第2話 はだかの冒険者。

1、


 田舎の村へと続くひなびた街道、その雑草の生い茂る道を1組の男女が歩いていた。

 1人は軽装で露出度も高いがしっかりと服を着ている可愛い少女。

 もう一人は軽装ではないが露出度は全開の一切服を着ていない筋肉ムキムキの漢。

 2人が並んで歩いているところを目撃したものは、間違いなく無視して通り過ぎることが出来ないだろう。

 少女の方はリジィエール・フォン・マクシミランという冒険者を志す少女。愛称はリズである。

 男の方はマッスルという、異世界から神の代わりに魔王を討伐するために遣わされた勇者である。

 この説明だけでも草が生えそうだwww。

 と、思っていたら、実際に2人の周りの土が盛り上がって草が生えて来た。

 植物系のモンスターでマッド・ブッシュという奴の一種であろうそいつは、簡単に言うと太めの植物の蔦である。

 田舎であり、魔王の勢力圏から遠いここではマッド・ブッシュは他人に絡みつく厄介な植物程度のものである。

 とは言え、場所によってはその強さは千差万別であり、絡みついた獲物の全身の骨を粉々に粉砕するほどの力を持つものや、人を丸のみにする花を持ち、飲み込んだ人を麻薬みたいな物質で快楽漬けにしながらじっくり消化する奴もいるので油断はできない。

「んにゃああぁぁぁ!。」

 突如地面から生えたマッド・ブッシュは少女の方、リズに襲い掛かった方は両足に絡みついてリズの体を持ち上げた。

 マッスルの方に来た蔦はマッスルによってちぎっては投げ、ちぎっては投げ、とされていた。

「にゃあああああああああ!やめろおおおおおおおお!」

 しかしそうしているうちに持ち上げられたリズ必死に抵抗するも、蔦はさらに絡んでいく。

 両足は蔦に絡みつかれて自由に動かせなくなっており、しかもガバリと大股開きにされてしまっている。

 必死に蔦を外そうとするリズだが、蔦はリズの胴体から腕にまで絡みついてきてさらに身動きが取れなくなってきてしまった。

 リズはゆるふわウェーブのショートカットの猫のような顔をしている少女である。

 大きな目を見開き、口を開けては八重歯をのぞかせて叫ぶ顔は本当に猫みたいだ。

「うにゅああああぁぁぁぁぁ。」

 胴体に絡みついた蔦がリズの体を締め上げる。

 リズは小柄でやせ型な体型であるためウエストはかなり細く、あばら骨が浮き出てしまっている。

 そして、華奢な体のわりに胸が大きく、裾の短いお腹が出るシャツの上に装備している胸当てにはどうしても隙間ができてしまうのである。

 蔦はその隙間、谷間や側面の尾根に入り込んで胸当ての下からリズの胸を絞り上げていく。

 革製の胸当てだが防具だけにそこそこ硬い。その胸当ての内側にこねくり回されるリズの胸の敏感な部分が擦られてしまい。

「アァン、――――アッ、やん、んんんんん。」

 刺激から色ぽい声が出てしまうリズは顔が真っ赤になる。

「――――――くっ、この。」

 リズは力任せに絡みついてくる蔦を引きちぎる。

 しかし、蔦はちぎれた先から伸びてきてはリズの体に絡みついてくる。

 加えて、引きちぎった断面方は白くてドロリとした蔦の汁があふれてきて、それがリズの顏や胸やお腹に掛かってドロリと滴る。

 どこからどう見てもエロいとしか言いようがない光景になってしまっている。

「うーーーーむ。」

 それをマッスルは顎に手を当てて眺めていた。

「てっ、おおおおおい、何見てんだよ!」

「うむ、リズはウエストが細くキュッと細く全体的に小柄だが、手足は長めで鍛えてるだけあって肉付きがいい。アンバランスかと思うたが改めてみると野生の猫の様な美しさがあると思ってな。特に尻と太ももの形が綺麗だ。」

「どこ見てんだエロがっぱーー。てか何でお前は蔦に絡まれてないんだ。」

「いや、絡まれていたぞ。ただ来るやつを皆ちぎったり潰したりしてたら止まった。だからリズもそのままちぎってたら止まると思うぞ。」

「だとしてものんきに見てないで助けろよ。仲間だろぉ。」

「助けていいのか?」

「助けてください。」

「おーけー、ちょっと待ってろ。」

 そう言うとマッスルはリズから少し離れて行き、

「えっ、―――ちょっ、待って。」

 置いて行かれると思ったリズが手を伸ばしたところで、マッスルはおもむろに地面に拳を突き込んだ。


 ドォォォォン!


