第90話 降臨する獣

 第九階層攻略後、一眠りして休息を終えた俺は、第十階層に向けて最後の調整をしていた。


 調整といってもすることは一つ、SPの割り振りだけだ。

 第九階層を攻略する前に金剛力をLV7からLV8に、疾風をLV7からLV9に上げたのだが、その時の余りと第九階層で増えた分を合わせて、現在12510SPが残っている。

 問題はこのSPを使ってどのスキルレベルを上げるか。


 ふと、スキル一覧の中の一つに目が留まった。


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 ダンジョン内転移LV18→LV19(必要SP:4500)


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「ダンジョン内転移か……」


 今までの傾向通りなら、このスキルをLV19からLV20にする時の必要SPは5000のはず。

 LV19にする時と合わせて使用するのは9500SPなので、今すぐ上げることは可能だ。


 だけど俺は、そこで首を横に振った。


「いや、LV20に上げたからといって、必ずしも戦闘で活躍する進化を遂げるとは限らない。その楽しみは攻略後に取っておくことにしよう。だからひとまずはこっちだな」


 金剛力をLV9に、疾風をLV10にする。

 さらに残りの3010SPで、魔力上昇スキルをLV5からLV7に上げた。


 これで準備は万端だ。


「さあ、最後の階層だ。気を引き締めて行こう」


 その後、俺はシステム音に第十階層へ挑戦する旨を伝え、間もなく転移魔法が発動した。



 目を開けた時、眼前に広がるのはどこまでも続く荒野だった。

 空は曇天に覆われ、密度の濃い魔力を含んだ大気がヒリヒリと肌を刺す。

 地獄の中を垣間見たような、そんな印象さえ感じさせる空間だった。


 そしてその空間の中央には、一体の獣が鎮座していた。



 黒の鎧を被ったがごとき四肢で地を踏みしめる獣はオークジェネラルに匹敵する高さを誇り、全長はその倍近くにまで至る。

 大縄に絞められたかのように隆起りゅうきした筋骨きんこつは、猛々たけだけしくその存在を主張する。

 鋼鉄をも貫き、切り裂くであろう牙と爪に、一振りで大地を歪ませるであろう巨大な尾。

 そして何より、魔物にもかかわらず強力な意思が込められた、黄色く鋭い眼光が俺を見据える。



「ガルァアアアアアアアアアアアアアアア!」



 その獣がひとたび雄叫びを上げると、上空から幾重もの雷が落ち大地を焦がす。

 あまりにも現実離れした光景だった。


 そして、それを見つめる俺の頭の中にシステム音が鳴り響く。



『第十階層のクエストは【纏雷てんらいおう】です。対象となる1体の纏雷獣てんらいじゅうを討伐してください』



 それを聞き、俺はあの獣に向かって鑑定を使用した。


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纏雷獣てんらいじゅう

 ・討伐推奨レベル:20000


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 非常にシンプルかつ、絶望的な情報だった。


「はっ、なるほど。最後は搦め手も抜け道もなし、とことん真っ向勝負ってことか。いいさ、やってやるよ」


 俺は無名剣を構え、纏雷獣を見据える。

 そして、堂々と告げた。



「やるぞ、無名剣ネームレス――これが最後の戦いだ」



 こうして隔絶の魔塔内における、全てを賭けたラストバトルが始まった。



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 天音 凛 19歳 男 レベル:9980

 称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)・賢者を超えし者

 SP:410

 HP:78380/78380 MP:21420/21420

 攻撃力:18110

 耐久力:14920

 速 度:18300

 知 性:17750

 精神力:14700

 幸 運:16220

 スキル:ダンジョン内転移LV18・身体強化LV10・剛力LV10・金剛力LV9・高速移動LV10・疾風LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・浄化魔法LV1・魔力回復LV2・魔力上昇LV7・索敵LV4・隠密LV4・状態異常耐性LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV4・隠蔽LV1


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無名の騎士ネームレス・ナイトつるぎ

 ・無名の騎士が装備していた剣。

 ・装備推奨レベル:8500

 ・攻撃力+8500

 ・敵のレベル(討伐推奨レベル)が自分より高かった場合、HPとMPを除くステータスの全項目を+80%。


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