第95話 襲来
住福ダンジョンに入ってから、約10分。
華たちは第三階層にまで足を運んでいた。
前回スライムを倒した第一階層よりも、さらに深い場所にまで来たことになる。
ここではスライムと違い、少しは戦闘能力が必要となる魔物が現れるらしい。
すると、さっそく華たちの前に骨型の魔物が出現する。
片桐が叫ぶ。
「この魔物はスケルトンといい、ステータスを獲得した人なら誰でも倒せるような魔物です! 今回のダンジョン内演習において、皆さんには自分一人の力でこの魔物を討伐してもらいます!」
どうやら同行人の手助けは禁止らしい。
もっとも、同行人のいない華には関係ない話だが。
「よし、がんばろう!」
華は事前に借りた一振りの剣を握り、気合を口にした。
ステータスを獲得した影響がさっそく出ているのか、普通なら重くて持つだけでも難しい剣を、軽々と振るうことができる。
華は魔法系のスキルを保有していない。
だからここは身体強化のスキルを活かし、剣を武器にすることにした。
その後、片桐たちの監督のもと、華たちは順番にスケルトンと戦っていく。
片桐の言葉通りスケルトンはとても弱く、戦闘に慣れていない華たちでも簡単に倒すことができた。
その様子を見た片桐が、満足そうに頷く。
「皆さん、素晴らしいです。魔物との戦闘についてはひとまず問題なさそうですね。それでは次に冒険者の心得について、もう少し移動しながら学び――」
しかし、片桐の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「きゃああああああああああああああ!」
迷宮内いっぱいに、そんな悲鳴が響いたからだ。
悲鳴を上げたのは、華のすぐ近くにいた1人の少女だった。
彼女はとある方向に指を向け、ぶるぶると体を震わせている。
遅れて、華もそちらの方向に視線を向ける。
そして、驚愕に目を見開いた。
「何、あれ……」
そこにいた存在は、華の理解を超える姿をしていた。
一言で表すならば、3メートルを超えた人型の木、だろうか。
おそらく魔物と思わしきその人型の木は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
これまで数回しかダンジョンに入ったことがない華でも、直感的に分かった。
あれはスライムやスケルトンとは全く違う、強力な魔物であると。
「トレントだと!? 最低でも5000レベルを超える魔物がどうしてこんなダンジョンにいる!」
集団の逆方向にいる片桐が、驚愕の声を上げる。
それによって、これは訓練でもドッキリでもない、想定外の事態であることを華は理解した。
「――――ッ!」
次の瞬間、トレントの手が恐るべき速さで伸び、集団の先頭にいる華たちに襲い掛かってくる。
あまりにも突然の出来事に、誰もが混乱したまま動けずにいた、その時だった。
「危ない!」
トレントと華たちの間に滑り込んできた柳が、手に持つ短剣でその攻撃を受け止める。
それによって、なんとか華たちは一命を取り留めた。
そしてその直後、片桐の大声量が鼓膜を震わせる。
「ファイアスピア!」
恐るべき熱量を誇る、巨大な炎の槍が空間を裂き、そのままトレントに直撃する。
しかし――
「馬鹿な! 弱点の火魔法を喰らっても、ほとんどダメージが通っていないだと!?」
片桐の言葉通り、直撃した箇所が僅かに焼けただけで、とても大ダメージを与えたとは言えない結果に終わった。
それがあまりにも予想外だったようで、片桐の言葉からかなりの焦燥を感じ取れた。
「ねえ、何が起きてるの?」
「協会の人でも倒せないような魔物が出たんだよ!」
「そんな! だったら私たちはどうなっちゃうの!?」
混乱、焦燥、恐怖。
それらが一瞬のうちに、ここにいる者たちに広がっていく。
生まれて初めて、自分の身に迫った死を実感し、体が思うように動かなくなる。
そんな中、真っ先に声を上げたのは柳だった。
「片桐さん! 先に皆を連れて地上へ脱出してください! ここは僕が食い止めます!」
「なっ! それは無謀だ! せめて私と君が残り、彼らの脱出は同行人の方々に任せるべきだ!」
「いえ、こいつ以外にもダンジョン内に強力な魔物がいる可能性があります! 片桐さんは彼らについてあげてください! それに――」
次の瞬間、柳はその場から
直後、トレントのすぐ目の前に現れ短剣で斬りかかった。
トレントは枝のような腕を振るい反撃してくるも、柳は巧みに躱していく。
「僕はスピード型です! 回避に徹するなら、この敵とも渡り合えるはずです!」
「……分かった! 脱出までに5分はかからないはずだ! それだけの時間を稼げたら、お前も地上に戻ってこい! ――皆さん、今の通りです! ダンジョンから脱出するので私についてきてください! 緊急事態ですが、皆さんは私たちが必ずお守りします!」
片桐の言葉に従って、次々と皆が我先にと彼の後を追っていく。
(――早く私も行かないと!)
片桐と反対方向にいたため、意図せず最後尾になってしまったが仕方ない。
華が彼らの後を追うべく足を踏み出した直後のことだった。
「えっ!?」
何者かに掴まれたような感覚がして、華がその場に転んでしまったのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます