起源編 1話
ボロボロの黒衣を纏った青年と、漆黒の鎧と大鎌を持った騎士のような「死神」。
「はぁ…はぁ…これで全部か?」
「あァ、問題ねェ。」
「とりあえず恵に報告だ、一旦戻るぞ」
「分かったゼ、ったく不便なもンだよなァ…」
「仕方ないだろ、何しろ300年も封印されていたんだから。」
「全くだ、あの生意気な天使どもがよォ…何匹潰しても蟻のように湧いてきやがって」
俺の名はゼロ、俺のパートナー兼育ての親みたいな奴の恵に名付けてもらった。
そして俺たちは「教会」を倒す為に動いている。
「まァでも大分戻ってきたもんだ、3割くらいだがナ」
この特徴的な喋り方をするのは臨界対戦で封印された死神タナトス、何でも死神界では「タロット」の一人で最強を争うほどの強さだったとか。基準は俺にはよくわからないが
それが300年の封印でこの様だ。
家…というか「教会」を倒す為のメンバー回収の仮拠点に帰る。どう見ても山小屋だが、調合の為の道具や鍛冶ができるスペースなど意外と便利になっている。
「ただいま、恵。」
「あら、お帰り。それの扱いにはもう慣れた?」
黒刀「夜空」。魔力で構成された神秘を打ち消す希少鉱石「ウロボロス」で作られた刀。魔術結社の長が作り上げた武器の一つで、その特性上霊的存在である天使や死神すら斬る事ができる。
「ああ、お陰様で大分な。そっちはどう?」
「今日の所は収穫なしね、私の見立てだとあと8人ほど回収できてないはずなんだけど…他のメンバーが回収してくれることを祈りましょう。」
白崎恵。黒髪ロングで、鋭い目つきをしている。年齢は18歳ほどで、身長は約170cm前後。
俺とは対照的な白衣を纏っており、ナイフを主流として戦う。
能力は「
「教会」から彼女達能力者を助け出すために作戦を立案、実行した張本人。その陰で何人かの囮となった能力者達の犠牲もあったのだが。
「教会」は四方を城壁で囲まれており、かつ中央から3つの区画に分けられており、目的地の第一区画に侵入するには第三区画の四隅にある「IDEA」と呼ばれる装置を破壊しなければならない。
4つの「IDEA」を破壊することで、第二区画の魔力障壁が消え侵入が可能となる。
ちなみに今俺たちがいる仮拠点は「教会」の南側だ。
そして「教会」は彼女達能力者を拉致監禁し「何か」を行っている。恐らく洗脳だろうが、能力者の中でも興味深い能力で、ある程度の自由が許されていた白崎ですら詳しいことは知らないのだ。
「ただいま~」
「お帰りなさい、桐。はい、簡単なものだけど調理できたわ。」
「ああ、助かるよ。」
この男は三上桐、茶短髪で傷だらけの体と顔、そして傷の数だけ鍛えられたような筋肉。
年齢は本人曰く17、能力は
この仮拠点に住むもう一人の能力者である三上影時の弟であり、兄弟そろって能力者である。
「兄さんは?」
「西側の拠点へ作戦を伝えに言ったわ。あちらの方は
「「教会」の奴らみたいに遠隔通信霊装とかあればいんだがな…」
「ない物ねだりしたってしょうがないでしょ。リソースも時間も限られてるの、あと一週間以内に阻止するわよ。」
「もちろんだ。」
「教会」に対抗するためわざわざ魔術結社が動く理由はもう一つある。
「聖杯」の存在だ。あらゆる宗教を統一した「教会」は、当然その伝説の中に登場する聖杯すら手中に収めている。これを魔術結社が見逃すわけがなく、一時的だが能力者である俺たちと協力関係にある。
そして聖杯の顕現から約二週間、聖杯の魔力量は拡大の一途をたどり、未だ落ち着く様子はない。このままでは世界が聖杯の生み出す魔力の「孔」に飲み込まれていしまうという結論に至った魔術結社は、聖杯の膨張が最大値に達する残り一週間以内に、「教会」を倒し聖杯を破壊するということにしたのだ。
しかし協力関係とはいえどちらかと言うと停戦と言った方が近いのだが…
「!! …ええ、わかったわ。ありがとう、それじゃぁ北側にも連絡よろしく。」
「来たか?」
「えぇ、東側に向かうわ。」
「待ってましたァ!!ゼロ、さっそく支度だ~!!」
「はしゃぎすぎだろお前…」
荷物を整え、東側の拠点へ移動する。荷物と言っても携帯食や軽い消耗品くらいだが
ルートは「教会」の南東にある橋を渡る必要があり、当然天使が巡回している。
「さぁ、突っ切るわよ!!」
恵が突っ込み、俺たちも続く
天使達がこちらに気付き、向かってくる。
それらは純白の鎧を身に纏い、手には剣や弓、槌など様々な武具。
第十位
外見は人間の騎士ようだが霊的存在の為中身は存在せず、首を飛ばしても中身はからっぽだ。
しかし彼らにはウロボロスで作られた装備品がある。桐は拳で戦うが、武術のルーツは「気」という魔力のようなものを操るといったもので、霊体に対しても効果がある。
「そこっ!!」
まず一発恵が跳躍し斬りつける。人間の身体能力を越えたその一撃は天使達を切り裂く
そして注意が恵に向けられた瞬間を突いて
「展開!さぁ、薙ぎ払え!!」
「夜空」を展開し、よそ見をしている天使達を一気に切り裂く
ギリギリで躱した残りの二体も桐の攻撃で粉砕される。
毎度思うがなんで捕まったんだコイツ
そして出番のない死神はちょっとしょんぼりしていた。
「俺の出番無ェじゃねぇか…」
「お前はもうちょっと力の温存を覚えろ」
橋を征く、今は半分を過ぎたところか。
「!!