 ズボォォォォォォォ。


 そして引き抜いて出てきたのは人の頭蓋骨とそれに絡まる球根のようなモノ。

 球根部分はドクドクと心臓のように脈打ち、リズに絡みついている蔦を伸ばしていた。

「フンッ!」

 グシャァァァァァァ。

 マッスルが片手でその頭蓋骨と球根を握りつぶすとリズに絡みついていた蔦がしおれて、リズはお尻から地面に落っこちた。

「痛たたたた、もしかして今のが核だったの。」

「だろうな。それでこいつはよくいるのか。」

「ええ、沢山いるよ。」

「……お前そんなのに敵わないとか、冒険者やっていけるの。」

「たくさんいますけど普通は襲ってきても気づかずに踏み潰すくらい小っちゃいんですよ。」

「それでは最早別物では?」

「ソレもこれも魔王の影響です。」

「魔王の影響とは。」

「――――――マッスルさん、……それより日が暮れる前にキャンプを張りましょう。話はそれからで。」


2、


 マッスルとリズは先ほどのマッド・ブッシュが出てきた道を少し戻ったところの森の入り口にキャンプを張った。

 この場所はリズの住んでいた村から約半日の距離にある。

 マッスルはリズの村でリズを助けたお礼として、ささやかながら歓待を受けて、リズの体調が良くなった3日後に出立した。

 朝の早めに出立して日が暮れるギリギリのところで森を抜けたのだが、どうやらここが村の結界の効果が完全になくなる境界だったようだ。

 村の近くや森でも獣や弱い魔物が出たりしたが、ここから急に魔物の強さが変わったのでリズが念を入れてここでキャンプを張ろうと言い出したのだ。

 日が暮れる前に寝床となるテントを張ることができた。

 テントは少し古いモノだが、もともとが良い物なので使い勝手は良さそうだ。

 これは元冒険者だったリズの父から譲られたものである。

 テントの横で火を起こしていたら日が暮れた。

 リズは父からのおさがりである冒険者御用達の魔法のカバンから、今夜の食事になる羊肉の燻製とミルク、そして調理器具を取り出した。

「ほぉ、今夜はリズの手料理が食べられるのか。」

「何言ってんすか。」

 出会ってから数日を過ごしたことで、マッスルに対するリズの口調は砕けたモノになっていた。

「ワタシの料理なんて村の女性たちに比べれば大したことないですよ。」

 村に滞在していた間は村の人達からそこそこいいモノを提供されていたマッスル。

「じっさい今からやるのだってミルクを温めて肉を炙るだけじゃないですか。」

「手間の問題じゃないんだ。リズが用意してくれる料理が楽しみなんだ。」

 トクン。

 優し気な目線でマッスルに見つめられながらそんなことを言われたリズの胸が高鳴る。

 心なしか頬も赤くなっている。

 しかし、

 改めて見ても一糸まとわぬマッスルの全裸ぷりにリズのトキメキなんか一瞬でどっかに逝ってしまう。

「全裸でさえなければなぁー。」

「何か言ったか?」

「何も言ってませんよぉー。」

 リズはマッスルから顔を背けてため息をついた。

「ところで、生ものも欲しいと思って道中食べられそうなものを取っておいたんだが、これらは食べられるモノか。」

 リズがマッスルの方に顔を戻すと、いくつかの果物が差し出されていた。

「ぬけめないっすねぇー。どれどれ、ああ~、これなら生で食べられますよ。」

 リズはマッスルから手渡された果物を見てそう答える。むしろ手の中の果物はいい感じに熟れていておいしそうだ。

 リズは口の中によだれが溜まってきているのを自覚しながら、ふと疑問に思ったことを訊ねた。

「ところでコレ、何処から出したんすか。」

「ん、それならここだ。」

 そう言って、マッスルは自分の股間に手を突っ込んで新しい果物を取り出す。

「んにゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 リズは持っていた果物をマッスルに投げつけると、手を服でぬぐおうとして、しかし悩んだ末に代わりに座っていた石に手をこすりつけた。

「何するんだ。もったいないだろ。」

「何するんだはこっちのセリフです。なんてものを持たせるんですか。」

「ん?これ食べられるんだろ。ソレともホントは毒があるとか。」

「毒はないっすよ。毒は!でもそれ以前にバッチイんですよ。」

「それなら布で拭くか皮を剥けばいいじゃないか。」

「そういう問題じゃない!股間なんかに入れてるのが問題なんですよ。てか、なんで股間から果物が出てくるんですか。」

「あぁ、それはこれがな――――

 そう言ってマッスルは股間のモザイクにズボオオオオォォォォと手を突っ込んだ。

 それを見ていたリズは顔を引きつらせていたが、マッスルは気にすることなくゴソゴソと股間をまさぐる。

「このゴッドモザイクは、――あっ、こっちじゃ「神の見えざる手」って言ったっけ、これはこっちに来るとき神様から貰った力なんだが、ただ光ってるだけじゃなくて空間をゆがませて亜空間に繋げられるんだ。そしてそこにいろんな物をなおして置けるってわけさ。さしずめ四次元ポケットてところだ。」

