第31話 VSハイオーク
「……到着してしまったか」
まさか今日のうちに、最下層にまで辿り着けるとは。
正直、これは予想外だった。
「問題はこれからボスに挑むかどうかだが……うーむ」
出てくる魔物と戦う際、回避を徹底していたためHPはほとんど減っていない。
MPについても初級魔法を発動するときくらいしか使用していないので、かなり余裕がある。
様々な事情を考えても、挑戦しない理由がない。
「それに、またここから5時間かけて地上に戻るのも面倒だしな。由衣を置いて行った奴らも似たような気持だったんだろうな」
変なタイミングで彼らの気持ちが少し分かってしまった。
まあ、それはいいとして。
「一応、魔力回復薬を飲んでMPを全快させてっと……よし、いくか」
俺はボス部屋の扉を開けた。
そして、そこにいた敵を見て苦笑いを浮かべる。
「……今から、これと戦うのか」
2メートルを超える長身に、鍛え上げられた肉体。
手には人の体ほどある巨大な棍棒が握られている。
間違いなく、俺がこれまで見てきた中で最も強力な魔物だ。
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【ハイオーク】
・討伐推奨レベル:500
・ダンジョンボス:剣崎ダンジョン
・オークの上位種。棍棒や斧などを武器に使用する、豚の顔をした全身茶色の巨大な魔物。速度、膂力共に強力で、その体から放たれる一撃は大地を軽々と破壊する。
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ハイオークは俺を敵と見定めたようで、禍々しい眼光が俺の体を突き刺す。
「……やるしかないよな」
短剣を構え、覚悟を決める。
かくして、剣崎ダンジョンのボス、ハイオークとの戦闘が始まった。
「グルァァァアアアアア!」
先手はハイオーク。
その体に見合わない俊敏な動きで、瞬く間に距離を詰めてくる。
そして、両手で高々と掲げ棍棒を力強く振り下ろす!
「くっ! なんて威力だよ!」
回避自体は何とか成功するも、地面に叩きつけられた衝撃で足場が激しく振動する。
まともに喰らえば、一発でHPが半分近く削られる恐れもある。
ホーンラビットに匹敵するスピードに、レッドボアを遥かに超えるパワー。
このまま守りに徹しても、活路は見いだせない――なら!
「次は俺の番だ!」
加速。
一気に速度を上げた俺は、敵を混乱させるように縦横無尽に駆けながらハイオークに迫っていく。
ハイオークの武器は巨大な棍棒。
俺のようにちょこまかと動き回る相手には、攻撃を当てにくいはずだ。
「――――今ッ!」
俺の動きについてこれていないハイオークに対して、短剣で斬りかかる。
腹をそれなりに深く斬ることができた。
しかし――
「胴体がでかいせいか、これくらいならお構いなしってか?」
ハイオークは痛がる素振りも見せず、乱暴に棍棒を振り回す。
棍棒は非常に大きいため攻撃範囲も広いが、冷静に対処すれば回避は難しくない。
むしろ、棍棒を振り切った後は、俺にとって反撃に転じる大きなチャンスとなる。
「はあッ!」
「ガァアアアア!?」
ハイオークの背後に回り、一閃。
右脚の膝裏を斬る。
胴体に攻撃しても反応が鈍いのなら、関節を破壊して動きそのものを封じてやろうという魂胆だ。
「まだまだ!」
そこからは一方的に俺のターンになった。
傷を負うごとにハイオークは混乱し、ハイオークが混乱するごとに俺が攻撃をしやすくなる。
腕、脚、脇腹、背中に何度も何度も斬りかかる。
腱が断ち切られたせいか、既にハイオークが手にしていた棍棒は地面に落ちている。
一振り一振りのダメージは少なくとも、回数を重ねれば致命傷にも繋がる。
その調子で、あとラスト数回と思った瞬間だった。
ハイオークの禍々しい目に、これまでになかった光が灯る。
なんとかして一矢報いようという目だ。
ハイオークは自身の口を大きく開けて、俺の方を向く。
全身全霊の咆哮を浴びせようとしているのだろう。
が――――
「させると思っているのか?」
――その目論見を実行に移すよりも早く、ハイオークの懐に潜り込んだ。
そして短剣を逆手に持ち替え、全力で振り上げる!
短剣の切っ先が深く、根元までハイオークの首に突き刺さった。
短剣を抜くと勢いよく血が噴き出し、そのままハイオークは崩れ落ちる。
そして、鳴り響くシステム音。
『ダンジョンボスを討伐しました』
『経験値獲得 レベルが4アップしました』
『ダンジョン攻略報酬 レベルが25アップしました』
「……ふー、勝ったか」
俺とハイオークの戦いは、結果としてHPとMP共に1も減らない圧勝に終わるのだった。
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