異世界を裸で旅するのはキモチガイイ‼

軽井 空気

第1話 オレの体に恥じる部分などありはしない。

1、


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ヘンタイよ。」

「裸のヘンタイがやってきたわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 マッスルがその村に入るなり女性たちの黄色い歓声に迎えられた。

「なに、ヘンタイだと。」

「ホントだ、裸のヘンタイがいるぞ。」

「なんてやつだ。裸なのに堂々と歩いてやがる。」

「完全にヘンタイだ。」

 女性たちの声に反応して複数の男達が表に出てきた。しかし、その誰もが村の入り口から堂々と歩いてくる漢の姿に気押されてしまった。

 その理由は説明するまでもないだろう。

 裸の漢が現れて、しかもそれがたくましき筋肉を誇らしげに歩いていれば怯みもする。

 その漢、マッスルはフロント・リラックスというボディービルのポーズで悠々と近づいてくる。

 一番近くにいた女性は腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 マッスルが彼女に近づくと。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!ターニャに触るなああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 一人の男が牧葉を持ち上げるためのフォーク状の鋤を両手に握りしめて飛び出してきた。

 この男は恋人がマッスルに襲われているように見えて、恋人を助けるために飛び出してきたのだ。なけなしの勇気を振り絞って、渾身の突きをマッスルの腹筋へと放った。


 ボッキャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァン!


 しかし、マッスルの鋼鉄のごとき腹筋には傷一つ付けることができずに鋤の方がへし折れてしまった。

「うっ、うあわあああああああああぁぁぁぁぁ。」

 男は折れた鋤の柄を放り投げて後ずさる。しかし足がもつれて尻もちをついてしまった。

 マッスルは倒れた男に手を伸ばす。

 しかしそれはまるで男を始末するように見えたのだろう。男は怯えて後ずさろうとしているが上手くいかない。

「トム、トムウウウウウウウゥゥゥゥゥ!」

 倒れた女性は他の村人の手で避難させられていたが、恋人のピンチに悲鳴を上げて手を伸ばす。

 しかし、悲しいかな。

 彼女の手よりもマッスルの手の方が男にはずっと近かった。

 マッスルの手は確実に男に近づいていく。

 男は最早恋人を守ろうとしていた勇ましさはなく、恐怖で涙腺は崩壊して言葉にならない叫びをあげて顔を振り乱すばかりだ。

「トムを助けるぞ!」

「うおおおおぉぉ、この魔物めぇぇ!」

「おおおおおおお応。」

 村の男たちがトムを助けるために手に手に武器をもって駆け出した。

「待つのじゃぁぁ。皆の者おおおぉぉぉぉ!」

 そこにマッスルと村の男たちの間に一人の小柄な影が転がり出てきて村の男たちを止める。

 小柄な影はしわくちゃな老婆だった。

「長老。」

「いけません。危険ですよ。」

「何故そのモンスターをかばうのですか。」

 小柄な老婆は村の長老で、それゆえに村の男たちは足を止めざる負えなかった。が、モンスターに見えるマッスルに対する警戒心から興奮は冷めやらぬ。

「皆の者、落ち着くのじゃ。この方はモンスターではない。よく見るのじゃ。この方ののじゃ。」

 長老の叫びに集まっていた村の人々がマッスルの股間に注目した。

 そこにはモザイクが掛かっていた。

「なんだあれは。」

「光が屈折しているのか。」

「良く見えないけど……オッキイ。」

 男たちは驚愕に目を見開きながら、女たちは手で顔を覆いながらも指の間からチラチラと、注目されているマッスルの股間にはモザイクが掛かっていたのだ!


「あれこそは神が遣わした勇者の証なるぞ!」


「なっ、なんだてえええええええええええええええええええ!」



2、


 辺境の小さな村。農業と酪農と狩猟で生計を立てている村。と言えば聞こえはいいが、実際は商人が村に訪れるのが珍しいため必要なモノは自給自足で補うしかない村である。

 その村の中の小高い丘にある長老の家。

 村の中では最も立派な建物であるが、それでも丸太をくみ上げたログハウスである。

 その家の一番広い部屋。村の者が会合を開くときに利用する部屋の中央にマッスルは胡坐をかいて座っていた。


「その者、一切の衣をまとわずに、神託の地に降り立つべし。」


「長老、それは。」

「そうじゃ。言い伝えにある神の使いたる勇者の伝承。」

「そう言えば、東には信託の地と言われる丘があったはず。」

「じゃあこの人が伝承にある魔王を倒すために遣わされた勇者。」

「ワタシ見たわ。この人が現れる前に村の東で光が瞬いたのを。」

「お、おらも見ただよ。」

「本当にこの人が勇者……。」

 皆がマッスルに注目する。

 しかしマッスルは――――

「でも、この人全裸。」

「どう見ても全裸だよな。」

「股間にだけ変な模様が入ってるけど……全裸だよな。」


「だまらっしゃああああああああいぃぃ!」


 長老の一喝で村人たちは口をつぐんだ。


「良いか皆の者、何故この者が全裸なのか、その答えは我々ヒトの原罪にある。

 かつて人は禁忌とされた知恵の木の実を食べて神の怒りに触れた。

 何故じゃかわかるか。」

「それは食べちゃダメな知恵の木の実を食べたからでは…」

 1人の村人がそう答えると、「はぁ~、やれやれ、分かっとらんなぁ~。」と、長老は首を振ってため息をついた。

「よいか、正しくは半端に知恵など付けた人間が恥を知った、その人間を見た神が「人よ、何故身体を隠すのか。」と聞いた。人は「裸を晒すのは恥ずかしいからです。」と答えた。その答えに神はお怒りになられたのじゃ。」

