第二章 王都編

第十八話 王様

「具体的に王都に行って、その後どうするんです?」

「いつも通り一番簡単なクエストからやる、これに尽きるだろ」


結局頭がおかしくなった颯馬を止めることができず、王都へ向かうキャラバンに同行させてもらった颯馬達

「そういえば王都王都って言ってるけどさ、何となくどんなところかは想像がついたからいいけど正式名称知らないんだよね」

「今更ですか、そりゃまぁ確かに王都としか言ってませんでしたが…

正式名称は「南大陸統合国家王都ソレイユ」です。ソレイユというのはフランス語で太陽を意味し、周囲の橋や洞窟などの名称は何故か黄道十二星座の名前から付けられています、位置はバラバラですけど。あ、ちなみにトレフ村は違いますよ」

「はぇ~…って、何で他は英語なのに王都だけフランス語なんだよ!あと何で俺の世界の言語がこっちにあるんだ!!」

「知りませんよそんなこと!私達がこの世界を観測した時点で既に王都は存在していたんですから!!

つまり私が管理についた十三年前にはもう王都は出来ていたんです。」


「え、英語?フランス語? 何を言っているんですか?」(byレガス)


「…なぁ、この世界ってミライの詠唱からして英語で言語統一されてるのか?

なんか文字もローマ字みたいだし…」

「だって面倒じゃないですか。この世界ではバベルの塔が建てられなかったと思ってください。」

「バベルの塔…って、あれか。天に昇るための塔で、それが神様の怒りに触れて言語がバラバラになったっていう……

じゃぁ何で俺英語わかるの?まだ俺高校生だよ?」

「この世界に来た時点で「星」そのものから最低限の知識はもらえます。「魔物」という異形の存在、この世界の基本言語などなど。あなたの世界の普通の人間はそういうのを見たらSAN値が減少…もとい目を疑うはずですが、あなたはただ「そこに"魔物"がいる」という認識だったでしょう?」


『その生物はおよそ人間の子供に近い体型をしていて、緑色の体色、醜い顔、尖った耳、むき出しの牙


その右手には棍棒のようなもの。 いわゆるゴブリンというものか


小型の生物は普通群れをつくって生活している。単独行動は基本的にしないと思うが、恐らくはぐれたのだろう』

「…確かにな。それが普通だと思える時点でおかしいと…」


「いやですから何を言っているんです?」(by現地人)


「ああすまん、こっちの事情の話だ。気にするな」

「そ、そうですか…」


…もう少し声のトーン下げるか。


――――

城壁が見えてきた。

王都には毎日行商人が出入りしていて、日中は常に入口に行列ができている

統合国家という名前だけあって、ここに南大陸の全ての特産品があるらしい。

その城壁は数kmにもおよび、中世ヨーロッパのブリテン王国を連想させる

時代にそぐわない真っ白な城壁は、ラフェル曰く魔法による狙撃を防ぐための「対魔力防護壁」とのことだ。

何やらこの前勇者の娘だか息子だかが持っていた「夜空」に近い素材だとか。

それをこの規模で…流石王都、懐が違う


「次!!」

城門が見えてくる。

門番として衛兵が六名立っており、荷物の検査などをしている。

検査には特殊な魔導具を使い、商売以外の危険物が無いか確認している

二人係で交代制であり、一時間置きに交代のようだ

もし危険物が見つかった場合は…


「!! 貴様!!取り押さえろ!!!」

俺たちの四つほど前の髭を生やした行商人の荷物の取り調べ中、ピーピーという虫メガネのような魔導具の警報とともに休憩していた後ろの衛兵も一斉に動き出す。

門番を担当する衛兵はレベル40前後が割り当てられ、冒険者ではない行商人がそのステータスに対抗できる術も無く、逃げることすら叶わず腕を捕まれ、地面に押さえつけられる。

「危険物取締法第三条、魔法店の証明書無しの違法薬物の搬入は法律で禁止されている。収容所送りだ!!」

「おねげぇします!!あそこだけは!!あそこだけはぁぁ!!!」

「うるさい! 行きたくないんだったらこんな商売するな!!」


荷物を没収され、衛兵に連れ去られる髭の行商人

この世界にも薬物なんてあるんだな…って、薬の材料なんだからそりゃそうか。

あっちのヤクもきちんと使い方を守ればちゃんとした薬になるんだったよな

っていうかちゃんと叱ってくれる当たりここの衛兵は優しいな。


「次!!」

どんどん列が進み、ついに俺たちの番だ。

「入国の目的は?」

「私達は武具店「ジャッカル」の商品の搬入、こちらが書類です。ついでに彼らは付き添いの冒険者です。」

「よろしい、では冒険者カードを。」

言われた通りカードを差し出す

「葛城颯馬、ラフェル、ミライ、レガス………んん!?レガス!?」


レガスの名前に反応する。まさか知り合いか?

レガスは王都から来たと言っていたから知り合いがいてもおかしくはないが、まさかこんな形での再開になるとは。


「えっ、クレト君!? 久っしぶりーーーーーーー!!!!!!」

反応からしてかつての旧友に突撃していくレガス。鎧を着たまま突っ込む姿はまるで砲弾だ。

さながら変異種もあの時はこんな気分だったんだろうな


「久しぶりだな~!!レがグオファッ!!!!」

えーっと、レガスの質量は約60kg、速度は目視10m/s、移動距離はだいたい10mだとした場合

着弾まで一秒(!!!)だから、ma=Fより60×10=600

600N…かつW(N×m)=600×10=6000

6000J…ヘビー級ボクサーのパンチ6発、対物ライフルとまではいかないけど普通の対人ライフル3発

拳銃20発、

おいおいおい、マジで砲弾じゃないか。おまけに腹部にクリーンヒット

おっそろしく早い突撃、おれでなきゃ見逃しちゃうね


「ひ、久しぶりだなレガ…ス…」

「クレト君?…クレトくぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」

「とりあえずレガス、質量的にそいつ圧迫死しそうだからどいてやれ」

兜が吹き飛んで、中の黒艶ハンサムイケメンがあらわになるが、白目を向いて泡を吹いていては台無しだ

というか心停止してないよな? 


-ten minute later-

「というわけでレガスの友、クレトだ。レガスが世話になってるな」

10分でこの回復力。まだ口元から血は出ているが、衛兵としての肉体と王都の救護班の実力が見て取れる

「そうでもないさ、確かに最初は隙あらば逃げ出しそうだったけど、かれこれ一ヶ月、だいぶ逞しくなってきてるぜ。」

「助かるよ。そいつ、昔は俺がいないと何にもできなかったんだからな ハッハッハ」

「ああ、そうかも ハッハッハ」

「ドつきますよ」

「「すまん、からかい過ぎた」」


「それでは、どうぞ。元気でな!!」

「クレト君も!!!」


レガスの怖い一面を見たところで、王都ソレイユに入る

中はいかにも城下町という作りで、無機質な外壁とのギャップが凄まじい

常に活気があり、何人もの冒険者や商人、更には貴族までがそこにいる

とりあえずクレトからもらった地図を見てみると、

北東:貴族邸エリア

北西:住居エリア

南東:商業エリア

南西:冒険者エリア

中央:王城

と、結構綺麗に区分分けされている。

とりあえず王城に向かうか


今回入った門は南門だ、つまりこのまま北、つまり大通りを真っ直ぐ進めば王城に着ける

「多分行った所で追い返されると思いますがね~。ほんとあなた何考えてるかわからないですよ」

いくらキャラバンに少し乗せてもらったとはいえ、十数kmの距離を徒歩で移動したことは変わりない

おまけに装備を持ったままだ、いくらレベル15とはいえかなりキツイ

朝早く出たのにもう午後三時くらいだ。

かなりの空腹に頭が回らない


何とか王城に着く

王城とあるがその外見はまさに塔で、王都全体を見渡す為に作られたような施設だ。

この塔も外壁と同じように対魔力防御壁が取り付けられ、真っ白い無機質な見た目をしている


とりあえず門が開いているから入ろうとするが

「おい!そこの冒険者!!招待状を見せろ!!」

「へ?招待状?」

「チッ、これだから田舎者は… 招待状って言うのはな、この王城に住む貴族邸エリアの中でも高位の貴族の方からだったり、大臣や各部のお偉いさん方の推薦の手紙なんだよ。で、持ってるか?

