Day1・1.0
その地に降り立つと同時に
そうだね、と私も日差しに目を細めながら空を仰いで応える。
「さすが常夏の楽園」
約半日もの時間を空調に管理された機内で過ごした後だと、自然そのものの風や光を普段よりはっきりと肌で感じる。それはどこまでも透き通っていて、爽やかさに満ちていた。
「でも、日本と全然違うな。空気が軽い」
「だねー」
頭上に屋根が取り付けられただけの解放的な通路から見えるのは、青すぎるほど青い空、南国というイメージそのものの木、それから先ほどまで乗っていた飛行機。
ただそれだけの景色がやけに珍しく目に映る私たちは、特別面白味もないその道を必要以上にゆっくりと歩いていく。目線の先に掲げられた案内表示には、進む先を矢印で記した横に「Passport control」と書かれていた。
ハワイを訪れるのは、私も大樹もこれが初めてだ。そして同時に、私にとっては初めての海外でもある。視界に入る何もかもが目新しくて、どんな些細なものにでも惹かれてしまうのは仕方ない。
片言の英語と適当なジェスチャーで入国審査を通してもらい、日本語がなかなか表示されない液晶に首を傾げながらキャリーバッグが流れてくるのを待って。ようやく到着ロビーに出る頃には、私の気分はすっかり高揚していた。
とはいえ、感情と言動とがなかなか結びつかない私だ。「暑い」やら「すごい」やら、同じような感想を馬鹿みたいに繰り返し呟くことと、あとは周りを見渡すことくらいしかその表現方法がない。
一方の大樹も似たようなもので、予約したホテルからの送迎バスを待つ間、腕組みをしながら私の語彙力のない感想に「そうだな」やら何やら言いつつ頷いていた。ただ、いつもよりその頷きが大きいので、彼も日常から離れたこの状況に浮かれているのだろう、という推測だけはついたが。
——毎度思うんだけど、
以前、仲の良い友人から下された私たちの評価。概要をまとめるならば、とても付き合っているようには見えない、とのこと。
傍から見てどう思われているかなんて気にしていないし、正直どうでも良いのだが、ならば正しい付き合い方とは一体何なのだろうとは思う。四六時中べったりとくっついて喋り続けることがそうなのだとしたら、すぐに疲れてしまって私には一生できそうもない。
近すぎる距離は要らないし、多くの言葉も求めない。
希薄と見られがちなこの関係だが、私はそれを悪いものだとは決して思っていない。
やがて到着したバスに乗り込み、大樹より先に窓側の席を陣取る。車窓に貼り付き、振動しながら流れる風景を眺めていると、遠く見えていたはずの街並みがあっという間に近付いてくる。それはまるで蕾が花開いていく様を早送りで見ているようで、その色付き方に私の胸も知らず膨らんでいくのだった。
気付けばバスは市街地に入っていて、ワイキキビーチを前にした大通りで降りれば、そこはもう予約したホテルの目の前だった。
「何階だっけ?」
建物を見上げて訊く大樹につられ、私もその視線の先を追う。
「三十六階だったと思う」
二本そびえる八角形の建物は、雲一つない空の彼方まで一直線に伸びていた。
「高いな」
「うん」
客室は海側を予約してある。良い景色が眺められそうだ。
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