第123話 華の実力
俺と華が魔物を探すこと約5分。
目の前に現れたのは、大きな剣を持った緑色の小鬼――ゴブリンナイトだった。
鑑定を使用してみると、討伐推奨レベルは400。
初心者の華にしてみたらかなりレベルが高い相手だが、ステータス的には余裕があるし、最悪の場合を想定して助ける準備だけはしておく。
ゴブリンナイトを見た華の表情には緊張の色が浮かんでいた。
「華、やれるか?」
「うん……できる」
頷いて、華はゴブリンナイトから距離を取った状態で身構える。
既に華には俺の保有するスキルを3つコピーさせている。
初級魔法LV3、纏壁LV1、魔力回復LV2の3つだ。
この中で戦闘で使用できるのは初級魔法と纏壁の2つ。
攻撃手段に至っては初級魔法だけだ。
使い方は教えたが、果たしてどのような結果になるか。
僅かな不安を抱く俺の前で戦いは始まった。
「ファイアボール!」
先手は華。
敵との距離があることを活かし、遠くから魔法を放った。
スムーズな発動かつ、レベルの割に大きな炎の球だった。
ゴブリンにとって火属性は弱点。
狙い自体はよかった。
しかし――
「グギャァア!」
「ッッ!」
――簡単に攻撃を命中させてくれるほど、敵も甘くはない。
ゴブリンナイトは横に跳びファイアボールを躱すと、低い体勢のまま華に向かって駆け出した。
「――まだ! ウィンドカッター!」
だが、華の対応もまた早かった。
普通の魔法では躱されると判断したのか、速度に優れた風魔法を放つ。
狙いは見事的中。
風の刃が、ゴブリンナイトの左肩に直撃した。
力を失ったように、ぶらりと下に垂れる。
「やった――」
攻撃が上手くいったことに対して歓喜する華。
けれど魔物を前にその反応はまずかった。
「ガァァアアア!」
受けたダメージを気にする素振りもなく、ゴブリンナイトは突進する。
これが魔物の怖いところ。怪我や死を一切恐れることなく、攻撃を仕掛けてくるのだ。
さすがに、このタイミングで助けに入るべきだろうか。
そう思い地面を踏みしめた直後、俺の視界に驚くような光景が飛び込んできた。
「しつこい!」
「ギャウッ!」
ゴブリンナイトが剣を振るうよりも早く、華による渾身の右ストレートが敵の顔面に埋まった。
美しいフォームから放たれたその一撃によって、ゴブリンナイトの体が軽々と吹き飛んでいく。
「え、えぇー」
どんな風に魔法を使って倒すのかと思っていたら、まさかの最後は拳で決着。
ステータスの差やスキルの影響もあるのだろうが、あまりにも見事だった。
背中から地面に落ち、無防備なゴブリンナイトに向かってファイアボールを放ちトドメを刺した華はこちらに振り返った。
「勝ったよ、お兄ちゃん!」
「お、おめでとう」
柳に与えられたトラウマからどうなるものかと不安に思っていたが、終わってみればまさかの圧勝。
それも初心者ではなかなか実行が難しい素手での討伐だ。
思い返してみれば、華がトレントを討伐した時も、緊急事態とはいえレベル2の状態で討伐推奨レベル10000の敵に立ち向かったんだよな?
うちの妹、もしかしたらかなりの度胸の持ち主なのかもしれない。
ふと、俺はそんなことを思うのだった。
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