第84話 第二階層 『投影の騎士』②
剣と剣がぶつかる音が、フロア全体に響き渡る。
俺の振るう
優勢なのは
対する俺は、徐々に押し込まれつつあった。
「強い……!」
こちらは最初から全力で、金剛力と疾風を使用しながら戦いに挑んだ。
これによって攻撃力と速度が+60%されるため、投影の剣の全ステータス+56%が反映されたとしても、その2つについては上回るはずだった。
しかし、現実はこうして俺の防戦一方となっている。
ここから導き出される答えは一つ。投影の騎士もまた、金剛力と疾風を使用しているのだ。
鑑定を使用した際、一部スキルの反映に失敗という一文があったが、それは少なくともその2つのことではなかったのだろう。
「速度で上回られると、こうも厄介なのか!」
思わず悪態をついてしまう。
これまで何度も格上の敵と戦ってきたが、無名の騎士やオークジェネラルを含め、常に速度に関してだけは俺が優位に立てていた。
そしてその優位性を活かすことで、俺はなんとか勝利を掴んできた。
しかし、投影の騎士相手にその手は使えない。
何か別の手段を見つけなくてはならない。
だがそれを考える前に、まずはこの猛攻を食い止めなければならない!
「少々不格好にはなるが、仕方ない――
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【
・鍛冶スキルを用いて作成された短剣。
・装備推奨レベル:4150
・攻撃力+3150
・速度+1600
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
無名剣を右手に、速剣を左手に持つ、変調二刀流。
普通ならばあり得ないこの形が、今の状況に最も適していると判断した。
武器やスキルの効果は、主に2種類――パッシブとアクティブに分けられる。
パッシブ効果は恒常的に続き、アクティブ効果は特定の状況でしか発揮されない。
ここで速剣を例えに出すならば、攻撃力+3150はアクティブ効果。
つまり速剣で攻撃した時にのみ発揮されるものであり、蹴りの威力が高くなったりはしない。
対して、速度+1600はパッシブ効果。装備しているだけで発揮されるのだ。
リーチも攻撃力も異なる剣を持つことにより攻撃がしにくくなるというデメリットはあるが、ひとまずそれについては無視だ。
そもそも攻撃できるタイミングがないからな。
なんにせよ、速剣を装備したことにより俺と投影の騎士のスピード差が縮まる。
それでもまだ向こうが大きく上回っているものの、回避に徹すれば戦えないこともない。
防戦一方から、隙を見つけて反撃するくらいならできるようになった。
問題は反撃の手段だ。
投影の騎士は攻撃力と速度だけでなく、耐久力なども上昇している。
生半可な攻撃は通用しない……!
何かないか。
たった1つでも、俺が投影の騎士に勝っている点は。
何か――
「――あった」
――脳裏に、1つの可能性が浮かび上がる。
直感的に、その可能性こそ俺が投影の騎士に勝つための唯一無二の策であると理解した。
直後、投影の騎士の攻撃を躱したタイミングで、さっそく実行に移す。
「これでも喰らえ」
「――――!?」
俺は無名剣と引き換えにアイテムボックスから
魔物が嫌う白い煙のおかげで、投影の騎士は素早く後ろに退いた。
マジックアイテムは、投影の騎士が持っておらず、俺が使える武器の1つ。
有効に活用するに越したことはない。
何も真正面から正々堂々勝ちたいわけでもないからな。
続けて俺は、煙の中で小さく唱える。
「隠密」
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隠 密LV4:MPを使用し、自分の周囲に存在する人や魔物の認識から消える(発動に必要なMP量や隠密範囲はスキルレベルにより変動)。
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スキル隠密。
敵に目視された状態での成功率は低く、嗅覚に優れた獣系の魔物には効果を発揮しないことも多いので、なかなか使用機会のなかったスキル。
しかし今この状況においては、このスキルが何よりも刺さる。
煙が晴れると、投影の騎士は敵を見失ったせいか、きょろきょろと周囲を見渡していた。
どうやら隠密は無事に成功しているみたいだ。
さあ、反撃の時間だ。
心の中で小さくそう呟いた後、俺は投影の騎士とは反対方向に全力疾走した。
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