第81話 第一階層 『魔狼の殲滅』③
「ふー、これでようやく5分の1か……」
体力回復薬と魔力回復薬を飲みながら、俺は状況を整理していた。
1時間以上戦い続けて、まだそれだけしか倒せていないという事実に心が折れそうになる。
問題は心だけではない。
体力もそうだ。HPやMPは回復薬で増やせても、疲労はそうもいかない。
ここから先、さらなる激戦が待ち受けているはず。
「仕方ない、スキルのレベルを上げるか」
ステータス画面を開き、SPが3610あることを確認する。
今の戦いで40強レベルが上がったため、その分SPも増えていた。
その全てを、俺は1つのスキルに費やす。
スキル魔力上昇を、一気にLV2からLV5まで上げた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
魔力上昇LV5:MPを+50%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「よし、これで疾風を発動できる時間が増える。あれを使っているうちはやっぱりだいぶ戦いやすかったからな。残りと戦う時にもできるだけ使いたい」
敵は群れ。
一度でも主導権を渡してしまえば、いとも簡単に俺は蹂躙されるだろう。
だからこそ一切の油断なく、最初から最後まで俺が優位に立ち続けなければならない。
と、そこで再び地響きが生じる。
地響きはさきほどのそれよりも遥かに大きい。
俺は立ち上がり、速剣を構えた。
「よし――いくぞ」
俺は力強く地面を蹴り、魔狼の群れ目掛けて駆け出した。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
それからどれだけの時間、俺は戦い続けているのだろうか。
3000体を超えたあたりから、どれだけの魔狼を倒したか、大まかに把握することさえできなくなった。
結局あれから休憩のタイミングはなく、連続で第三陣、第四陣が現れたせいだ。
魔狼の咆哮も、レベルアップのシステム音もうまく聞こえない。
俺に向けて放たれた魔法を反射的にかわし、次々と短剣で敵の首を斬っていく。
既に手の感覚は失われ、無意識の状態でただ短剣を振り続けていた。
しかしその傍ら、冷静さを保ち続けている頭の片隅で、とある思考がなされていた。
冒険者は通常、自分の実力で問題なく攻略できるダンジョンに、入念な準備をした上で挑戦する。
それが世界のスタンダードだし、俺だって当然そうしていた。
けど、その常識の外側で戦っている者たちがいる。
冒険者の中でも特別優れた存在であるAランク冒険者――そして、さらにそれを上回るSランク冒険者のことだ。
彼らは毎日のように、これまで誰一人として攻略したことのないような高難易度ダンジョンに挑戦している。
彼らにとって、想定外の事態は常識。
常日頃から自分を上回る強敵と戦っているはずだ。
そしてきっと、それこそが本来のダンジョン攻略というモノなのだろう。
一瞬の油断が死を招くような、ギリギリの戦い。
それを乗り越えた者にのみ、価値ある報酬が与えられる。
ああ、そうか。
ようやく分かった。
きっと俺は今――本当の意味で、ダンジョンを攻略しているのだ。
俺の目標である、トップクラスの冒険者たちのように。
追いつきたい。
いや、違う。世界最強になるためには彼らを追い越さなければならない。
地獄の底で鍛え続ける彼らを超えるために――俺はきっと、それより深い場所にまで潜らなければならなくなるだろう。
今の俺では、まだそこに辿り着くことはできない。
それでも、きっといつの日か辿り着かなくてはいけないから。
だから、俺は――
「こんなところで、止まるわけにはいかないんだよおおおおお!」
――叫び、剣を振るう。
どれだけ疲れていようが関係ない。
目の前に立ちはだかる壁がどれだけ大きくても、俺が立ち止まることは決して許されない。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『経験値獲得 レベルが8アップしました』
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
俺よりレベルの低い敵は短剣で、レベルの高い敵は無名剣を用い、討伐し続けていく。
疲労によって余分な力が抜けた結果、逆に俺の体はもっとも効率的な動きを可能としていた。
そして、戦い続けること約5時間。
とうとう、その瞬間が訪れた。
「うおおおおおおお!」
レベル7000のキングレインボーウルフ10体の首を、10秒足らずのうちに全て斬り落とす。
その流れのまま次の獲物に向かおうと周囲を見渡すも、違和感を覚えた。
「……あ、れ? 次の敵は……?」
そう、俺に襲い掛かってくる敵がどこにもいないのだ。
振り上げた無名剣が、次の標的を定めることができずゆっくりと下がっていく。
そして、システム音が鳴り響いた。
『第一階層 クエスト【
『第一階層攻略報酬 レベルが50アップしました』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第一階層 クエスト【魔狼の殲滅】
・第一階層内にいる全ての魔物の討伐。
・現在討伐数(5000/5000)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「……終わったのか」
システム音を聞き終えた俺は頭上を仰ぎながら、小さくそう呟いた。
かくして俺は、隔絶の魔塔、第一階層を突破するのだった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
天音 凛 19歳 男 レベル:6900
称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)
SP:3610
HP:26300/54440 MP:2650/14560
攻撃力:12600
耐久力:9980
速 度:12900
知 性:12200
精神力:9900
幸 運:11420
スキル:ダンジョン内転移LV18・身体強化LV10・剛力LV10・金剛力LV6・高速移動LV10・疾風LV6・初級魔法LV3・魔力回復LV2・魔力上昇LV5・索敵LV4・隠密LV4・状態異常耐性LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV4・隠蔽LV1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『【隔絶の魔塔】内、合計レベルアップ数:296レベル』(第一階層終了時点)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます