第37話 新たな短剣

 翌日、俺は再び剣崎ダンジョンにやってきていた。

 目的はもちろん、高速周回によるレベルアップ――の前に、一つ確かめておかなければならないことがあった。

 昨日入手した武器、無名剣ネームレスを実戦に導入するか否かについてだ。


 というのも、無名剣は性能だけを見たら申し分ないが、装備推奨レベルが1000であり俺はまだそこに到達していない。

 無名の騎士を倒した際に使用したのも一瞬のことだったし、メイン武器として扱えるのかどうかについてはまだ不明なままなのだ。


 そんなこんなで、実際に試してみるためにも俺は無名剣を手にダンジョン内転移と唱えた。



 剣崎ダンジョンを普通に攻略すること2時間半。

 オーク、ホーンラビット、レッドボアなどの魔物を倒しながら、俺は第15階層に到着していた。


 魔物がいない辺りで一旦腰を下ろすと、自分のステータス画面を確認する。

 HPが6250から5880に減少していた。


「うーん、やっぱりどう頑張っても少しはダメージを負うんだよな。攻撃力自体は圧倒的に増してるんだから一長一短なんだろうけど」


 一応、両手で持つことで無名剣を使用することはできた。

 攻撃力が上がったため、魔物もたった一撃で両断できる。

 ただその代償として、俺の動きが少し鈍くなってしまっていた。


「無名の騎士と戦った時にはあまり気にならなかったんだけど……もしかしたらあの時は敵のレベルが俺より上だったから、無名剣の効果でステータスが上昇して普通に扱えただけなのかもな」


 反面、今日戦った魔物たちは俺より格下。

 ステータスが上昇することもなく、装備推奨レベルに届いていない影響がもろに出ているのだろう。

 後は、短剣から長剣に変わったことで速度重視の戦い方が難しくなっているというのもあるんだろう。


 これらを考えた末に辿り着いた結論は、無名剣のポテンシャルには期待できるものの、現時点でその力を全て発揮することは難しいというものだった。


「仕方ない、いったん地上に戻って短剣を購入するか」


 剣術スキルを保有していない俺の数少ない利点が、使用する武器の種類に固執する必要がないということ。

 長剣と短剣を、それぞれ適した場所で使い分けることが可能だ。


 今後の方針を決めた俺は、地上に向かってダンジョン内を戻っていく。

 この装備のままでもハイオークに勝てるとは思うが、また違うエクストラボスが現れて戦う羽目になったらシャレにならない。

 ダンジョンボスに挑む際は万全な状態で、だ。



 二時間弱で地上に戻ってきた俺は、さっそく冒険者用の武器を販売している店に向かう。

 剣崎ダンジョンは都心近くに存在するため、歩いて十分足らずで到着することができた。


 俺は短剣がズラリと並んだ売り場に移動する。


「さて、どれにするか」


 使い勝手の良さそうな短剣がないか一つずつ見ていく。

 念のため、鑑定も使用しながら。


「やっぱり攻撃力が上がる他に、特殊能力があるやつは価格が高いな。確かに惹かれるけど、今の俺にはそこまで必要ないかもな……おっ」


 途中に気になったものがあったため、冒険者資格を所有していることを証明する冒険者カードを店員に見せた上で取り出してもらう。

 短剣の形から握り心地まで、以前使用していた夢見の短剣と似ていて感触が良かった。


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霧久地きりくじの短剣】

 ・霧久地ダンジョンのダンジョンボスをソロかつ短剣のみを使用して討伐した際に与えられる報酬。

 ・装備推奨レベル:600

 ・攻撃力+400


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「うん、特殊能力はないけど性能はいいし、レベル制限も問題ないな。これにするか。さて、肝心な金額はと……9、90万か」


 一瞬、90万という金額の高さに物怖ものおじしそうになる。

 が、もともと覚悟していたことだ。

 冒険者用の武器がかなりの値段がするのは周知の事実。

 Cランクダンジョンでも通用するようなものになると、最低でも数十万円はかかってくるのだ。


 だからこれは必要経費だと割り切ることにしよう。

 それ以上の金銭を回収する見込みはあるからな。

 貯金がかなり減ることになるが、背に腹は代えられない。



「これをお願いします」

「はい、購入ありがとうございます」



 霧久地の短剣を購入後すぐに装備し、無名剣はアイテムボックスの中に入れておく。


「よし、これで準備は完了だな!」


 体力的にも時間的にもまだ余裕はある。

 俺は再び剣崎ダンジョンに向け出発するのだった。

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