世界最速のレベルアップ ~無能スキル【ダンジョン内転移】が覚醒した結果、俺だけダンジョンのルールに縛られず最強になった~
八又ナガト
第一章 ダンジョン内転移の覚醒
第1話 覚醒の日
Dランクダンジョン【夕凪ダンジョン】の第15階層。
そこには既に10体を超えるゴブリンの死体が転がっており、残っているのはたったの3体。
その3体を、俺は一人で相手にしていた。
「はあっ!」
ザシュッ!
振るった短剣の切っ先が、ゴブリンの喉を切り裂く。
血を吹き出しながら倒れていくのを尻目に、残る2体に襲い掛かる。
「ガアッ!」
「ダアア!」
「遅い!」
2体は連携しながら攻撃してくるが、俺には通用しない。
これでも一応、冒険者歴は一年だ。
このくらいの攻撃は、嫌というほど見てきた!
「これで、トドメ!」
攻撃をかわした後、俺はそのまま二体にトドメをさした。
すると、脳内に聞き慣れたシステム音が鳴り響く。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
「おっ、きたか。んじゃ、ステータスオープン」
5日ぶりのレベルアップだ。
俺はすぐにステータス画面を開く。
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SP:0
HP:785/820 MP:120/130
攻撃力:200
耐久力:160
速 度:180
知 性:110
精神力:80
幸 運:220
スキル:ダンジョン内転移LV9・身体強化LV3・初級魔法LV3
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ダンジョン内転移
使用MP:2MP×距離(M)
条 件:発動者のいるダンジョン内に対してのみ転移可
転移距離:最大で20メートル
発動時間:3秒×距離(M)
対象範囲:発動者と発動者が身に纏うもの
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うん、確かにレベルが94から95に上がっている。
ステータス的には各項目が少しずつ上昇しているだけなので、大きな違いを感じることはない。
にしても、やっぱりステータスを見るとつい落ち込んでしまう。
自分の無能っぷりが目に見えて分かるからだ。
「普通、ゲームだったらレベル95ってかなり上の方だよな。なのに現実では下の下……いや、下の中くらいか? 確か世界ランキング上位は10万を超えてるって話だし。はあ、全く追いつける気がしねぇ」
まあ、ダンジョンが初めて出現したのが20年前。
その頃から第一線で活躍してる人でそれなんだ。冒険者歴一年の俺が追い付こうとするのがおこがましいのかもしれない。
「っと、まて。確か夕凪ダンジョンって攻略報酬でのレベルアップが5レベルだったよな?」
ダンジョンを攻略すると、攻略報酬の他に、レベルアップが行われる。
Eランクダンジョンなら1レベル、Aランクダンジョンなら100レベルといったふうに、ダンジョンによってその数値は決まっている。
ここ夕凪ダンジョンは、それが5レベルとなっている。
この話を聞くと、ダンジョン内の魔物を倒して経験値を稼ぐより、ダンジョンを何度も攻略した方が効率よくレベルアップできるんじゃないかと思う人もいるだろう。
しかし、それを実行するには一つ大きな問題が存在するのだ。
ダンジョンを一度攻略すると、次に挑戦できるようになるまで一週間の
どういう原理かは分からないが、冒険者の攻略情報は世界中のダンジョンで共有されているため、他のダンジョンに挑むこともできない。
実際のところ、俺のようにダンジョン内で日銭を稼ぐ冒険者にとって、ダンジョン攻略はあまりうま味が存在しないのだ。
「けど、今は例外だな。攻略すれば一気にレベル100になるし……」
自分のスキルを強化する
レベル100でもらえるSPは100。これはそのまま俺のユニークスキル・ダンジョン内転移のレベルを9から10にするのに必要な数でもある。
スキルにもよるが、LV10になったタイミングで強力な効果を得るものが多々あるという。すぐに試したいところだ。
「よし、この先一週間はダンジョン攻略できなくなって稼ぎは減るが、背に腹は代えられない。いこう!」
俺は覚悟を決めて、夕凪ダンジョンの最下層、第20階層へと向かった。
夕凪ダンジョンのボス、
しかし、俺はもう相手にするのが3回目。最後まで落ち着いたまま戦い、無事に倒すことができた。
夕凪ダンジョンの攻略報酬は、何に使うのかも知らない、二束三文でしか売れない魔石と、先ほども言っていた5レベルアップだ。
期待していた通り、倒した直後、脳内にシステム音が鳴り響く。
別にスクワットやビクトリーポーズをしなくても、勝手に報酬はもらえる。
やったね!
