エピローグ5-5 みはるとなつめ
「なつめさん、私、やっとやりたいことができました」
「うん、何がしたいの?」
「絵を描きたいんです。絵を描くの楽しくなっちゃって美術部に入って、それでーーー」
なつめさんに話をした。昨日と今日あったこと、美術部の先輩たちのこと。絵を描くときに考えたこと。描いた絵のこと。たくさん、たくさん話をした。なつめさんはそれを優しく笑って聞いていた。久しぶりに、本当に久しぶりに悩み事なくしゃべることができた。
「そっか、頑張ったね。みはる」
「はい、それはもうめちゃくちゃに頑張りました!!頑張りましたとも!!」
ご飯を食べ終えて、シャワーを浴びた。話こんでしまったので、結構夜遅くなってしまっている。明日、日曜日だから夜更かしはできるけれど、少し眠い。えーと・・・・今日は私がベッドの日だったけ。ただ、ソファになつめさんはいなくて、ベッドに向かうとなつめさんが腰かけた状態でスマホをいじっていた。あれ、今日、私の日じゃありませんでしたっけ、と言おうとして。
あ。
そうだった。宿題は、約束は果たした。つまり、えーと、あれが解禁された、ということですかね?
「なつめさん、えーとつまり、これはその、そういうことですか?」
「うん、
「え、と、心の準備が・・・」
「みはるは、いや?」
「・・・・嫌じゃないです」
手を握られる。抱きしめられる。それだけで、心拍数が上がる。幸せとどきどきが交互に来て、わけがわからなくなる。
喉をなめられる。耳をなめられる。未知の感覚に脳と神経が翻弄される。
口づけをされた。そういえば、私、初めて。
寝間着の隙間からなつめさんの胸が見えた。えろい。
「なつめさんが、えっちいです。しかも積極的です」
「我慢してたのはね、みはるだけじゃないの」
「・・・うう、全部えろいです。さらっと初キス奪われてますし」
「はは、私も初めて」
「・・・・なつめさん」
「うん?」
「私も、したいです。さっきのなつめさんみたいなやつ、もっと先も」
「うん・・・・して?」
なつめさんに触って、なつめさんに触られながら。
昔のことを思い出す。
ここに至るまでの、私の物語。
逃げ出したこと。
救われたこと。
一緒に暮らしたこと。
聞いたこと。
話したこと。
決意したこと。
戦ったこと。
友達のこと。
成し遂げたこと。
助けたこと。
伝わったこと。
迷ったこと。
見つけたこと。
そして、結ばれていること。
何もないと思っていた道に意味ができた。
何もできないと思っていた私が何かを作れた。
誰かに流されたんじゃない、私の在り方。
でも、多分、これは私の道だけど。私だけの道じゃない。
いろんな人のそれが交差して、影響しあってここまで来た。その積み重ねが私をここまで連れてきた。
お父さん。お母さん。お姉ちゃん。あきの。かな。まり。畑中さんと加納さん。モリさん。さやさん。ザキさん。
なつめさん。
たくさんの人と交わって、助けられてここまで歩いてきた。きっと、私が助けたこともたくさんあったんだろう。
そうやって紡ぎあげてきたものが、言葉にできない私という人間だった。
道はまだ続く。これから先、何がおこるかわからない。
ハッピーエンドで物語は終わらない。人生はずっと続いていく。
でも、なつめさんと一緒ならそれでいい。
二人で手をつないで歩けるならそれでいい。
どちらかがつまづいてしまっても、きっとどちらかが手を引いて歩いていける。
そのために、自分のしたいこともちゃんと持てた。
自分の気持ちを伝える大事さも、ちゃんと知った。
相手に伝えることの難しさも。それでもちゃんと伝えるべきだということも。
そしてなにより 自分自身に嘘をつかなければ。
自分に正直でいられるのであれば。
きっと私たちは大丈夫だ。
抱きしめる。肌を感じる。声を聴く。息を吸う。息を吐く。
私の道はまだ続く。なつめさんの道も。
ずっと。ずっと。
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とりあえず、明日が日曜日でよかったと心底思った。
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