「四次元ポケットてなんですか?」

「あ―――――、そうかこっちの世界じゃ通じないか。例えるならそのリズが持ってる魔法のカバンみたいなものってことだ。」

「なるほど。ですがなんで股間からなんですか。」

「そりゃ股間に一番神の力が宿ってるからな。」

「なんで股間なんですか。」

「そりゃぁ、最初に人間が恥じらいを持ったのが股間だからだろ。」

「くっ、理にかなってるところがムカツク。」

「で、これを”裸”パックかマッスル・パックかどっちで呼ぼうか悩んでるんだけど、どっちがいいと思う。」

「どぉ~~~~~でもいいくらい、どうでもいい。」

「そうかなら”裸”パックとなずけよう。」

 ハァ~~~~~~~。とマッスルから顔を背けてため息をつくリズであった。

「それで話の本題だが。」

 マッスルの言葉にリズは顔を戻すと真剣な顔をしたマッスルがいた。

「魔王の影響、というものについて説明してくれ。」

 しかしどんなに真剣な顔をしていても全裸なマッスルが相手では、リズの顏が苦虫を噛み潰したようにしかならなかった。


3、


「魔王の影響というのは魔王がこの世界に現れてから起こった現象です。」

 リズは説明を始めながら火で肉を炙り始める。

 マッスルは股間から取り出した果物をリズに投げてよこすが、リズはそれを投げ返す。

「いらないのか。」

「いりません。」

 そう言われて、投げ返された果物をマッスルはかぶりつく。

「魔王が現れてから、魔王の配下でない魔物たちですら強く成ったり、普通の植物や動物たちですら魔物に成ったりするようになったんです。」

「その普通と魔物の違いってなんなんだ。」

「魔物は死ぬと死体が消えて魔石を落とします。」

「魔石ってこれか。」

 マッスルは股間から指の先ほどの大きさの黒光りする石を取り出す。

 リズはマッスルの股間から何が出てきてももう驚かないぞ、と心に決めて頷く。

「そう、それが魔石です。ちなみに魔石は黒だけじゃなくいろんな色があります。」

「ふ~む、ソレでその魔物は弱っちい奴ですら魔王の影響でさっきのみたいに強くなっちまうと。……大丈夫か、冒険者やっても。」

「さっきのはとりわけ強くなっていたんです。それにワタシだってレベルが上がれば――――

「ちょっと待った、…………この世界にはレベルアップとかあるのか?」

「はぁりぃまふよ。」

 リズは焼けた肉をほおばりながら頷く。

「女の子が口に入れたまま喋るなよ。はしたない。」

「マッスルさんには言われたくないなぁ。」

 全裸を前に最早はしたないとか言えないだろうと思うリズだった。

「それで、レベルアップてのは敵を倒して経験値を集めればできるのか。」

「経験値?なにそれ。レベルアップはね、その魔石から抽出する魔素から作るポーションで上げるのよ。」

「ポーションでか。」

「そ、レベルポーション。けどこれって錬金術のスキルがないと作れないから田舎じゃ手に入らないのよ。」

「なるほど、それでリズはレベルが低いわけだ。でもだったら鍛えるよりレベルを上げときゃいいってことか。」

「そんなことないよ。レベルが上がってステータスに反映されるのにはその人のポテンシャルが必要なの。あと武具の性能も。だからみんな頑張って鍛えているしより良い装備を求める。」