「あれでしょ、その答えで人が知恵の木の実を食べたことを知ってお怒りになられた。」

「ちっっっがあああああああああああう!神がお怒りになられたのは裸を恥ずかしいと答えたからじゃ。」

「何でですか。裸を人に見られるのは恥ずかしいでしょう。」

 その村人の答えに「そうだ、そうだ。」と他の村人たちも頷く。特に女性は裸を他人に見られたらと想像して、顔を赤く染めているものもいた。

「それはワシだって裸を見られるのは恥ずかしい。だがそれがいけなかったのじゃ。……かつて神は自らの姿を模して人を作りたもうた。」

 長老の言葉は誰もが知る話である。

「しかして人はその姿をしてあろうことか恥ずかしいなどとのたまったのじゃ。これには神はたいそうお怒りになり人に罰を与えたのじゃ。」

「裸を恥じらったから怒られた……ですって。」

「そうじゃ。神は「完全無欠のオレの体に恥じる部分などない。そのオレに似せた人が恥ずかしいだと。許せん!」と。そうして人は神から与えられた加護を失ってしまったのじゃ。」

 そんな馬鹿な。と思う村人たちだったがそこでハッと気が付いた。

「つまり、このヒトが裸なのは。」

「神の加護を受けるためだというのか。」

「だが俺たちが裸になったところで神の加護は得られないぞ。」

 そうざわめく村人たちに長老が言い聞かせるように語る。

「それも人の罪ゆえじゃ。」

「人の罪?」

「そう、人は神の力欲しさに全裸になっても恥を捨てきれん。それが罪なのじゃ。恥じらい・背徳感をもって全裸になったところで神は御認めにはならない。」

「そんな。」

「神に認められる者は心から全裸を恥じることなく、その身に大きな誇りをもって全裸に成れるものだけなのじゃ。」

「しかし、それだと股間のあれは何なんだ。」

「あぁ、全裸であるべきなら何で股間のアレが見えない。」

「それこそが神の加護の証たるモノ。」

 長老は両手を上げて天を仰ぎ叫ぶ。

「神は罪を背負う人の股間をグロく、汚いものにして罰とした。しかし罪をすすぎ神に認められた者の股間は本来あるべき美しく神聖なモノへと戻るのじゃ。それは罪深き人では直視することが許されん。ゆえにその威光から人の目を守るための力―――」

 長老はマッスルの股間をビシリッと指さして皆に告げる。

「そう、これこそが『神の見えざる手』である。」


「なっ、なんだってえええええええええ!」



3、


 マッスルにとってこれはゲームのようなものだ。


 異世界転生などの作品は平成育ちの男性ならば聞いたことがあるだろう。

 ましてや、マッスルは社会人のオタクとして数多くの作品に触れてきた者だった。

 そんなマッスルであるが人生に大きな不満を抱いていて、自分も異世界に行って活躍したい。この不満を解消したい。

 そう思って生きてきた。

 マッスルの持つ不満。それは――――


 何故、全裸で外を歩いてはいけないのだ。


 そう、

 マッスルは裸族だったのだ。


 しかし、社会は成人男性が裸で闊歩することを許さない。

 裸がダメだと子供のころから教えられてきた。

 それでもマッスルは裸でいたかった。

 裸である事が悪いことだとは思えなかった。

 むしろ正しい姿だとさえ思っていた。

 しかしその思いは社会には認められなかった。

 マッスルが裸でいられたのは銭湯か自分の部屋の中だけだった。

 そんな彼はいつか大手を振って全裸で世界を旅してみたいと夢見ていた。

 そんな彼に転機が訪れたのはいつもどうり全裸でオンラインゲームをやっていた時であった。

 マッスルはゲームをする環境にはこだわりがあった。

 モニターではなくヘッドマウントディスプレイを使い高品質のヘッドホンを使って没入感をよくしたかったのだ。

 部屋の空調も快適にし、座る椅子も負担を感じさせない自然な姿勢を維持するゲーミングチェアを愛用していた。

 そして全裸である。

 これこそ一番大事なことだった。

 何故ならマッスルは全裸で外を歩けない不満を解消するためにVRゲームを全裸でプレイすることで疑似的なストリートキングの気分を味わっていたいからである。

 彼のこだわりは確かに成功していた。

 実際に全裸で異世界に行っているような気分を味わえ、現実のことを忘れられるほどだった。

 そのゲームでドラゴンと戦っているとき、ドラゴンのブレスを受けて火に包まれたら本当に火に包まれたように熱さを感じた。

 VRはここまで来たか。と喜びながらプレイを続けたのだが、だんだん熱さが耐えられないものになってきた。

 そこでやっとヘッドマウントディスプレイを外してみると、


 部屋は火の海になっていた。


 火事である。

 火元がどこかは分からないがマッスルがゲームに夢中になっている間に火の手が回ってしまっていたのである。

「嘘だろ……」

 そう思ってもその現実は覆らなかった。

 マッスルの住んでいたのはそこそこの高さのマンションである。

 窓から飛び降りて助かるかどうかは賭けになる。

 だが、このまま部屋に居ても丸焼きになるだけだろう。

 助けを待ってみるか?

