第82話 つかの間の休息

「終わった~~~~~!」


 第一階層のクエスト【魔狼の殲滅せんめつ】のクリアを知らせるシステム音を聞いた俺は、そう叫びながらその場に寝転んだ。

 戦闘から意識を切り替えたことによって、一気に疲れが顔を出す。


「つ、疲れた……俺、こんな状態で戦ってたのか。我ながらよくやったよ」


 自分で自分を褒めていると、再びシステム音が鳴り響く。



『第一階層をクリアしたため、第二階層への挑戦が可能となりました』

『24時間以内に、次の階層へ挑戦するか、リタイアするかを選択してください』

『リタイアを選択した場合、二度と隔絶の魔塔に挑戦することはできません』



 とまあ、そういうことらしい。

 これ以上進むのは無理だと思えばリタイアしてもいいし、次の階層に挑戦するにしても24時間は休養を取れるということだろう。


「さて、どうするべきか。答えを出す前に、考えておきたいことがあるんだよな」


 その内容とはつまり、このダンジョン――隔絶の魔塔には、俺のダンジョン内転移を使用すれば再び入ることが可能なのかという点についてだ。

 もし可能ならば、一度引き返すという手もあるかもしれない。

 一度挑戦した以上、もう他のダンジョンでレベルアップすることもできるはずだからな。

 レベルを倍にしてから戻ってきて楽勝で攻略したい気持ちもある。


「ただ、ここは普通のダンジョンとは違う。ダンジョン内転移でもう一度入れるかは分からないし……何より、もう一度挑戦できたとしてもクエストが発生する保証はない」


 システムの言葉を信じるならば、クエストをクリアしないことには次の階層へ進めない。

 これだけの高難易度ダンジョン、攻略報酬も優れたものである可能性が高い。

 であるならば、なんとしてもそれを手に入れたい。極力リスクは避けるべきだ。



「となると……答えは一つだよな。次の階層に行くしかない!」



 ただ、今すぐにというわけではない。

 HPとMP、それから体力を回復させる時間が欲しい。

 与えられた24時間を最大限有意義に使ってやる!


「……最低限の栄養補給はしなくちゃな」


 重い身体を起こし、アイテムボックスから用意していた水分と食料を取り出す。

 ほとんど食欲はなかったが、無理やり食べきった。


 続けて、俺はアイテムボックスから寝袋を取り出す。


「野宿する可能性も高いと思って一応用意してたんだよな。魔物の急襲なんかには対応しづらくなるけど、どうやらこの階層には他に魔物はいないみたいだし、まあ大丈夫だろ」


 そんなわけで、寝袋に入って眠ろうと試みる。

 ただ、うまくはいかなかった。


「――――眩しい!」


 上空は青空。辺り一面は草原。

 陰もないこんな場所で眠れるわけがなかった。

 システム音に対する憎しみが湧き上がる。


「おいシステム音! この青空、どうにかなったりしないのか!?」


 鬱憤うっぷんを晴らすためにそう叫ぶ。

 もちろん、返事を期待していたわけではない。


 期待していたわけでは、なかったのだが――


「――えっ?」


 ――その直後、なんと青空は夜空に変わった。


「まさか俺の言葉に応えてくれたのか? システム音も、案外優しいところがあるんだな……」


 システム音を見直しかけるも、はっと我を取り戻す。


「落ち着け俺! 死ぬほど辛い目にあわされた後に、ちょっと優しくしてもらって印象をひっくり返すなんて、よくある手法じゃないか。危うく騙されるところだったぜ……」


 危機一髪、難を逃れることに成功した。

 システム音はゴミ。この言葉を忘れないよう復唱しよう。


「システム音はゴミ!」


 すると、夜空は青空へと戻った。


「嘘ですごめんなさい!」


 謝ると、再び青空から夜空へと変わる。


「おい、なんだこれは。まるでシステム音に感情があるみたいじゃないか……もういいや、寝よ」


 めんどくさくなって、俺はそのまま眠った。

 10時間以上、ぐっすりと。

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