『ダンジョン攻略報酬 レベルが5アップしました』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
天音 凛 19歳 男 レベル:100
SP:100
HP:650/860 MP:80/140
攻撃力:210
耐久力:170
速 度:190
知 性:120
精神力:90
幸 運:220
スキル:ダンジョン内転移LV9・身体強化LV3・初級魔法LV3
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「ふう」
一度大きく深呼吸する。
今日この瞬間が、俺の冒険者人生を大きく左右するものになるかもしれない。
「思い返せば、この一年間、色んなことがあったな」
高校を卒業してすぐに、俺は冒険者資格を取りダンジョンに挑戦した。
ダンジョン内の特殊な魔力を浴びた俺は無事にステータスを獲得することに成功し、その際にユニークスキル・ダンジョン内転移を手に入れた。
ダンジョン内を自由に転移できるという規格外の力に、最初は多くの者が驚愕し、期待を寄せてきた。しかし実際に扱ううちに様々な欠点が露見し、使い物にならないとして、無能スキルだと蔑まれるようになった。
悔しかった。
見返してやりたかった。
このスキルの力はこんなもんじゃないぞって言ってやりたかった。
だから、同期がどんどんと成長するなか、俺は地べたを這ってでも冒険者として活動し続けたのだ。
その努力が報われるかどうかが、今決まる――!
「さあ、いくぞ」
覚悟を決めて、俺はSPを全てダンジョン内転移に振り分けた。
変わるのは転移距離か、発動時間か、対象範囲か。
それとも――
『ダンジョン内転移のスキルレベルが10に上がりました』
『条件が変更されます』
『発動者のいるダンジョン内に対してのみ転移可→発動者が足を踏み入れたことのあるダンジョン内に対してのみ転移可』
脳内に鳴り響く音は、それで終わりのようだった。
「発動者が足を踏み入れたことのあるダンジョン内に対してのみ、転移可……?」
その言葉の意味を呑み込むのに、しばらく時間がかかった。
そして俺は、自分が望んだ結果ではなかったということを理解する。
「そりゃそうだ……そんなうまくいかないよな」
転移距離がダンジョン内全てになれば、発動時間が0秒になれば、対象範囲が自分以外の冒険者も含まれるようになれば。
色んな妄想はしていたが、そこまで甘くはなかったらしい。
まあ、それを差し引いてもちょっと意味が分からないが。
俺が足を踏み入れたことのあるダンジョンに転移できると言われても……ダンジョンとダンジョンは最低でも数キロ離れている。
転移距離が20メートルからどれだけ伸びようとも、実行できる機会はまずないだろう。
完全に無意味な進化だ。
「はぁ」
最後に一度、大きく落胆のため息を吐く。
一年越しの期待が裏切られたんだ。こうなってしまうのも許してほしい。
そんなふうに気落ちしていると、俺の体が淡い光に包まれる。
地上に帰還する転移魔法が発動される合図だ。
「……っと、あぶないあぶない」
俺は急いで、攻略報酬の魔石と、双尾獣の魔石を回収した。
そして転移魔法の発動を待つ。
本当は三日三晩、枕もとで涙を濡らしたいくらいには落ち込んでいる。
けれど、いつまでもそうは言ってられない。
「次、スキルが大きく進化する可能性があるのはLV20の時か。何年かかるかは分からないけど、また一から頑張っていくしかないな」
パシンと、両手で自分の頬を叩き、新たに気合を入れる。
それと時を同じくして、転移魔法が発動する。
そして俺は地上へと帰還するのだった。
この時の俺は、知る由もなかった。
ユニークスキル・ダンジョン内転移の真価を。
今回スキルがレベルアップしたことによって得た力が、とんでもない効果を発揮するということを。
――それを知るのは、今から一時間後のことだった。
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