 それも手であったがベランダから外を見てもまだ消防車も来ていなかった。

 ならばイチかバチかで飛び降りるべきだろう。

 しかしそこで一つ問題があった。

 マッスルは全裸だったのだ。

 スッポンポンの丸出しで部屋から飛び出すことになる。

 服を着ようにもすでに燃えてしまっている。

 悩んでいる時間は無い。

「何を恥ずかしがることがあるんだ。これなら堂々と全裸で外に出れる。俺は今、自由になるんだああああああああ!アイ・キャン・フラアアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!」


 結果から言おう。

 マッスルは賭けに負けて死んでしまった。

 全裸ダイブで地面に叩きつけられた全裸は打ちどころが悪くて痛みによるショック死だった。

 これがマッスルの前世の最後だった。


4、


「ここ……は?」

 マッスルが次に気が付いた時、そこはまるで宇宙空間のように暗くて遠くに星のような輝きが見える場所だった。

 その場所に全裸で倒れていたマッスル。

「目が覚めましたか。」

 マッスルが目覚めたのを確認して声をかけてくるものがいた。

 マッスルが体を起こして声のする方を見れば。

「ようこそ。生と死が交わる輪廻の座へ。」

 そこには女神がいた。

 宙に浮かぶ美しい女性。

 金色の長い髪と羽衣をたなびかせる全裸で宙に浮かぶ女性。

 美しかった。

 何よりその裸体が美しかった。グラマラスで均整の取れた裸体。

 あまりに美しく、謎の光さんが女性の大事な部分を遮っていて直視できないぐらいだった。

「あなたは不幸な事故で死んでしまいました。」

「俺は死んだのか。ならここは天国か?」

「いいえ、さっきも言いましたがここは生と死が交わる輪廻の座です。」

「天国とは違うのか。ではここはどういう場所なのだ。」

「ここは天国に行く資格のある人物に最後の質問をする場所です。」

「最後の質問。それに間違った答えを返せば天国に行けないという事か。」

「いいえ、ここに来た時点で天国に行く資格は確定してます。ですがその方に、頼みごとをする場所でもあるのです。」

「頼み事だと。この俺にか。」

「はい。アナタだからこその頼みです。本来はそのまま天国に行き安寧を得る魂に、我ら神に代わって使命を果たしていただきたいのです。」

「それは俺でなくてはならないのか。」

「そうです。アナタでなくてはいけません。心から全裸を正しいと信じているアナタでなくては。」

「なるほど。話を聞こう。」

「ありがとうございます。あなたに頼みたいのは魔王討伐です。あなたの居た世界とは違う世界が今魔王とその配下の悪魔の侵略を受けています。」

「その世界に転生して戦えという事か。」

「そうです。その世界では我ら神の力を十分に送ることができません。ただし、貴方の魂ならばその世界に裸族として転生させることができるのです。」

「その裸族とは?」

「その世界で最も神の力、加護を授かることができる存在です。どうか裸族となって我ら神に代わって魔王を倒す勇者となってください。」

「……一つ質問をいいか。」

「はい。報酬の話ですよね。魔王を倒したらどんな願い―――

「違う。」

「あ、転生特典のことですか。それなら―――

「それでもない。裸族ということはその世界では全裸で外を歩いていいのか。」

「もちろんです。むしろ全裸だからこそ神の加護を授かれるのです。」

「いいだろう。」

「はい?」

「その頼みを聞こう。裸族として魔王を倒して見せようではないか。」

「あああ、ありがとうございます。あなたならそう言ってくれると信じていました。」


 そうしてマッスルは神の加護を受けた裸族の勇者として異世界転生したのである。

 彼にとってはこれはゲームのようなものだ。

 前世での全裸プレイが現実になったようなモノ。

 むしろ長年の夢がかなったのである。



 ピシャアアアアアアアアアアアアァァァァァン!バチバチバチバチバチ。


 神の加護を得たマッスルはこうして異世界の信託の丘に降り立った。

 神の力による放電現象を纏って身をかがめるマッスルの体は神の力により前世より、よりマッスルになっていた。

 神から異世界での名前の授かりそれがマッスルだった。

 マッスルはゆっくりと立ち上がりそして自分の体の動きを確かめる。

 一つ頷いてマッスルは放電が収まってから、神託の丘から見える近くの村に向かったのだった。


5、


 と、これがマッスルのここにいる理由であり、立場である。

 この世界での活動だが何でも神様頼みにしないで自分で冒険をすると決めているので、このように現地の人とのコミュニケーションは大事だと判断した。

「して、勇者殿のお名前は。」

 村の長老はマッスルの正面に座って村人の非礼を詫びてから名前を聞いてきた。

「マッスルだ。」(イケボ)

 マッスルの声は増えた筋肉と抑圧されてた心の開放感からかなりのイケボになっていた。その声は重低音系ボイスで洋画の吹き替えをしている声優と言われても違和感がないほどである。