やはり武器は様々なのだが、如何せん大きさが違う。
天使が人間の大人程度のサイズなのに対し、権天使はその倍くらいの大きさなのだ。
「まずは雑魚を片付けるわ、タナトス!!」
「おっ出番だ出番だ!!喰らいなァ「
タナトスが先行し禍々しい鎌を振るう
その切っ先に少しでも当たった天使は、三秒も満たずにその毒のような黒い何かに体中を蝕まれ消失する
「ーーー!!!」
ヒュドラの毒に匹敵する呪いは、発声器官の無い天使ですら声にならない声を上げさせるほどだった。
当然残った天使達は距離をとって遠方から「裁きの光」と呼ばれる死神特攻の魔力の光を飛ばしてくる。
下級の死神なら、この裁きの光だけで十分消滅しかねないほどの特攻、実際に熾天使クラスが放つそれは「タロット」のメンバーにすら傷を与えた
しかし300年も封印されていたとはいえタナトスは死神界でも最強争いの死神、中でも耐久性は全死神一だった。当然裁きの光など痒い物だ。
「ホラホラどうしたァ!!もっと本気で撃って来い!!!」
権天使が動き、指先に光を収束させる
裁きの光の強化版、「浄化の光」。しかしこれは強力すぎる故に巻き込まれた天使達もダメージを負ってしまうためあまり使われることはない。
天使達が傷を負う。
そう、反射が有効なのだ
「恵ィ!!浄化が来るぞォ」
「分かってるわよドMさん!!」
権天使が指を降ろし、「浄化の光」が発射される
その瞬間恵がタナトスの前に出る
「[反射]ッ!!」
戦闘の末獲得した魔力の反射、これにより「浄化の光」程度の魔力の攻撃なら反射ができるようになった。
そして反射された攻撃は権天使に直撃し、仰け反る
「よし、桐、突っ込んで!!」
「了解!!」
桐が権天使に接近する
周囲の天使は止めようとするが、タナトスがそうはさせない
「オラオラ!!こっちを見やがれこの蟻共が!!」
そして足に「気」を込め、思いっきり跳躍する。
魔術結社の人間が見れば、基礎的な「強化」の魔術だと結論付けるかもしれないが、魔術回路を持たない桐が行っているので、実際は似て非なるものだ。
そして一撃。胸元に拳を叩きこむ
とある地方では「発勁」と呼ばれたかもしれないその一撃は、「気」を確実に権天使の内部に送り込み、内側から破壊する
そして鎧がはじけ飛び、霊体がむき出しになった所で
「とどめっ!!」
「夜空」で切り裂く
「これで最後だな、タナトス」
「あァ、もう蟻共の気配はしねェ」
「さ、急ぎましょう。早く合流して作戦の再確認をしなきゃ。」
橋を渡り切り、東側の拠点へ向かう。もう日が暮れてきている
「うわぁ~…でっかいなぁ…」
外見は屋敷のようだが、「教会」から3kmほど離れた場所で、意外と近い為カモフラージュように古ぼけた塗装をしてある。
ギィィー…という古そうな音とともに玄関を開き、中に入る。
中は思ったより広く、また外見では予想もつかないほどきれいに整えられていた。
床のフローリングはぴかぴかと輝き、リビングには絨毯なども設置されている。
暖炉や厨房もあり、普通にここで生活してもいいかもしれない。
世界が終わるまであと6日でなければの話だが。
「こんばんは。さっそくだけど、兄さん…リーダーに到着したことを伝えてもらえる?」
―――――
リビングにメンバー全員が集合する。
「それで、作戦だけど、まずは西側と東側で別れて行動するわ。西側は陽動で先に仕掛け、天使達をおびき出した隙に私達侵入部隊が突撃する。」
「メンバーは?向こうもそれなりの数だから陽動だと気づかれない必要があるぞ。」
「その点は問題ないわ。タナトス…新入りのゼロの隣にいる「死神」の鎧は、天使の魔力監視をやり過ごせるの。だから突入班は私達四人に、護兄さん、それと魔術結社から逃亡中の強力な助けっとが予定通りなら明後日現地で合流できるはずよ。」
「わかった…やれやれ、立派になったものだな。よしよし」
「ちょっ、子ども扱いしないでよ……もう…」
そして、ゼロとタナトスはやることは変わらないので夕食を食べながら眺めていた。
「なんだ、親代わりの女をとられて不満か? ん?」
「うるさい。…少し黙ってろ」
「ヒヒッ、怖い怖い。まぁ気にするな、寝取られだの言うが、片思いにはよくあることだ。俺もいろんな人間を見てきたからな。特にそういうのは物知りでな♪」
「…<影縫い>」
魔力で作られた影が、タナトスを捕まえる。
「あーっ!!それっ、そこっダメッ!!!ごめんって!!俺が悪かった!!ギャー!!」
目隠させながら全身をくすぐる技を見た人達は、ゼロが意外とテクニシャンだったという結論に至ったという。
―――――世界終焉まで、残り126時間
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