒に帰路につくのだった。



 ファミレスで昼食を取り、華を家まで送った後。

 ――俺は改めて外に出かけていた。


 現在の時刻は正午を過ぎたあたり。

 休むにはまだ少し早い。


 というわけで、俺は再びダンジョンにやって来ていた。

 周囲には優れた装備に身を包んだ冒険者たちが何人もいる。

 歴戦の猛者。そう呼ぶのがふさわしい姿だった。


 それもそのはず。

 なんせここは攻略推奨レベル10000のBランクダンジョン――【鈴鹿すずかダンジョン】。


 この世界ではダンジョン攻略報酬の影響もあり、レベルが高ければ高いほどレベルアップの効率は上がっていくものだが……

 それを踏まえても、10000レベルに到達するには、優秀な者でも5~6年は必要となる。


 それだけの長期間、冒険者として活動してきた人たちだ。

 Cランク以下の者たちとは明らかにオーラが違う。


「ようやく、俺もここまで来れたってことだな。よしっ」


 気を引き締めなおし、改めて鈴鹿ダンジョンに向き合う。


 ダンジョン内転移がLV21になったことにより、俺はこれまで挑戦したことのないダンジョンにも入れるようになった。

 これはつまり、スパンの影響が完全に消えたことを意味する。


 そして――



「ダンジョン内転移」



 ――こうして俺は、Bランクダンジョンに初挑戦するのだった。

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