 そのマッスルのイケボを聞いた長老は体を震わせてマッスルに頭を下げる。

「して、マッスル様は魔王を倒すために神より遣わされた勇者様でお間違いないか。」

「もちろん。俺は神に代わってこの世界の魔王を倒すためにやって来た。」

「おお~、『その者、一切の衣をまとわずに、神託の地に降り立つべし。』。~~~~~~~ああぁぁ、言い伝えはまことであったか。」

 顔を覆って泣き崩れる長老に村の少女が駆け寄りその身を支える。

「娘たちよ、ワシの代わりにそのお姿を語っておくれ。」

「「嫌です。」」

 さもありなん。

「それで勇者様はこの後どうなされるのですか。」

「うむ、それなのだが……。」


「てぇっ―――――、てぇへんです長老ぉぉぉ!」


 そこに1人の男が血相を変えて飛び込んできた。

「これ、今は大事な客人がいらしているところぞ。」

 その男を長老はたしなめるが、男は頭を下げてそれでも言い募る。

「すみません。しかし、ヤンっとこの跳ねっ帰り娘がゴブリンを退治すると言って、一人で飛び出してしまいまして。」

「なんじゃと、あの娘っ子はまた勝手に。」

「なんだ、この近くにゴブリンが出るのか。」

 話の内容から不穏なものを感じたマッスルが口をはさむ。

「はい、実は近頃この辺りにゴブリンがやって来て巣を作ってしまったようで。これまでも家畜が被害にあっており。」

「それで娘が1人で飛び出してしまったのですか。」

「ハイ。」

「どうやらそのようで。あの娘の父親は元は冒険者。これまでも冒険者にあこがれてきましたが。どうやら若さゆえに先走ってしまったようです。」

 そう言って長老はため息をつく。

「助けに行かないのですか。」

「もちろんほってはおけないですじゃ。ですがこの村には戦えるものがいないのです。」

 その割には自分に挑んできた村人がいたような。と思うマッスルだった。

「ゴブリンたちは1体1体は弱く、知能も低いですが、数が多いこともあり訓練を受けた冒険者でもなければ巣を攻めるのは自殺行為です。」

「それでは見捨てるのですか。」

「わが村には冒険者はいない。冒険者の居る町は3日はかかるうえに、冒険者に払う報酬も用意できないのじゃ。」

「…………。」

 それを聞いたマッスルはおもむろに立ち上がる。

「勇者様……?」

「ならば俺が助けに行こう。」

「なっ、なぜ…。」

「お前たちは困っているのだろう。」

「やはり我々を助けてくださるのですか。」

「勘違いするな。俺が助けに行くのは1人でゴブリン退治に行った娘だ。」

 マッスルは長老に言い放つ。

「跳ねっ帰りと疎まれようとも村のために戦うと決めた娘の為だ。」

「しかし、我等には貴方に払う報酬がありません。」

「報酬か――――」

 マッスルはにやりと笑って長老に自分の望みを伝えた。


6、


 マッスルは今、村から離れた山中に居た。

「さて、どうやらゴブリンの巣はここで間違いない様だな。」

 村人から聞いたゴブリンの巣の予測位置。それは今は廃坑となった鉱山跡だろうという話をもとに村人に案内してもらった場所だった。

 坑道の入り口には2体のゴブリンの死体があった。

 どちらも一刀のもとに切り伏せられた死体だった。

 そして、この死体は殺されてから間もないでモノでまだほんのりと温かった。

「君はここまででいい。村に帰るといい。」

 そう言って案内役の村の若者を帰したマッスルは、顔を引きしめて急いで坑道に入っいった。



 リズの名前はリジィエール・フォン・マクシミランといった。

 リズの父親は王都でも名の知れた冒険者で、騎士爵をもらった人物だった。

 しかし、ある戦いで父は膝に矢を受けて、その傷が元で冒険者を引退することになった。

 冒険者を引退してから父は田舎に隠居して安穏とした生活を送るようになった。

 それがリズには物足りなかった。

 小さい時からおとぎ話のように聞かされていた父の活躍。

 リズが冒険者にあこがれるのにそう時間はかからなかった。

 リズは父の様な冒険者に成りたいと公言してきた。

 しかし、父や母だけでなく村の皆が冒険者になるのを反対してきた。

 なぜ。

 自分は剣の稽古も欠かさず村の男子の誰より腕は立つようになった。

 なのに誰もが冒険者はやめろと言う。

 納得いかなかった。

 だから、村の近くにゴブリンが巣を作ったのに誰も退治に行かない時に、冒険者に払う報酬がないというならば、自分がゴブリンを退治してやろうと思った。

 所詮はゴブリン。

 数が脅威になるとしても移り住んできたばかりならたかが知れている。

 これを自分が討伐すれば村の皆も自分を見る目が変わるだろう。

 そうして、村の若者が止めるのを振り切ってゴブリンが巣にしている廃坑にやって来た。

 入り口には2体のゴブリンが見張りについていた。

 草むらに隠れながら、たかが2匹のゴブリンに何を慎重になっているんだと思った。

 草むらから飛び出して一番近いゴブリンの首を撥ねる。

「グッイギャアァァァギャギャ!」

 2匹目が咄嗟に取ろうとしたのは武器ではなく笛だった。

 仲間は呼ばせない。

 ゴブリンが笛を口に付ける前に首を撥ねた。

 このままこいつらを討伐して村の皆に認めさせてやる。


 なんて思っていたのが浅はかだった。

 坑道は広く複雑に入り組んでいた。そこに予想を上回る数のゴブリンたちが住んでいたのである。

 最初に上手く倒せたことで調子に乗ってしまったリズは不用意に奥へと進んでしまったのだ。

 また、1人での侵入だというのに派手に動いてしまったので、奥のゴブリンたちに気づかれてしまった。そして、坑道の横穴を使って回り込まれて退路をふさがれてしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 リズは父にあこがれて鍛えて来ただけあって弱くはない。

