Day2・3.0

 目を開けると、高い天井が見えた。濃淡のついた青い天井だ。


 カーテンの隙間から、細く糸のような日差しが顔の上を這っている。光の先に視線を向けてみると、窓辺のアームチェアで大樹が丸くなっていた。さすがに昨日の今日では、同じ布団で寝ることは憚られたらしい。というより、この男はいつ戻ってきたのだろうか。


 昨夜、砂浜から戻った私は真っ直ぐホテルに帰ってきた。そんな遅い時間にしたいこともなかったし、何より眠かった。シャワーを浴びて早々にベッドに潜り込んだところで、私の記憶はぷつりと途切れている。


 今は何時だろうか、と枕元に投げ捨ててあった腕時計に手を伸ばす。寝転がったままそれを顔の上まで持ち上げると、二という数字を指す短針が目に映った。一瞬午後まで寝てしまったのかと焦ったが、何ということはない。この時計が指しているのは日本の時間だ。午前二時。


 日本が二時なら、と私は寝起きのふわふわした頭で考える。

 こちらの時間では……朝七時。まだ一日は始まったばかりだ。


 今日はどうしようか。大樹はショッピングセンターに行きたいと言っていたが……などと考えて、ふいに耳の奥に残った自らの発言を思い出す。


 ——明日、一人にさせて。


 思わず放ってしまった言葉。意図していなかったものとはいえ、しかしそれは存外に私の中の大きな部分で主張をしていた。


 私はこれからどうしたいのか。本当の心はどこにあるのか。

 昨日の霧は、まだ晴れていない。


 特に何がしたいという訳でもないが、彼と一緒にいて気まずくなるくらいなら、今日は宣言通り一人になって色々なことを考えてみても良いのかもしれない。そう決めると私はそっとベッドを抜け出し、部屋の隅で支度を始めた。

 音を立ててはいけないという訳でもないのだが、何故だかそういうゲームのように慎重になってしまう。別に、後ろめたい感情なんてものはないのに。途中、大樹が身動ぎするのに何度かびくりとさせられたが、それでも彼が目を覚ます前に何とか準備を終えることができた。


 水着の上に羽織ったパーカーに、小さな紐付きポーチが一つ。

 もう一度、砂浜に向かうつもりだった。街に行きたくなったら、部屋に戻って着替え直せば良いだろう。


「……じゃ、そういうことで」

 小さく声を掛けたが、彼は眉間に皺を寄せたまま目を覚まさなかった。

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