第102話 略奪者
朦朧とする意識。
柳は自分の胸から流れていく血を眺めていた。
(そうか。僕が負けた、のか……)
指の1本さえ、満足に動かすことができない。
このまま自分が死ぬのは変えようのない現実であるということを、柳は強く実感した。
そんな柳を見下ろすのは、彼の心臓に短剣を突き立てた張本人である青年――天音 凛だった。
凛は、感情の見えない冷え切った目をしていた。
(まさか、ここまで完全に敗北するとはな)
柳は自分自身に対して、小さく鼻で笑った。
(結局、最後の最後まで、僕はお前の手のひらの上だったわけだ)
魔法を奪う剣、透明の壁、そして転移。
それらを用いて、凛は自分を殺そうとする柳の策をことごとく粉砕した。
そして最後には、迷うことなく短剣を柳の心臓に突き刺してみせた。
そんな凛に対して、柳は1つだけ問いたくなった。
「……最後に聞かせろ、天音 凛。お前はこれまで、人を殺したことがあるか?」
「……今回が初めてだ」
「……それで、これか。本物の化物だな、お前は」
自分に向けられた殺意すら呑み込み、目的のためには手段を選ばず前に進むことができる――凛がそういう存在であると、柳は理解した。
柳が初めて人を殺した時は、震える手でナイフを握った。
そして人を殺したという事実に、心が押し潰されそうになった。
たとえそれが正当防衛だと分かっていても、だ。
そんな柳と、目の前にいる凛とでは、そもそもの器が違っていたのだろう。
この結果は、きっと初めから決まっていたものだったのだ。
薄れゆく意識。
最期に柳は、凛に向けて告げる。
「そんなお前が
そして柳は、静かに息を引き取るのだった。
◇◆◇
俺のすぐ目の前で、柳が完全に息絶える。
それと同時に、頭の中にシステム音が鳴り響く。
『経験値獲得 レベルが121アップしました』
『スキル【
『略奪者がLV1にリセットされます』
そこには衝撃的な文言が含まれていた。
「……略奪者を獲得、か」
驚く気持ちはある。
だがそれと同時に、納得している部分もあった。
というのも、略奪者の対象から外れるためには、発動者だけではなく対象者の同意まで必要としていたからだ。
普通に考えれば、対象者であり続けるメリットなど存在しない。
にもかかわらずそのような条件があるということは、何かしらの理由が隠されていると考えていた。
……とはいえまさか、本当に入手できることになるとは思わなかったが。
柳の最期のセリフから考えるに、こいつも自分が殺された後、他人に能力が移ることは知っていたはずだ。
……もしくはこいつ自身、誰かから奪い取った力なのかもしれないが。
今はもう、それを確かめる手段は存在しない。
俺は踵を返し、柳に背を向ける。
そして最後に、もうここにはいない相手に向けて誓った。
「例え同じ力を手にしたとしても……俺は絶対に、お前のようにはならない」
その言葉は壁に何度か反響した後、どこか遠い場所に消えていくのだった。
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天音 凛 19歳 男 レベル:13617
称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)・賢者を超えし者
SP:8710
HP:42810/106680 MP:3680/29490
攻撃力:24210
耐久力:20970
速 度:24400
知 性:23650
精神力:20760
幸 運:22180
スキル:ダンジョン内転移LV20・身体強化LV10・剛力LV10・金剛力LV10・高速移動LV10・疾風LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・纏壁LV1・浄化魔法LV1・魔力回復LV2・魔力上昇LV10・索敵LV4・隠密LV4・状態異常耐性LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV4・隠蔽LV1・略奪者LV1
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ダンジョン内転移LV20
使用MP:1MP×距離(M)
条 件:発動者が足を踏み入れたことのあるダンジョン内に対してのみ転移可
転移距離:最大で400メートル
発動時間:0.5秒×距離(M)
10メートル以内の場合、0秒で転移可(一律100MP使用)
対象範囲:発動者と発動者が身に纏うもの
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略奪者LV1
条件:対象者を自身の手で殺すことによって、任意のスキルを奪うことが可能。任意のスキルを選択しなかった場合、最もLVの高いスキルを奪う。逆に発動者が対象者の手で殺された場合、このスキルはLV1にリセットされた状態で対象者のものとなる。直接触れた人間しか対象者として選択できない。
略奪可能数:1種類
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