 ゴブリンぐらいなら1対1なら一撃で倒せるぐらいだ。

 そして20体ぐらいのゴブリンを倒すこともできるだろう。

 だがそれも順番に、―――ならである。

 前後から襲い掛かって来るゴブリンたちを同時に相手にするのは負担が全然違った。

 息をつく暇もなく、防御と攻撃を繰り返す。

 その繰り返しではスタミナの消費が早く、息も上がって来る。

 それでもリズは戦えていた。

 十分な訓練と、そして確かな才能があったからである。

 足りなかったのは経験と慎重さである。

 ゴブリンの数が減ってきた最後の方は防御を捨てて攻撃に専念することで、残り少ないスタミナでゴブリンを倒し切ろうとする。

『あぁ、あと少し。残りは……二体。』

 リズは残ったゴブリン、剣を持ったゴブリンと弓を持ったゴブリンの内、剣を持った方にまず切りかかった。

「はぁああああああ!」

 崩れそうになる体のバランスを気合でふんばって、背中まで振りかぶった剣を上段から振り下ろす。

 剣と空いた手で頭を守ろうとするゴブリンを防御ごと切り伏せる。

『最後。』

 弓を持った最後の1匹のゴブリンを睨みつけるリズ。

 そのゴブリンは怯えて腰が引けている。逃げ出そうとリズに背を向けたところに、その背中に体当たりするように剣を突き立てた。

「はぁ、はぁ、はぁ―――――――。」

 リズはこと切れた最後のゴブリンの背中を踏みつけて剣を引き抜くと、剣を杖のようにしながら天井を仰いで荒くなった息を吐く。

「はぁ、はぁ、――――くっ、やった。ワタシは勝ったんだ。」

 疲れは限界に来ている。

 父からのおさがりのロングソードは重い。

 もともと女性が使うには不向きな重い剣であり、なおかつリズはやせ形で小柄な体をしている。なのでこの剣は向いていないのだ。

 だが、憧れの父の使っていた剣であるためリズはかなりの訓練をしてこの剣を使えるようになったのだ。

 父は「安物だ。」と言っていたが愛着があるのだ。

 何時も大事にして、手入れもしっかりしてきた。

 その剣も今は重くて持ち上げることができない。杖のようなぞんざいな扱いになってしまっているが、それでもこの初めての達成感を味わうことには安い支払だ。

 リズは自身の軽率さをかみしめながら、これから冒険者になって父のような活躍することを夢見て幸せになっていた。


 ―――――――そこにゴブリンたちのお替りが来るまでは。



7、


「ぎゃぁっん!」

 ズッダァァァァァァァァァン!

 リズは勢いよく壁に叩きつけられた。

 強烈な一撃に父から貰った剣は砕かれて、手から離れてしまった。

 その剣がたまたま1匹のゴブリンの額に刺さったが、今のリズには喜んでいられるモノじゃなかった。

 やっとの思いでゴブリンの群れを倒して、達成感に浸っていたリズの周りに、新たにゴブリンの群れが現れたのである。

 その数は最初の群れより少なかった。

 だからといってそれは何の救いにもならなかった。

 万全の状態ならばどうにかなることは先ほど証明できた。

 だが、今のリズはすでにゴブリンの群れと戦った後なのである。それも不利な状況で。

 リズは防具が軽装である。

 その防具も壁に叩きつけられた時に留め具が壊れたのか、胸当てが地面に落ちて転がっている。

 動きやすいように短めに切っている髪だが、亜麻色のふんわりウェーブがかかった自慢の髪も今は泥に汚れている。

 服も動きやすいようにと布面積が少ないものを着ており、胸当てが外れたことで、意外と大きな胸が存在を主張している。

 鎧の下のシャツも、裾が短いものでやせ型のリズだと浮き出たあばらが見えてしまうほどである。

 下も、太ももの付け根までのホットパンツに太ももの中ほどまでを覆う足袋を装備している。

 そのどれもが今までの戦いで傷つきほつれて、肌を見せたり傷口から血を流していた。

 そのため、今のリズは冒険者というよりもゴブリンに襲われている哀れな村娘のようだ。

 正直エロいのだ。

 ゴブリンたちはそんなリズの様子を見て勝ちを確信したのか舌なめずりをしながら包囲を狭めてくる。

「ヒッ。」

 リズは逃げようとするものの足腰には力が入らず、また、背後は壁であった。

 壁に叩きつけられた背中もズキズキと痛む。

 ゴブリンたちは最早襲われるのを待つだけになったリズに興奮が冷めやらぬ。

 口からは生臭い息を吐き出し、長い舌を出しては口の端から汚らしく唾液を垂れ流している。

 そして股間ではリズを犯すことに期待して醜く起立しているイチモツがヒクッ付いている。

「ゴブリンどもが、負けているときは目にも入らない粗末なものだったが、所詮は粗チン。いくら大きくしたところで粗末なことには変わりないぞ。」

 これはリズの強がりだった。

 しかし、この挑発にゴブリンはいきり立ち、「ギャァッ、ギャアッ!」と醜い声を上げている。

 それを前に、口では強がっていたリズだが、内心は恐怖に満たされていた。

 たとえ粗チンといえ、数がそろえばかなりのプレッシャーだ。

 リズは今年で16歳になるが今まで男性のソレは父のしか見たことが無かったのでなおさらである。

 何より問題は、

 リズを吹き飛ばして壁に叩きつけた存在である。

 そいつはゴブリンである。が、ゴブリンであってゴブリンではない。

 ゴブリンは1mほどの身長をした、緑色の肌をした小鬼の魔物である。

 が、そいつは1m80cmは身長がある個体だった。

 そして瘦せぽっちなゴブリント違って、全身が発達した筋肉に覆われている。

 ホブ・ゴブリンである。

 ゴブリンの群れが大きくなると稀に生まれるという上位個体、ゴブリンたちのまとめ役にもなる厄介なヤツである。

 初心者冒険者ならゴブリン退治はお約束だが、時にこのホブ・ゴブリンの存在によって死者を出すことがある。

 群れを率いるホブ・ゴブリンを一人で討伐できれば、それはベテラン冒険者といえるだろう。

 しかし、リズは駆け出しどころか冒険者としての登録もしていないのだった。

 そんな彼女にホブ・ゴブリンは実際以上に大きく見えた。

「ヒッ。」

 そしてホブゴブリンもまた他のゴブリンたちと同じように、リズを犯せると思って興奮して股間のイチモツを膨らませていた。

 それはリズの腕ぐらいのサイズであった。

「――――無理、やだ……そんなの入んない。あっ―――――いや、来ないで、誰か助けてえええええええええ!」


「”裸イダアアアアアアアアアアアアア・キイイイイイイイイイイイイイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!”」