「なるほど、それでステータスってのは?」

「ステータスはその人の能力と装備、それらがレベルの高さによって引き出される総合的な数値。この数値の相対的な差が戦いにおいて重要になるの。」

「ではそのステータスはどうやって確認するんだ。」

「それはギルドに入って魔法のかかったカードをもらわないと確認できないわ。例外としてアナライズのスキルを先天的に持っていれば見れるけど。」

「ふむ、スキルもあるのか。」

「あるわよ。先天的に持ってる人もいるけど基本は努力で習得するものよ。」

「じゃあ今ここで教わることはできないのか。」

「そうね、スキルはギルド登録して、ジョブを決めて、クラスを確認して、それからってところよ。」

「なんでギルドに登録しなきゃ、いや、何故ギルドにステータスの確認やスキルの習得ができるようになるんだ。」

「んー、ワタシも詳しくは知らないけどギルドをまとめている神様の力とか―――――って、そう言えばマッスルって神様の力を授かってるんでしょ。分からないの。」

「そう言えばこの世界に来るとき女神さまが特典を用意してくれてた――――

「なになになに、どんなの、見せてみてよ。」

「んだけど、説明聞かずに来ちゃった。」

「何でよ!」

「全裸で外を歩けるから。」

「馬鹿なの。それだけで異世界に来ちゃうの。」

「馬鹿とは失敬な。俺にとっては大切な事なんだぞ。」

「本当に何も聞いてこなかったの。」

「うむ。だが、ゴットモザイクのこととか見ていたら頭に情報が流れ込んできたし、たぶんそのうち理解できる。」

「頼りになるのか、ならないのか……」

「とりあえず飯も食ったし寝るか。」

「そうね、明日も早いし。」

「見張りはどうする。」

「ふふん、このテントには警戒機能もあるのよ。危険が迫れば起こしてくれるから問題ない。」


 ところがここに一つ大きな問題があった。

 テントは一つ。数人が寝れる大きさがあったが、そこにうら若き少女が全裸の漢と一緒に寝ることになることを失念していた。

『わ~~ん、ワタシのバカバカバカ。これじゃぁお嫁に行けなくなっちゃうよぉ~。てか、寝付けないぃぃぃぃぃぃぃ!』


4、


 それから2日後。

 マッスルとリズの2人は冒険者ギルドのあるグリーンという街にやって来ていた。

 中世ヨーロッパのイスパニアの様な街並みに興味津々で視線をめぐらせるマッスル、その横で疲れ果てた顔をしているリズがいた。

 最初の村から歩いて3日の距離にあった街に来る間、最初の1日以外でも魔物と遭遇して戦うことがあった。

 しかし強い敵は初日に遭遇したマッド・ブッシュくらいのもので、2日目からは難なく勝てる相手だった。

 マッスルが神の加護を受けてるだけあって、どんな攻撃にも無傷で、かつ一撃で倒してしまうのだ。

 途中からは「ワタシにもやらせてくださいよ。」と言うリズに譲ったりもしたけど、リズも鍛えてるだけあって危なげなく魔物を倒していった。

 つまり道中はとても順調に進み、それほど疲れるようなことはなかった。

 なのに、マッスルの横でリズがげっそりとしているのはなぜか。

 理由は街に入るための門で起きたいざこざが原因だった。

 何が悪かったのか言うまでもないだろう。

 マッスルの全裸である。


 少し前、

「こら、そこのヘンタイ、止まりなさい。」

 門番の衛兵であるエリックはそう声をかけてからハタッと気が付いた。

 あまりにも堂々と歩いてくるので勝手にヘンタイと決めつけてしまっていたが、彼の本意ではないのでは、と。

「キミ、もしかして追いはぎにでもあったのか。」

 道中で身ぐるみを剥がされた哀れな被害者が、何とか街にたどりつき、服は無くても胸を張って生きようとしているんじゃないか。そう思ったのである。

 しかし、

「いや、追剥には会ってないぞ。」

「じゃあ何故全裸なんだよ。」

 きっぱりと言い切る全裸の漢に(こいつやっぱりヘンタイなんじゃ。)と思うエリックだったが、根気よく問い詰める。

「なぜアナタは服を着ていないのですか?」

「むしろなんでお前は服を着ているんだ?」

「何言ってんだコイツ!」とあまりの返しに、エリックは全裸の隣を歩いていた小柄な少女に問いつめた。

 亜麻色のショートカットが可愛い少女だったが、エリックは顔を背けられた。

 これが意外とショックだった。

 小柄で亜麻色のショートボブの彼女はエリックの好みだったのである。特に、軽装でちょっと露出があり胸当ての上からでも分かる肉付きの良さに目を奪われた。

 そんな娘を連れているのが全裸。

 エリックはちょっとイラっとした。

「人は服を着て生活するのが常識なんですよ。」

「その常識は誰が作った。」

「(イラッ)知りませんよ。昔の誰かがそう決めたんでしょ。」

 エリックは当たり前の事を当たり前の事として、当たり前のように言った。しかし――――

「だが、神はそれを許してはいない。」

「――――――――――――は?」

 それをよく分からない理論で否定された。

「お前は服を着て生まれて来たのか。」

 全裸の漢はエリックに詰め寄り顔を覗き込むように聞いてきた。

「―――い、いや。そりゃぁ生まれてきたときは服を着てなかったけど。」

