第2話 ルールに縛られぬモノ

 迷宮資源を売却した後、俺は電車に乗って自宅の最寄り駅に帰ってきた。

 夕凪ダンジョンの攻略を短時間で終えたため、まだ日は高い位置にある。


 特に趣味がない俺は寄り道をすることなく岐路につく。

 その途中、よく見慣れた場所に辿り着いた。


 この町では最も大きな公園である、紫音公園。

 そこにいるのはボール遊びなどをする子供たちではなく、武器を手にした冒険者たちだった。

 約5年前、公園内に出現したEランクダンジョン【紫音ダンジョン】を攻略しにきた者たちだろう。

 落ち着きのない奴が多いし、あまり場慣れしていないのかもしれない。



「俺が初めて挑んだダンジョンも、この紫音ダンジョンだったんだよな……Eランクなだけあって難易度もダンジョンの中では最低レベルだし、初心者に適してるって感じだけど……」



 その分、得られるものも少ない。

 出てくる魔物は弱い代わりに経験値はほとんどないし、ダンジョンボスを倒して得られる報酬も1レベルアップのみ。

 ある程度力をつけた冒険者にとっては、一切挑む価値がないような場所だ。

 俺も最初の数回くらいしか入ったことがない。


「ちょっと寄っていくか」


 時間に余裕があるということもあり、俺は紫音公園に足を踏み入れた。

 別に挑戦するつもりがあるわけではない。一週間の再挑戦期間スパンもあるし。

 ただ、少し懐かしくなっただけだ。


 紫音ダンジョンはレベル制限がないため、ダンジョン管理人が常駐していない。

 ちょうど今は昼時ということもあり、誰もいなかった。


 俺は他の冒険者たちに続くようにして、ダンジョンの入り口であるゲートに入ろうとする。

 が――


「やっぱりこうなるような」


 目には見えない力に阻まれ、中に入ることができない。

 分かってはいたことだが、ため息の一つでもつきたくなる。


「はあ、このスパンってやつがなければ、どんどん色んなダンジョンを攻略してレベルアップしていくのに……誰だよ! こんな訳の分からん仕組みを考えた奴! いるんなら返事しろ!」


 吠えてみるが、当然返事などあろうはずがない。

 ただのストレス発散だ。


 と、

 不意に俺は、とあることを思いつく。


「そうだ、もしかしてダンジョン内転移で中に入れたりして!」


 今回のレベルアップで、条件が今いるダンジョン内から、足を踏み入れたことのあるダンジョン内に変わった。

 ゲートさえ通らなければ、中に入ることは可能かもしれない。


「いや、まあ実際はそりゃ無理なんだろうけど……試すだけならタダだよな!」


 ちょうど周りに誰もいないこともある。

 俺はさっそくダンジョン内転移を使ってみることにした。


 過去の記憶から、紫音ダンジョンを入ったすぐの場所の場所を思い出す。

 すると自動的にそこに至るまでの転移距離が定まり、発動時間が計算される。


 距離は5メートル、時間は×3の15秒。

 全く期待しないまま、その時間が過ぎ去るのを待つ。


 そして――――

 


「うそ……だろ」



 俺は、驚愕に目を見開くこととなった。


 だって、今俺がいるのは、紛れもなく紫音ダンジョンの中だったのだから。


「成功したのか!? 本当に!?」


 絶対に今回も目に見えない力で弾き返されると思っていた!

 でも、現にこうして俺は中にいる!

 成功したんだ! 転移が!


 すげぇ! 興奮が止まらない!

 これからは攻略後のスパンを気にする必要がなくなるんだ!

 レベル上げの効率が、何倍にも膨れ上がる!


「いや、待て、落ち着け。問題はここからだ。中に入れたのはいいが、攻略時のレベルアップがもらえないようじゃ意味がない……!」


 そう、喜ぶのはまだ早い。

 俺は何度も深呼吸して無理やり興奮を鎮める。


「よし、落ち着いたな。さすが俺、ソークール……Eランクダンジョンとはいえ、久々にやってきたんだ。慎重に、ゆっくりと、攻略していこう!」


 その後、俺は全速力で駆けだした。

 そしてレベル15もあればソロ攻略ができるとされている紫音ダンジョンを、ものの一時間足らずで突破するのだった。



『ダンジョン攻略報酬 レベルが1アップしました』



 そして、目論見通り、レベルアップに成功する。


「ははっ……やった!」


 今度ばかりは、何の遠慮もいらない。

 俺は全力で喜びの舞を踊り、ビクトリーポーズを披露した。

 観客誰もいないけど。


 さて。

 冗談はさておき、これは本当にとんでもないことになったかもしれない。

 ダンジョン内転移のおかげで、俺は攻略報酬によるレベルアップの恩恵を際限なく受けることができるんだ。


 EランクダンジョンやDランクダンジョンを繰り返し攻略するだけでも、Aランクダンジョンの強力な魔物を相手にするより、圧倒的に効率良く成長することができる!


「よし、そうと分かれば――!」


 その後、俺は興奮収まらぬまま、何度も何度も紫音ダンジョンに挑戦した。

 そして日が暮れるまでの間に、合計9レベルもアップするのだった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 天音 凛 19歳 男 レベル:109

 SP:0

 HP:940/940 MP:150/150

 攻撃力:240

 耐久力:170

 速 度:240

 知 性:120

 精神力:90

 幸 運:230

 スキル:ダンジョン内転移LV10・身体強化LV3・初級魔法LV3


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る