 リズの叫びに一筋の雷が走った。

 これは少女の叫びに答えた勇者の声。

 少女を守る天の光であった。

 光は稲妻を纏いゴブリンたちを蹴散らす。

 リズはポカァン、としてしまった。

 絶体絶命の中で来ないと分かっていても助けを呼んでしまった。その極限の精神状態のところに本当に助けが来たのである。

 しかも訳の分からない叫び声と共に。

 そりゃぁ、思考が付いて行かずポカァンとした顔になってしまうのも仕方がないだろう。

 しかし、助けが来たことが徐々に分かって来ると嬉しさと安心感から体から力が抜けていく。

 必死に作っていた強がりの表情は崩れて今にも泣きだしてしまいそうになってきた。

 そして、ゴブリンたちを蹴散らしたときに舞い上がった土ぼこりが収まって視界が開けてきた。

「あ…ありがと―――――――

「よく頑張ったな。助けに来たぞおおおおおおおお!」


ゼンラアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 リズの目の前には助けに来た全裸のマッスルが仁王立ちしていた。

 リズは正面から仁王立ちしているマッスルを見てしまった。

 マッスルの体はホブ・ゴブリンのような醜い筋肉と違って、神々しさすらある美しい筋肉をしていた。

 全身あまねく筋肉、輝くような艶やかな肌をした筋肉がリズの前でピクピクの小きざみに動く。

「グギャアアァァァァァ!」

「あっ、危ない。」

 1匹だけ生き残っていたホブ・ゴブリンが背後から手に持っていた棍棒をブゥーン!とマッスルの頭に振り下ろした。


 カーーーーーン!


 いい音が鳴った。

 マッスルの頭に振り下ろされた棍棒はいい音と共にはじき返されていた。

「?」

「グギャッ?ギャッギャッ?」

「……え?なんで?」

 マッスル、ホブ・ゴブリン、リズ、と三者三様の顏で頭に疑問符を浮かべていた。

「え?今頭に攻撃を食らいましたよね。」

「そうなのか?」

 マッスルはあっけらかんと頭を掻きながら答える。

 その髪の毛は鋼鉄でできてるのか。リズはそう思ってしまうほどにマッスルは何でもないのである。それこそ髪型が乱れることが無いほどに。

「グギャアアアアアアアアッ!」

 背後のホブ・ゴブリンは叫びをあげながら再度マッスルの頭めがけて棍棒を振り下ろした。

「五月蠅い。」

 ポッグシャアアアアァァァァ!

 マッスルは一言呟きながら軽く裏拳を放った。

 その拳はホブ・ゴブリンに触れてもいないのに、ホブ・ゴブリンの頭は粉みじんに粉砕された。

「……あなたは、」

 その圧倒的強さと奇抜を通り越した恰好に、リズは疑問を抱き問うた。

「俺の名前はマッスルだ。」(イケボ)

 名前を聞かれていると思たマッスルは名前を名乗りながらリズに手を差し伸べる。

「君の村の人に代わって君を助けに来た勇者さ。」

 ニッコリと、爽やかな笑みで応えるマッスル。

 トゥクン。

 その爽やかな笑顔とマッスルの答えに胸が高鳴るリズ。

 しかし、さわやかな笑顔をしていても相手は全裸だ。ということにハッと気が付いたリズは、「いや、いや、いや。」と首を振って胸の高鳴りを振り払おうとした。

「どうかしたか。」

「いえ何でもありません。」

 心配するマッスルにリズは恥ずかしさからうつむきながら答える。

 リズが恥ずかしがっているのが胸の高鳴りからなのか、はたまたマッスルが全裸だからなのか、リズ本人にも分らなくなってしまっている。

 目をそらしながらでも胸の高鳴りは振り払えなかった。

 さすがに目をそらし続けるのは失礼だと思い、リズはオズオズと上目使いで目線を上げていく。

 そこには「神の見えざる手」、またの名をゴット・モザイクと呼ばれる力が働いているマッスルの股間があった。


8、


 ここで改めて説明しておこう。

 「神の見えざる手」とは人が神の似姿に恥じらいを感じたことで神の怒りに触れて、罪を背負い、罰として股間のイチモツを醜く変えられたのに対して、全裸に恥じらいを感じない神に認められし者の股間を罪深き人々においそれと見せないために働く力である。

 その股間は本来あるべき神聖な姿をしており、普通の人が拝むことは許されないのだ。

 が、神に認められる素養があるものならばその姿をじかに見ることが出来たりもする。

 そしてリズにはその資格があった。

 恥ずかし気に目線を上げたリズの眼前で、「神の見えざる手」はそのベールを剥がし、ボロンッと本来の姿をさらけ出したのである。

「――――――――――――――――――――――――っ!」

 その姿はまさに神のイチモツというべき神々しいものだった。

 しかし、ゴブリンたちとの戦いによる緊張で限界まですり減ったところに、安心感を得た精神にいきなり突き付けられた、とても偉大で神聖なイチモツのインパクトは耐えられるものではなかった。