「なのに今は服を着ているな。」

「着るでしょう。誰もが服を着るのが当たり前――――

「だが、それが間違いだとしたら。」

 全裸の気迫に負けてしまっているエリックは隣の少女に助けを求めるように顔を向けた。

 「ごめんなさい。」言葉には出さないが、態度でそう言っていた。

 ここにきて仲間がだれも助けに来ないことに気が付いたエリックだったが、時すでに遅く、至近距離から全裸の話を聞くことになった。

「いいか。そもそも人は神と同じく全裸たる存在として生まれたのだ――――――


 そして全裸の話を聞き終えたエリックは最後の抵抗として、

「神が人を服を着た状態で生めなかっただけでは?」

 そう答えたエリックだったが、

「魔物の中には生まれながらに服を着てるモノや鎧を着ているモノが居るじゃないか。なのに人間だけ服を着ていないのはそれが正しい姿だからだ。」

 そこでエリックの心は折れた。      チィーーン。


 そして現在に至る。

 物珍しそうに街を見渡す全裸と、その横を疲れた顔で付いてくる少女をエリックが案内していた。

 2人の目的地は冒険者ギルドだそうだ。

 冒険者になるために田舎から出て来たそうだ。

「2人の名前は、何処から来たの。」

 エリックは道中の話のタネにと聞いてみた。

「あっ、ワタシはリズ、トノチャの村から来ました。」

 と、エリックの好みの女の子が少し元気を取り戻したように答えてくれた。

 それにイイ気分になっていたところに―――

「俺はマッスル。異世界から来たばかりで住所はない。」

 とか、全裸が余計なことをしゃべって来る。

 (異世界?)と、少々気になる単語が聞こえたが、エリックは全裸の言葉を聞き流してリズという少女との話に夢中になった。

 そうしているとほどなくして冒険者ギルドの扉の前に来てしまった。

「わぁー、ありがとうございます。」

 かわいい笑顔でお礼を言ってくるリズにエリックの表情が緩む。

「うむ、礼を言うぞ。エリックとやら。」

 続く全裸の言葉でその顔も歪むというものだ。

「それでは機会があればまた。」

「うん、機会があればまたよろしくね。」

 そう言って別れた。

 機会があれば――――か、一介の門番と冒険者の少女の間に早々機会なんて訪れはしないだろう。

 だが、彼女には運命的なまでの神々しさを感じた。

 エリックにとってこのような出会いはそうそうない。

 (絶対にモノにしてみせるぞ。)そう心に刻むエリックだった。


5、


 冒険者ギルド。

 その建物は中規模なホテルほどの大きさの建物だった。

 木と石、そして金属でできた建物は正面に大きく扉を開いていた。

 木で出来た扉をくぐると、そこは大きなホールになっていて、沢山の人でにぎわっているではないか。

 たくさんのテーブルが並んでおり、そこに多くのグループがたむろして、昼間だというのに飲んだっくれている者もいる。そしてそんな男たちに酒を運ぶ女性たちが、テーブルの間を行き来してたりしている。

 奥のカウンターには綺麗な受付嬢がおり、冒険者に新しいクエストを紹介したり、クエストの報酬を支払ったりしている。

 掲示板では張り出されたクエストの中から美味しいクエストを受けようと血眼になっている者もいる。

 そこに正面の扉を派手に開いて入って来たものがいた。

 全裸の漢がだった。

 隣にちっこい女がいたようだが誰もが全裸に気を取られて目に入っていない。

 冒険者ギルドのホールは途端にうって変わって静かになってしまった。

 その中を堂々と歩く全裸の漢。

 そのマッスルに一人の酔っぱらった冒険者がつっかかる。

「おい、てめぇ。ここはストリップ劇場じゃねぇんだ、出直して来いヤァ!」

「知っている。冒険者ギルドだろう。だから来たんだ。」

 イキる冒険者に、あくまで優しくなでるようにどかすマッスル。

 その後をチョコチョコと追いかけるリズを見て、どかされてポカンとした冒険者は、ハッとなって怒鳴り声をあげた。

「てめぇ、なにさらしてくれとんじゃぁ、ワレぇ!」

「おや、どうやらかなり酔いが回っている様子だな。少し自分の姿を顧みた方がいいのでは。」

「テメェにだけは言われたくねぇえわ。」

 道理である。

 どんなに酔っていても全裸の漢に我が身を振り返れとは言われたくないだろう。

 しかし、相手が悪かった。

 その全裸はただの全裸ではなく、神の祝福を受けた全裸なのである。

 たとえベテランの冒険者であっても酔っていては歯が立たない。あっさりと地面にのされてしまった。

 その冒険者をしり目に、(リズはその冒険者にごめんなさいと手を合わせていた。)マッスルは冒険者ギルドのカウンターへと赴く。

「冒険者の登録をしたいのだが。」

 マッスルがいくら爽やかに言っても、全裸の漢に詰め寄られてはたじろぐというもの。

「え?――――っ、あ、あの、……いやぁ~。」

「え?嫌なの。なんで?」

 受付のお姉さんの苦労もわかってほしい。

 日々面倒な手続きをこなす業務、セクハラの多い上司に客は汚らしい冒険者。そんな奴らに日々愛想笑いを浮かべているのに一向幸せが来ない。果ては何を勘違いしたのか全裸の漢である。