って、知らないなら持ってる訳ないよな…」

「あのー…これじゃダメですか?」

とりあえず洞窟で拾ったカードを見せるが、それがどんな物なのか、知る術を持つのは現状今彼が会いたがっている王様しかいない

「駄目だ駄目だ!!帰れ!今回は初だから通報はしないでおいてやる。次はちゃんとしたモノホンの招待状を持って来い!!」


結局そのまま南西の冒険者エリアに向かうことになった。

ここでは、商業エリアに入れなかった酒場や銀行(!)、欠かせない冒険者ギルドがある。

とりあえず酒場に行こう、腹が減って死にそうだ


――――

酒場に到着すると、もう夕方だというのに中は賑わっていた

原則夜間は門が閉まり入出国禁止なのだが、北門以外は夜間専用クエストを受理すると通れるようになるそうだ。

夜間専用クエスト…昼夜逆転の生活になりそうだ…と思ったら一時的に吸血鬼みたいに夜中でも活動ができるようになるらしい、なんだそれ


「マスター、一番安い肉4四…三つ」

「ちょっと私の分は!?」

「お前こっそり携帯食隠し持ってるだろ!!それでも食ってやがれ」

「そんなー(´・ω・`)」


空き席を探すが、見当たらないので一人で飲んでいるフードを被ったローブの所にお邪魔する

「あのー…相席よろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。どうぞ」

「ありがとうございます…」


昼食もこの餓鬼のせいでほとんど抜きだ、マジで死にそう

しばらく死にかけてたが、ご飯が来る匂いがして急に意識が鮮明になる

間違いない、これは…一番安い肉か!?え、ワーストでもこれなの!?


運ばれてきたのは、串肉だった

我慢できずに一つ頬張る

牛肉の赤身、しかし全く硬くなく、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出る

味付けは単に塩コショウ…この世界に塩はともかくコショウがあるとは驚きだが、今はそんなことなどどうでもいい、シンプルな味付けだが逆にそれがいい。肉本来の風味と味を生かしながら足りないピースをはめている。

そしてこの牛肉にしては異常な柔らかさ…そしてほのかな酸味…果実か!!果実酒にでも漬け込んで焼く際にアルコールを飛ばしているのか!!パイナップルなどの果実には一緒に調理すると肉のタンパク質を分解しうまみ成分であるアミノ酸に変えるという非常に重要な役割を果たしている。

焼き加減も抜群、外はカリッと中はジューシー

こんなのジェニム村じゃ絶対に食べられない。あぁ…王都にやってきてよかった…


一瞬にして食べ終えてしまう。物足りなさについ反射的にお代わりを頼もうとするが、お腹が少し膨れ思考能力が戻ってきてしまうと、恐ろしい考えがよぎる


これ…いくらだ?

ワーストって、高くてもせいぜい金貨10枚、ジェニム村では常に一番安い金貨五枚のサンドイッチを食べ続けていた(なお結局ラフェルがお代わりしまくるので普通に20枚くらいかかってた)が、その程度だという認識だった。

ひもじい

しかしこれは何だ?いったいいくら請求される? 一本あたり20枚?30枚?はたまた50枚か?

恐ろしや…王都恐ろしや…セレブの集まりかここは!!そういえば貴族エリアなんてあるんだからセレブパーティだったな!!



あまりのおいしさにお肉を泣きながら頬張る三人を見て、ラフェルは発狂寸前だった

如何せんいつもお腹が物凄い勢いで減るのだ、三大欲求などと言っているが、こいつの場合は不眠一週間のような過度に制限しない限りは常に食欲の一大欲求だ。

つまり「欲望全開状態」で、「目の前にそれを満たすものがある」のに「手に入らない」


さぁ皆さんならどうする


答えは一つ



こ   ろ   し   て   で   も   う   ば   い   と   る



と、動こうとした瞬間、ローブの人がスッとラフェルの手元に何かを寄せる

見ると、それは颯馬達が食べている牛串と同じものだった

おごり、自分では考えられないような紳士的な行動。

こいつ…デキる!!