 フゥ――――――、プツンッ。

 リズは白目をむいて泡を吹き倒れてしあった。

「緊張の糸が切れたか。よっぽど怖かったのだろう。…1人で頑張って偉いな。」

 マッスルは気を失ったリズのふわっふわな髪を撫でた。

 その後、ゴブリンのドロップ品やリズの装備を回収してから、リズを背負って村に戻ったのである。


「はっ!」

 リズは村にある実家の自室で目が覚めた。

 リズの部屋は冒険者にあこがれているだけあって、女の子らしくない飾りっ気の無い部屋であった。

「っ痛。」

 いきなり体を起こしたリズは体の痛みに顔をしかめる。

 その痛みがゴブリン退治が夢でなかったことを証明してくれている。

「目が覚めたか。」

「きゃああああああああああああああああああああああ!」

 自分の部屋、ベッドのすぐ傍に全裸の漢が腕組みをして立っていたので、リズは悲鳴を上げざる負えなかった。

 リズは16歳のうら若き乙女、部屋に男を入れたことは今まで一度もなかった。

 勝手に乙女の部屋に男が入ることは古今東西許されないことだ。これが憧れの父親だったとしてもあり得ないことである。

 しかし、部屋には1人の漢が入ってきている。

 しかもその男は全裸であった。

「はっ、」 

 そこでリズはゴブリン退治に行ったことを思い出した。

 この全裸の漢はゴブリンから自分を助けてくれた者ではないか。

 途中で何故か気を失ってしまったがどうやらこの人が自分を村まで運んでくれたようだ。

 そう考えるにいたったリズは漢にお礼を言うために姿勢を正して頭を下げる。

「失礼しました。助けていただいたのにこのように恥ずかしいと…と……ところ…を…………いや、どう考えても恥ずかしいのはお前だろ。」

 お礼を言おうとしたリズだったがどうしても、全裸で腕組みをしているマッスルにツッコミを入れずにはいられなかった。

「なんで全裸なんだよ。服を着ろよ。なんで堂々としてられるんだ、恥ずかしくないのか。」

 叫ぶリズに「ふっ、」と一息ついたマッスルが答―――――ようとしたところに、扉を開いて長老が転がり込んできた。

「ちょおおおおおぉぉぉぉぉぉっと、まっぁぁぁぁぁぁぁたあああああああああぁぁぁぁ。―――グォホ、ゴホ。」

 テンション上げ過ぎてむせる長老だったが、何とか言い切った。

「その説明はワシがしよう。」


「で、その人は全裸だからこそ神様の力を授かることができた勇者様だって言うのかい。」

 ベットから出て家のリビングに移って長老の話を聞いたリズは顔をしかめながらつぶやいた。

 ちなみに、リビングに移ったのはいつまでも自分の部屋に全裸の漢を入れて置きたくないからだった。

「そうじゃ、この方こそ伝承にある「一切の衣をまとわぬ者。」であるぞ。」

「それって田舎のローカル伝承じゃなかったのかよ。」

 そう吐き捨てるリズではあったが、ゴブリンの群れを一掃して、ホブ・ゴブリンを触れずに倒したマッスルの強さに冗談だと思えなかった。

「なにはともあれ、お前が無事に帰ってこれたのはこの人のおかげなんだぞ。」

 そう言ってリズの父は全裸の漢にお茶を出している。

「若い娘が全裸の漢に連れて帰られてきておいて、無事にねぇ。」

 父の態度につい反発してしまう年ごろの娘、しかし、その父親はそれを予想していたかのようにすかさず返す。

「ソレもこれもお前が冒険者のまねごとをしていたからだろうが。」

 その答えにカチンッと来たリズは、

「だからといってゴブリンをほったらかしには出来ないだろうが。村にこもっていても家畜は襲われ、その内村に入り込んでさらわれることになっていたかもしれないんだぞ。」

「だからこそ冒険者の方に依頼を出すんだ。」

「こんな田舎のしょぼい報酬で来てくれる冒険者がいるってか。」

「だから冒険者のまねごとか。」

「アタシ以外に誰ができる。」

「その言葉は今でも言えるのか。」

 父の真剣な目に見つめられてリズは黙らざる負えなかった。

 今回、マッスルが助けてくれたからこそ自分は無事だったのだ。

 もし、マッスルが居なかったら――――


「いや―――、もう許して。」

 しかしリズの懇願など無視して醜悪なゴブリンたちはリズの体に群がり犯していく。

「フッ―――、グボッ、ウッ―――――ジュボォォォォ、んっ――――――うえぇぇ。」

 何度目だろうか。

 リズの顏にゴブリンたちの汚い黄ばんだ白濁液が掛けられた。

 口の中も、喉の奥も何度と犯されて、ゴブリンたちの白濁液で既にお腹はタプタプだ。

 そして同じお腹でも、胃袋よりも深い場所、女として1番大切な場所、そこも何度となくゴブリンたちに犯されてタプタプになってしまっている。

「アヒ――――、アヘ。」

 リズの精神も体もすでに限界だ。それでもまだ終わりじゃない。

 ヤツがまだいる。

 ホブ・ゴブリン。

 ゴブリンの中でも大柄な体躯をしている個体。もちろんそのイチモツも普通のゴブリンなんかとは全然違う。

「いっはぁぁぁっ、―――みょう無理、―――おチ〇チン、いやぁああああ。」

 しかし、リズの懇願など無視してホブ・ゴブリンはリズに近寄って来る。

「―――いやっ、いやぁぁぁ。」

 リズは必死に抵抗しようとするものの、もはや普通のゴブリンすら払いのけられないのに体格に優れるホブ・ゴブリンに叶うはずもなかった。

 ズウウウウウウウウゥゥゥボォォォォォ!