 とりあえず、全裸のマッスルの相手をすることになったのは、猫人族のミャンマーであった。

 チャームポイントはちょっと尖がり気味のネコミミだゾ。

「嫌ではないですにゃっ。いえ、嫌ではないです。」

 少し恥ずかしそうにうつむきながら答えるミャンマーに、

「じゃぁ、お願いできるかな。」

「にゃぁ!」

 爽やか~に返してくるマッスルにドキッとしてしまうミャンマーであったが、全裸の―――――――

 しかし、マッスルの後ろからひょっこりと顔を出して、

「ワタシも一緒に冒険者登録をお願いします。」

 と言うリズを見たとたん、イラッとしてしまった。

 本人たちは自覚がないだろうが、ここで全裸の漢をめぐる三角関係が勃発した。


 とはいえ、当人たちに自覚がない以上、恋のさや当てにはならず、普通に冒険者登録へと進んだ。

 本来なら冒険者の登録試験にはそれ用の職員が付くのであるが、今日は運が悪いかはたまた良いのか、職員の手が足らずに受付担当のミャンマーが務めることになった。

「まず冒険者として登録するのには二つの試験があります。」

「…………………にゃぁ~。」

「!―――っも、もう、マッスルさんからかわないでほしいにゃぁ~。」

「ははは、すまない。可愛かったものでな。」

「もう~~~~。」

 マッスルとミャンマーを見ていたリズがムスッと頬を膨らませる。

 どうやらないと思われたさや当ての前哨戦は始まりそうだった。

「と、とにかく。冒険者になるには2つの試験、筆記試験と実技試験を受けてもらわねばなりません。」

 そう説明を受けて案内された部屋は。

「この部屋はカンニングなどの魔法を妨害する処置がされている部屋です。ここでお2人に筆記試験を受けてもらいます。」

 通された部屋、2つの机にマッスルとリズが座るとそれぞれに用紙が配られた。

「この試験ではその人の倫理、適正、知識を測ります。どうか嘘偽り無いようにお答えください。」

 と、ミャンマーの説明に2人が頷くと――――


「それでは試験開始にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


 の号令で筆記試験が始まった。


6、


 筆記試験と言っても学校の試験のように点数が張り出されるわけでは無い。

 加えてこれは日々の積み重ねを測るものではないのだ。

 どちらかというと精神鑑定のテストの方が近いかもしれないだろう。

 そのテストにおいて、

「なんでマッスルの倫理観が満点なのよぉ。」

 ギルドから出されたテスト結果にリズが叫びをあげていた。

 それにはギルド職員のミャンマーも驚いた顔をしている。

 それもそのはず、マッスルは恥じらう事なき全裸なのである。往来を全裸で闊歩する奴の倫理観が正しいなんて結果がでるとか、それこそ常識を疑うことだろう。

 そして常識を疑えないリズはミャンマーに詰め寄る。

「この試験、間違っているんじゃないんですか。」

「間違ってないですよ。この試験はギルドの神様が用意したものですから。」

「神には常識が通用しないのかあああああああああ!」

 悲痛な叫びだった。

 社会が全裸を許さなくてもお天道様おてんとうさまは全裸を許しているのである。

 人としての常識を持つリズにとっては不条理この上ない。

「いつか慣れるさ。」

「マッスルに言われたくなぁい。」

 四つん這いで嘆くリズにマッスルが肩を叩いて慰めるが、リズは涙目でそれを振り払う。その際、リズの傍で屈んでいたマッスルのおっぴろげられた股間を凝視してしまい、リズは泣いた。


「えーと、落ち着きましたか。」

 筆記試験の結果にリズが大泣きしたものだが、それも落ち着いた。

「…お騒がせしました。」

「まぁ、今のは仕方ないですよ。と、話を戻しまして筆記試験ですが、お2人は合格しました。ですので次の実技試験に移りたいと思います。」

「やったー。」

 リズは本当にうれしそうにしているし、マッスルも「当然だな。」という顔をしながらもリズのハイタッチに答えている。

「つきまして、仮登録をしますのでお1人500ギャラをお支払いください。」

 続いたミャンマーの言葉に顔を真っ青にするマッスル。

「500ギャラ…ギャラって何。」

「何ってお金のことすよ。」

「お金……しまった、お金のこと考えてなかった。」

 マッスルのその悲壮なつぶやきから、マッスルの顔を見たリズはニヤリと笑った。

「あっれ~、もしかして~、マッスルさんたらお金持ってないの~。困りましたね~。お金がないと冒険者になれませんよ~。宿にだって泊まれませんし~、食べ物も買えないじゃないですか~。それに~服だって買えませんよね~。」

「いや服はいい。」

「服着ろや!―――じゃなくて、しかたないし~、ワタシがお金貸してあげましょうか~。ド・ゲ・ザ、してくれたらお金貸してあげますよ~。――――って、冗談ですよ。普通に全裸の土下座とかいりませんから。―――――――――だからすんなっつってんだろ!」

 リズに対して本気で土下座する全裸と、その頭をガシガシと蹴りつけるリズ。その2人の姿はどうみてもそうゆうプレイにしか見えなかった。

 そしてそんな2人を見せられるミャンマーは(もう帰りたい。)と思うのであった。


 とりあえず、プロとして2人を放置しなかったミャンマーにリズが申し出た。

「すみません。先に換金所に案内してくれませんか。」

「いいですよ。こっちです。」

「換金所って、そのお金は貸してほしいですが俺出せるものが無いんだけど。」

「あるじゃないですか、マッスルさんの股間にいっぱい入っているでしょ。」

 ――――股間にいっぱい入ってる出せる物。…それって。っと変な誤解をしたマッスルが引いていた。

「魔石っすよ。魔石。何想像してんですか、ヘンタイ。」

「そうか、魔石か。俺はてっきり―――

「それ以上は言うなよマッスル。」

 リズの声色が若干低くなったので黙るマッスル。

 そんな話をしているうちに、

「ここです。」

 ギルドの広場の一角にあるカウンターに案内された。

「先輩、少しいいですか。」

「あらどうしたのミャンマー。」

 ミャンマーに声を掛けられカウンターの中で作業していた1人の、グラマラスなお姉さんが寄って来た。

「実は登録に来た方が仮登録の費用を用意するのに換金したいと。」

「あら新人さん。運がいいわねぇ、今魔石が不足してるから買い取り額がアップしてるのよ。あと折角だし、新人さんの応援のためにサービスもしてあげる♡」

「いいんですか。」

「ちょっとだけよぉ~。」

 そう言って身を乗り出すお姉さん。そのグラマラスなお胸がカウンターの上に押し付けられて美味しそうに形を変える。

 プッチ〇プリンだ。

 リズは目をキラキラさせながら喜んだ。

 マッスルは目をチラチラさせながら頬を染めた。


「あら、数はそこそこあるのね。どこから来たの?」

「トノチャの村からです。」

「それでこの数。やっぱり魔物が増えてるのね。――――うっわ、ホブ・ゴブリンのもあるじゃない。しかもこっちは変種のマッド・ブッシュ。すごいわね。登録前からこれだけ用意するなんて。」