などという考えが出てきたのは、既に食べ終えた後の事だった

うまい、うますぎる

「おかわりください!!」

反射的に紡いでしまう

「馬鹿っ今そんな金無いんだぞ!!」


「いいよ、君たちの分と、彼女のお代わり分は僕が払おう」


ローブの人…男が言う

「い、いいんですか!?」

「なに、これでも多少は懐に余裕があってね。君達新入りだろ? 王都では新入りには優しくてね。

ただし基本的に次は無いからね、気を付けた方が良い。僕もあまり自由に動ける立場じゃないんだ、次からはしっかりクエストで稼いでくれよ。」

「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」


勘定を終え、とりあえず宿屋を探そうと店を出ようとしたとき、酔っぱらいの大男が近寄ってくる

「へいあんちゃん、金もってるんだって?俺にも恵んでくれないかな~♪」

うゎ出た。酒場にはいるんだよこういう悪酔いする奴

新入りには優しいって言うけどそれってアルコール入ってない時だろ? 酔っぱらいは容赦ないから嫌なんだよな


「悪いが、飲んだくれにくれてやる金は無い。大人しく帰ってくれないか」

「なんでいなんでい、いいじゃねぇかちょっとぐらい」


そうしてローブ男の懐に手を伸ばそうとして…

一瞬閃光が走る

その様子を見ていた酒場の人間は、誰しもが目を瞑っただろう

幸いにも、厨房は別の場所の為料理人達は被害にあわずに済んだのだが

一瞬の最中、ラフェルの目には閃光の正体が見えていたが


そして次の瞬間

延ばした大男の腕がスパッと切れていた

「え?  」


あまりの早さに斬られたことすらわからず、後から来る鋭い痛みでようやく理解する


「あがああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「やれやれ、またやり過ぎてしまった。ほらお望み通り金ならくれてやる、治療でも受けてくるんだな」


血が止まらずもだえ苦しむ大男の足元に金をばら撒き、その場から急ぎ足で立ち去る

騒ぎに巻き込まれないよう急いでついて行く

ばら撒かれた金は金貨のような金色の貨幣ではなく、本物の金だった。

なるほど、それならキャッシュレスが進む中で財布を持ち歩く必要がある。


どんどん人気が無くなっていく。ここまで王都の立地を完全に理解していると、社会で暗躍する「裏」の人間のような気がしてならない。


「よし…と、ここまで来れば大丈夫かな」

ローブ男がフードを脱ぐ

その正体は…


「あ、明登さん!!??」「明登お兄ちゃん!?」


そう、フードの下の顔は十三年前の勇者、仰木明登だった

ミライの話には正確な容姿が無かったため、想像の余地が無かったが、なるほどイケメンだ。

どうしようもないほどイケメンだ。


整えられた茶髪、つややかな瞳、美しい顔立ち、そして特徴的な目の下の黒子

これが魔物をいたぶるときはおっそろしい超自然的な笑顔になるとは想像もつかない

というかこの顔で不自然で自然な(?)笑顔って怖すぎだろ、そりゃ六将だろうが賢者だろうが腰抜かすわ


「やぁ、久しぶり。メガミ様、ミライちゃん。大きくなったね」

「明登おにぃ…!!」


抱き着くべく駈け出そうとするミライを、ラフェルが止める



「いえ、あなたは明登さんではないですね。あまりにも精巧で騙されるところでしたよ」



一瞬の同様のあと、冷静に語る。この切り替えの早さはさすがと言ったところか


「おや、流石にメガミ様は騙せませんでしたか。いつお気づきに?」

「つい先ほど。あなたが酔っぱらいの腕を斬り落としたところです」


閃光の直前、ラフェルが見た物は、

黒曜石のナイフだった


黒曜石はアステカ神話において非常に重要な役割を担う

例えば黒曜石のナイフ、これは「テスカトリポカ」やトラウィスカルパンテクートリが太陽神トナティウに敗れた後の姿である「イツラコリウキ」の名前の意味だ。

他にも黒曜石の鏡は前述のテスカトリポカの右足を失った象徴として右足の代わりに描かれていたり等黒曜石とアステカ神話、古代メキシコ文明は切っても切れない関係にある。


「黒曜石のナイフはトラウィスカルパンテクートリの槍のレプリカ、偶像の理論で同一視させ、金星の光の反射で災厄、ナイフを精巧に作ることで属性を加え、具体的には斬撃を意図的に引き起こした。さてはあなたこっそり練習していましたね? 

