第83話 第二階層 『投影の騎士』①

 ぐっすりと睡眠をとった後、俺は体を軽く動かして調子を確かめた。


「うん、悪くない。HPとMPもほとんど全回復したし、これなら次の階層にも行けそうだな」


 というわけで、さっそく第二階層に挑戦することにする。

 ただ、ここで一つ問題が発覚した。


「第二階層へはどうやって行けばいいんだ? 相変わらず上に繋がる階段もないし……」


 そんなことを考えていると、タイミングを見計らったかのようにシステム音が脳内に鳴り響く。



『次の階層へ挑戦するか、リタイアするかの選択ができましたら、どちらか一方を宣言してください』



 ふむ。口に出せば応じてくれるということだろう。

 俺はすぐに宣言した。


「第二階層へ挑戦する」

『対象者の意思を確認しました。転移を行います』


 いつものように、淡い光が俺の体を包み込む。

 そして転移魔法が発動し、気が付いた時には、俺は別の場所に立っていた。


「ここはいったい……」


 第一階層の、端が見えない広々とした草原とは真逆。

 約200メートル四方の、全面タイル張りの空間に俺は立っていた。

 その変わりように思わず驚いてしまう。


「やっぱり、普通のダンジョンとは色々と違うみたいだな。とても同じ塔内にあるとは思えない変わりようだ……もしかしたら、本当に各階層が別々の場所にあったりするのかもな」


 思わず、そのように突拍子のないことを考えてしまう。

 と、いつまでもそんなことを考えている余裕はない。


「第二階層のクエストは何なんだ? 見渡す限り、魔物は見当たらないみたいだけど……」


 その疑問に答えてくれたのは、毎度のことながらシステム音だった。



『第二階層のクエストは【投影とうえい騎士きし】です。対象となる1体の騎士を討伐してください』



 システム音はそこで終わった。

 クエスト名、投影の騎士。討伐対象は1体のみ。

 第一階層のクエストに比べたら随分と楽そうに聞こえるが、逆にそれだけ敵の強さが跳ね上がっているのかもしれない。


「っ、きたか」


 すると、向こうもまるで転移魔法でやってきたかのように、銀色の鎧に全身を包んだ騎士が現れる。

 細かい部分は違うが、無名の騎士にかなり似ていた。


 いつものように俺はその騎士に向かって鑑定を使用する。


「これは……!」


 そして、そこに書かれていた文言を見て目を見開いた。



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


投影の騎士リフレクト・ナイト

 ・討伐推奨レベル:6604

 ・天音 凛のステータスを反映し、生み出された騎士。

 ・一部スキルの反映に失敗。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


投影の剣リフレクト・ソード

 ・無名の騎士ネームレス・ナイトつるぎを反映し、生み出された剣。

 ・装備推奨レベル:6000

 ・攻撃力+6000

 ・敵のレベル(討伐推奨レベル)が自分より高かった場合、HPとMPを除くステータスの全項目を+56%。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「俺のステータスと無名剣ネームレスのコピーだと!? そうか、あの時にステータスをインプットされたから……!」


 10個目のダンジョン踏破を終えたタイミングで、確かにそのようなシステム音が鳴り響いていた。


「だからと言って、まさかこんなふうに使われるだなんて思ってもいなかったよ」


 それでもやるしかない。

 俺は無名剣を構えて、投影の騎士と向かい合う。


「さあ、どこからでもかかって――――!」


 その言葉を、俺は最後まで紡ぐことはできなかった。

 いつの間にか、投影の騎士は俺の眼前にまで迫っていたから。

 こちらの想定よりも格段に速く!


「くそッ!」


 投影の騎士が振るった刃を、紙一重で回避して距離を取る。

 そこで改めて敵を見据えた俺は、額に伝る汗を拭いながら苦笑いを浮かべた。


「そうか、そりゃ想定以上の動きもするよな……なんせお前にはその剣があるんだから」


 俺が視線を向けたのは投影の剣――無名剣の性能をコピーした剣だ。

 すなわち、格上に対してはステータスが格段に上昇する。


 投影の騎士のレベルは6604で、現在の俺のレベルは6900。

 ――条件が整ってしまった。


「無名の騎士が持っていた時点でその可能性は考慮していたが、やはり魔物が持っても同様の効果は発揮されるんだな。ったく、やりにくいったらありゃしない」


 俺がこれまで得意としていた格上狩り。

 それを相手から仕掛けられることで、改めて無名剣のチートっぷりを理解する。


「元のステータスと上昇分を含めて、討伐推奨レベルは10000ってことか? 約3000レベルの差。こちらが圧倒的に不利――」


 その事実を理解した俺は、不敵に笑った。



「――だからこそ、挑む価値がある。俺の糧になってもらうぞ、投影の騎士リフレクト・ナイト!」



 そして、死闘が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る