「ほとんどマッスルさんが倒したんですけどね。」

「どうもマッスルです。」

「よろしく。あなたが噂になっている全裸か。」

「どんな噂ですか。」

「全裸。」

「ですよねぇー。」

 良い噂と期待したマッスルに、期待外れでしたー、と笑うリズ。

「うん、これならサービスコミコミで6000ギャラってところね。」

「どれくらいなんだ。」

 この世界の通貨価値を知らないマッスルがリズに聞くと。

「うーん、どういったらいいかな。」

「そこそこもらってる街の衛兵で1日で500ギャラですよ。」

 悩むリズに代わってミャンマーが答える。

 てか、仮登録に1日分の日当が飛ぶとかぼったくりじゃないか?と思うが、平成日本の運転免許の教習代金を考えれば良心的か?

「ってことは2人で6日分ってところか。」

 最初のゴブリンの巣や3日間の道すがらでこれだけ稼げたのならけっこうな儲けだろう。

「正式に冒険者になればこれにクエストの報酬も入りますからね。」

「クエストの提示分以外の余りはここで換金したり、逆に魔石を購入もできるのでご贔屓に。」


7、


「それではお2人の仮免登録を勧めましょう。」

 言い方は悪いが、払うものも払ったので手続きが進んだ。

「いやそんなことより、受付のお姉さんは―――

「あっ、ミャンマーと言います。」

「あっ、これはご丁寧に。―――で!ミャンマーさんはあの全裸をどう思いますか。」

「どう思うって、―――――それは……。」

 ポッと頬を赤く染めるミャンマー。

「――って、そっちじゃねぇぇぇ!そっちも気になるけど、大事なのはあの全裸が全裸で歩いていてもいいのかって聞いてるんですよ。」

 ちょっと顔を赤らめながらミャンマーにリズは詰め寄った。

「そうは言いますが、リズさんだって一目で変だと思う全裸の漢が歩いてきて、でもだれも止めなかったらそれをおかしいと言えますか。」

「……いや、だけど、この建物に入ってきた時つっかかって来たヤツが居たじゃないですか。」

 目をそらしながら答えるリズ。

「あれは酔っ払いじゃないですか。しかもあっさり負けてるし。」

 何となく張り合うミャンマー。

 2人は顔を近づけ睨み合うも、ふと視線を変えれば、立っているのは全裸なのだ。

 何となく争いのむなしさを知った2人だっら。


「まずはリズさんからですね。」

 ミャンマーがギルドの端末を操作しながら説明する。

「リズさんは人種人族ヒューマンの女性、16歳で間違いないですか。」

「ハイ。」

「はい。それではリズさんには「戦士系」「僧侶系」「魔法使い系」の適性が確認できました。希望の職業ジョブは有りますか。」

「戦士系でお願いします。」

「はい。「戦士系」ですね。それですと、魔法適性の高さから「魔法剣士」のクラスからになりますね。よろしいですか。」

「ハイ。」

「はい。登録できました。今後、自分の戦いに疑問などを感じたらジョブやクラスを変えてみてください。」

 そう言って、ミャンマーは出来立ての冒険者カード(仮)をリズに手渡す。

 リズはそれを嬉しそうに掲げて、果ては頬ずりまでしている。

 それをマッスルとミャンマーはいとおしそうに眺める。

「では次はマッスルさんですね。」

「あぁ、よろしく頼む。」

「………………にゃぁ~、……あの、マッスルさんの種族が「裸族」になってるんですけど…………、間違いないですか。」

「間違いない。」

 むしろ間違いであってほしかった。っと思うミャンマーは渋い顔をしながら次の手続きをする。

「それで年齢は0歳。」

「こっちの世界では生まれて7日だからな。」

 全裸だけでも問題なのに、それに目をつぶっても出てくる異常にミャンマーは頭を抱えた。

「てか、生まれて7日ってなんですか。あと、「裸族」なんてものも聞いたことが無いですにゃぁ~。」

 ついにキレたミャンマーに説明することに。


 かくかくしかじか。


「は~~~~~。なんですかそれ。マッスルさんが神に選ばれた勇者、しかも異世界からの転生者ですって。」

「信じられないのは分かる。」

 頭を抱えるミャンマーにリズが同情をする。

「いえ、こんな股間に変な光が掛かってる時点で信じられませんよ。むしろ今の説明で納得したにゃ!」

 と、逆ギレされた。

 完全無欠の全裸であるマッスルだが、最も神聖な股間は神の力で選ばられたものにしかその真の姿を見ることはできないのである。

 逆にその存在がマッスルをただの全裸でないと皆に知らしめることになっているのだが。

「で、マッスルは冒険者になれるのですか。」

 リズは後ろで筋肉をピクピクさせているマッスルに馬のように後ろ蹴りをかましながら、心配そうに尋ねる。

「いえ……、冒険者になるには問題ないのです。……ないのですが、種族が「裸族」でジョブが「勇者」。クラスは「ストリートキング」とか、……聞いたこともないうえにワタシが勝手に判断していい限界を超えてます。」

