第36話 やっぱネットってクソだわ

 剣崎ダンジョン攻略後。

 今回の攻略では様々なイレギュラーが発生し、疲労もかなり溜まっていたため、俺は迷宮資源を売却してからすぐ帰宅した。


 そしてベッドに横になって眠る……前に、少しだけパソコンの前に座っていた。

 一つだけしておきたいことが残っている。


 今回、俺が剣崎ダンジョンで遭遇したエクストラボス、無名の騎士の情報について他の冒険者にも広めておくべきだと考えたのだ。

 かなり低確率だとは思うが、俺のように条件をクリアしてしまい、実力が足りない状態であれだけの強敵と戦う羽目になってしまう冒険者がいるかもしれない。

 ……もしくは、もう既に誰かが挑戦して敗北した可能性もあるが。


 これまで、俺も先人たちの攻略情報に何度も助けられてきた。

 同じように誰かを助けることができたなら嬉しく思う。


 と、ここまでが大前提。

 問題はここから。それらの情報を、どういう手段で周囲に広めるかだ。


 一番王道なのは、冒険者協会に直接報告すること。

 ただ、この方法だと無名の騎士と遭遇した時の出来事を事細かに説明しないといけなくなる。

 敵よりレベルが圧倒的に劣る俺が、どのようにして勝利したのかも尋ねられるだろう。

 さらにそこから、ここ最近の急速なレベルアップについても知られる恐れがある。

 できればそれは避けたいところだ。



「ってなると、やっぱりこっちの方だよな」



 パソコンのスクリーンに表示されているのは、冒険者御用達の匿名掲示板だ。

 ここでは毎日のようにダンジョンに関する情報が飛び交っている。


 匿名なだけあってもちろんデマもあるんだが、それ以上に有用な情報も多い。

 仮にデマがあったとしても、すぐに一部の冒険者が興味を持って検証するため、数日のうちに本当か嘘か判明している場合がほとんどだ。

 そして本当だと証明された情報だけ、見やすいようにまとめられている。



「ここでなら俺の素性がバレることもない。じゃあ送信っと」



 無名の騎士が現れる細かい条件と、その強さについて記載した上で送信する。


 すると、すぐに書き込みがあった。


「えーと、どれどれ……こ、これは」


 そこにはたった一言、こう書かれていた。



『2.冒険者名無し

 妄想乙。』



「妄想乙……だと?」


 想定外の内容に俺は驚いていた。

 まさかいきなり妄想認定されるとは思っていなかったからな。


 ただ、匿名掲示板ということもあり、なんでもかんでも否定したがる奴がいるのは理解している。

 きっとすぐ、有益な情報ありがとうございます! という文言で埋め尽くされることだろう。


 しかし、そんな俺の予想が現実となることはなかった。

 むしろ時間を追うごとに、どんどん書き込み内容が苛烈になっていく。



『6.冒険者名無し

 ボスを倒した後にエクストラボスが出現するだけならともかく、さすがにレベルが倍になるのはありえないでしょ。どんな鬼畜ダンジョンなんだよ』


『9.冒険者名無し

 >>6

 それな。しかもそんな場所をソロで攻略するとかありえなさすぎ。仮に事実だとしても、攻略したことないCランクダンジョンにソロで挑む時点で頭悪すぎてびびるわ』


『15.冒険者名無し

 そもそも剣術スキルなしに刀剣類の武器でボス倒すってどういうこと? 剣使う奴って絶対にそういうスキル持ってね? 自分で選択しなくても、ステータス獲得時にもらえるでしょ』


『17.冒険者名無し

 >>15

 ばっかお前、言ってやるなって。スレ主は剣の才能がないから剣術スキルなんてもらえなかったんだよ。で、それが認められないからこんな妄想しちゃってると。なんだか書いてて可哀そうになってきたな』


『22.冒険者名無し

 釣りだとしても冒険者がこんなすぐバレる嘘書くか? きっとスレ主くんは冒険者に憧れる子どもなんだよ。ねぇ僕くん、おとなになってちゃんと冒険者資格を手に入れてからここにこようね?』



 ……このような書き込みが、ズラリと続いている。

 全員に共通しているのは、俺が提供した情報を嘘だと思っていること。


「…………」


 俺は無言のまま、血管が浮き上がった手でパソコンの電源を抜いた。

 もう知ったことか、勝手に嘘だと思い込んでいればいい。

 俺は悪くない、世界が悪いんだ!


「はあ……もう寝よ」


 肉体的だけでなく、精神的にも一気に疲れを感じた俺は、そのままベッドに入る。 

 すると睡魔によって一瞬で夢の世界に連れて行かれるのだった。



 本日の感想。

 やっぱネットってクソだわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る