金星の反射光を即興で計算するなんてあちらの世界の魔術師でもほぼ無理です。天文学部もありますからそこであちらとは違う詳しい惑星の位置も把握している。その姿も、シペ・トテックの逸話を元にした変装術式でしょう。」

「いやー、流石にナイフを見られては後は簡単ですよね。」

「え?トラエスカルゴ?頼むもう一回言ってくれ」

「どうせわかんないからいいでしょう」


「明登さんがあなた程度に後れを取るとは思いませんからちょっと商談を持ちかけたんでしょう。どうせいつも通り金で釣って。あと明登さんの一人称は「俺」ですよ。とうとうボケましたか?」

「ハハハ… いやちょっと待ってそれを彼の前でバラすのはまずいって」

「おいっつーことはアンタ…」


「やっぱりばれちゃうよね…用があるのは彼だけだからなるべくメガミにはばれたくなかったのだが…仕方がない。」

文字通り明登の皮を被った誰かは、ベリベリという嫌な音とともにそのフェイスマスクを外す

剥がすとともに声帯等の内部構造も変化しているのか、声のトーンが急に低くなる

今までパリピのような好青年だった口調が、急に重々しく感じる。


「ひぅっ!?」

「あっ、お前ら見るな!まだ早すぎる!!」

急いでミライとレガスの目を防ぐ。やべぇ、こんなんトラウマもんだぞ

知り合いの顔が剥がれて文字通りの意味のリアルアンパンマン状態だなんて


「まったく…あなたの事だからどうせばれるのわかってたのでしょう。初代ソレイユ王、ナルメラ・ネイティプ。もとい統合王…」


「ストォォォォォォォォップ!!!!!!!お願い真名バレだけはやめてあとでお金あげるから!!!!」

「別にあなたゴーストライナーみたいに颯馬の世界の人間じゃないんですから良いでしょ」

「良くない良くない!!仮の名ならせいぜい冒険者カード程度で済むけど真名バレの恐ろしさは"あちら"の文化に触れたあなたが一番よく知ってるでしょうが!!!」

あーもうめちゃくちゃだよ。せっかくのシリアスな変身が台無しだ


前勇者の顔の下から現れたのは白髪の青年だった。

肌は透き通るように白く、その赤い黒目はどことない悲しさを連想させる。


この世界には若返りの霊薬なる飲むと何年も体が若返るという理想の薬があるらしく、偶然カルネスが発明するまでは、アーティファクトとして完全な若さを維持し続ける不老の薬だけだったそうだ。

そしてそれを飲んだ初代王は十三年以上この王都を統べているらしい。中身は100歳以上だとか、ジジイじゃねぇか


今のナルメラという名前は、一般的に古代エジプトの初代ファラオとして知られる人物の名前をもじったものだそうだ。ラフェル曰く魔術についての俺の世界の知識を教えると同時に、名前を改編させたとのことだが、そう簡単に名前って変えられるものなのだろうか…


「ところで、何故あなたが明登さんの変装までして私達に近づいたんです?」

「あれ?近づいたっつーても相席良いかって聞いたの俺たちだよな?」

「あなたの世界の『英霊』と呼ばれる存在の一部はは千里眼というあらゆるものを見渡せる眼を持っているんです、中でもAクラス以上の物は未来を見ることができるとか。彼のも同様で、EXの過去未来全てや現在の全てとまでは行きませんが、少し先の未来予知が可能なのです。

まぁコイツは仮物のスキルで代用しているだけですけどね。」

「ま、偽物な以上そこまで大した物では無いがな。しかし実際何度もこの眼に助けられている以上、誇るべき物かもしれん。」

やっといつもの調子に戻ったのか、口調がシリアスになった


「本題だが、その前にこれについては本人以外に聞かれると困る話でね。『静止せよ』」

「しまっ…!!颯馬!!!」

ラフェルが気づくが、もう遅い

言葉を世界に訴えかける、言葉のままに世界を歪める

高速神言と呼ばれることもあるこの魔術は、速攻かつ確実にその効果を発揮するが、効果のほどは本人の魔力量次第なので、ちゃんとした「神殿」や「工房」を作らなければ器用貧乏な魔術である


しかし、魔術師でもないただの人間を数人の時間を止めさせるだけならば問題はない

ミライは持ち前の魔力量で無効化レジストするが、

『眠れ』という次弾により眠ってしまう

倒れるミライを支え、そっと壁に立て掛ける


改めて白髪の青年に向き直る

「何が目的だ…?」

「君、先日あるカードを拾っただろう。「Foreigner」と書かれたカードだ。」

「!! なるほど、俺たちの行動はあんたに筒抜けだったということか。」

「悪気はないがね。そして、ここからが本題だが…」


次の言葉で、颯馬の運命は大きく変わってしまう。それが例え必然であったとしても、最早抗いようの無い運命である


「そのカードを使って、六将達を倒してもらいたい」

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