 ミャンマーは一度は端末に伸ばした手だったが、やはり頭を抱えることになった。

 そこにギルドの奥からミャンマーが呼ばれる。

「すみません。…ちょっと席を外します。」

 そう言って、ミャンマーはギルドの奥に引っ込んでいった。


「ほ~ら、やっぱり全裸だと冒険者にはなれないんだよ。」

「はぁ~、そんなわけあるか。俺のジョブは「勇者」だって言ってただろうが。」

 ミャンマーが居なくなったとたん言い争いを始める2人。

 その姿はまるでバカップルのようで、ミャンマーが気を利かせて離れた場所で手続きを行っていなかったら、荒くれ物の低ランクの冒険者に絡まれていただろう。

「でもクラスは「ストリートキング」だって。プップッ、裸の王様とか似合いますねぇ~。」

「てめぇ、裸の王様馬鹿にしてんのか。」

「だって、裸の王様と言ったら詐欺師に騙されて裸で街を練り歩いた間抜けじゃないですか。」

「あのなぁ、いいか裸の王様ってのはな――――

 そこにミャンマーが戻って来た。

「お待たせしました。」

「やっぱり全裸だと冒険者になれないって話でしたか。」

「そんなことないです。むしろ逆で、どうゆう訳かギルドの上の人達が仮免をすっ飛ばして正式登録にしろと言ってきたのです。」

 この答えにリズは驚いた顔をする。

 マッスルの方は何か心当たりがあるのか「うんうん。」と頷いていた。

「マジですか。ってことはワタシも冒険者に――――

「あっ、リズさんの方は仮免です。これから実技試験ですよ。」

「さいですか~。それで実技試験てどんなことをするんですか。」

「冒険に出ます。ただし、ギルドが用意した引率の冒険者と一緒にですけど。」

「それはがぜんやる気が出ますね。」

「で、同行する冒険者は最低2名で、内1人はDランク以上である必要があります。で、普通はその冒険者にギルドから斡旋するのですが。」

「ここでもお金がかかるのか。」

「はい。ですので多くの場合は冒険者のパーティー内で雑用係などをして報酬の代わりとします。」

 マッスルとリズは顔を見合わせる。

 マッスルは実技試験、というか研修を免除されているので気にしなくてもいいが、しかしリズをほったらかしにするつもりはない。

 彼の中ではリズはすでに仲間なのだ。

 そしてリズとしてはこの全裸との行動はいかがなものかと思いはするが、しかし助けてくれた恩人であり、頼りになる仲間だとは思っているのだ。

 ――――ホントーに全裸でさえなければよかったのに。と思うほどに。

 そして2人はアイコンタクトで一緒に行動することを確認した。だからこそ聞いておきたい。

「それで、冒険者を斡旋してもらうのにはどれくらいかかりますか。」

「冒険者のパーティーに寄りますけど大体2500ギャラぐらいからです。」

 払えなくはないが少々お高い。

 そんな感情がマッスルとリズの顏に出てしまっていた。

「そこで2人に耳寄りな情報です。」

 そうミャンマーはウインクをしてポーズをとる。

 マッスルとしてはこういう時はろくな話じゃないという経験があるので警戒するが、リズは興味深そうに目をキラキラさせていた。

 結構ミャンマーにはよくしてもらっているし、しかたないので信用してみることにしたマッスル。

「それで、耳寄りな話ってのは。」

「実は現在斡旋できる冒険者がみんな出払っている状態なのです。」

「それ、いいことか。」

「話はここから、普通ならそれはデメリットでしょうが、ですが運がいいことにワタシが居ます。」

「それはつまり。」

「ふふん、ワタシとマッスルさんでレズさんの試験を行えば、他の冒険者さんを雇わなくていいので、ワタシへの支払いのみで実質タダなのです。」

「それ、俺の世界だと落とし穴だぞ。」

「いえいえ、ダイジョーブですよ。ワタシは今はワケあって受付嬢をしていますが、ホントはDランク冒険者なんですよ。」

「……訳アリか。」

「訳アリ言わないでください。ただ、男2人女3人の5人パーティーを組んでたのに、知らないうちに他の皆だけ出来ちゃった。とか言って、結婚するから冒険者は引退だ。とか、祝い金に~、とかで仲間もお金も厳しいだけです。」

 若干マッスルガ引くぐらいの勢いで言うミャンマー。

 決してミャンマーは行き遅れではない。行き遅れではないとはっきり言っておこう。

 だって、普通に若いし肌艶も綺麗だ。

 マッスルと比べて身長が低いのは当たり前だが、それでも小柄な方だろう。大体、リズと同じくらいだ。

 綺麗に切りそろえられた黒髪を腰まで伸ばしていて、猫耳と合わせてキュートさがある。

 むしろ若干幼さが感じられる。

 だから力強く言っておく、ミャンマーは行き遅れではない。

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