「カッ――――――――ハァッ!」

 無慈悲に、無遠慮に蹂躙されるリズの体。

「グギャァ、ぐぎゃ。」

 周りのゴブリンはそれを見て楽しそうに歓声を上げていた。

「アッ――――――、アァ。」

 しかしリズにはそんなことに構ってられる状態ではなかった。

 ホブ・ゴブリンのイチモツはこれまで相手してきたゴブリンたちとは全然違った。

 リズの腕ほどの太さがあるホブ・ゴブリンのイチモツが無理やりリズの体内に侵入してきた。

「――――グッ、―――あっ、いっ、――――――ンァッ!」

 乱暴に扱われても、ゴブリンの粗末なモノでは広げられなかったリズの体内が無理やり広げられる。

「アァ―――――ッ、イギィ!ォォォォォォォホォ。」

 お腹の中にたまっていたゴブリンたちの汚い子種が無理やり掻き出される。

「アァッ、あっ、あぁぁぁぁ―――――――――――!」

 そして吐き出されるホブゴブリンの子種がリズの体をみたしていく。

「ハァ、ハァ、ハァ―――――――――――。」

 もはや性も根も尽き果てたリズだが、凌辱は終わらない。

 そして考えることをやめていくばくかの時がったた時、ふと気づけば、ゴブリンたちの子供を産んでいる自分がいたのである。

「ア、ア、あっああああああああああああああああああああ。」

 そこで完全にリズの精神は壊れた。


 ―――――――――――――悪寒がした。

 もしマッスルが助けに来なかった時のことを想像して、リズはこれでもかという恐怖にさいなまれた。

 若干、リズの想像力が豊かな気がしないではないが、確かにマッスルが居なければそのような現実が待っていただろう。

「お前は今でも冒険者に成りたいのか。」

 ビクンッ―――――――。

 リズは父の言葉に身がすくむ。

 父の目を見れば怖いほど真剣だ。

 リズは、リジィエール・フォン・マクシミランはもう一度先ほどの想像を思い出して、それからはっきりと言葉にした。

「――――ワタシは、……ワタシは冒険者に成りたい。」

 ゴブリンの脅威は分かっている、どころかこの世にはもっと危険なモンスターもいることだって分かっている。

 だからといって、怯えて引きこもっているだけでは誰も助けられない。

 自分が負けた時の犠牲は自分一人、数は変わりはしない。しかし、自分が勝ち続ければ犠牲者の数は減らせる。数は変わるのだ。

「なら、ワタシは冒険者に成りたい。」

 たとえ今は経験が足らなくても、だからこそ経験を積んでいき、立派な冒険者になるんだ。

 リズがしっかりと父の目を見返すと、父は「はぁ~~~~。」とため息をつき、椅子から立ち上がって傍にいた全裸に向かって土下座をし始めた。

「ちょっ、おとん何しとんじゃ。」

「勇者様、至らない娘ですがどうかよろしくお導き下さい。」

 何故かリズが全裸のマッスルの弟子になるような流れになっている。

「ちょっとまってぇな、なんでアタシがこの全裸に導かれなあかんねん。」

 リズがそう言って皆の顔を見れば、

「リズよ。この村には其方を助けてもらった報酬を勇者様に払うことが出来ないんだよ。」

「――――なっ。」

 その意味を悟ってリズはマッスルを睨む。

「代わりに、異世界から来て冒険者の身分がない勇者様を冒険者ギルドに案内することが対価となった。」

 続けてリズの父親から言われた言葉にリズは固まる。

「昨今、魔王の影響で村の外には魔物がはびこる。しかし、この村で冒険者ギルドがある町まで勇者様を案内できる者はいない。―――――――お前を除いてな。」

「―――あっ、」

「お前が冒険者に成りたいなら、勇者様についていけ。」

「―――いや、それだとこの村はどうなるんだ。誰が守るってんだよ。」

「心配するな。お前に頼りっきりになるほどこの村は落ちぶれちゃいない。」

「それに勇者様の存在が我らの神への信仰心を目覚めさせた。今の村の結界なら安全じゃ。」

 リズの父と長老は優しい目で見つめてくる。

 正直嬉しい。

 冒険者にあこがれながらも、女だかっらって田舎の村で一生を過ごすしかないと思っていた。だからこそ父に冒険者になることを認められたのが嬉しい。


 ―――――同行者がこの全裸でなければ。



 村のはずれ、神託の丘とは反対に当たる村の出入り口。

 そこに二人の人物が居た。

 1人はこの村の娘。

 冒険者にあこがれて、冒険者ごっこの延長を超えて鍛えてきた少女。名前はリジィエール・フォン・マクシミラン。愛称はリズである。

 折れた父のおさがりに代わるロングソードを携えて、今から冒険者になるために村から旅立つのである。

「…あんた、ホントに全裸で行くわけ。」

「愚問だな。」

「恥ずかしくないわけ。」

「ふっははははははははは!俺の体に恥じる部分などありはしないわ!」


 今ここから、魔王を倒し世界を救う使命を帯びた一人の勇者の旅が始まる。

 その道程は困難に満ちているだろうが、決して己の信念を曲げず堂々と進むことだろう。

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