第13話 決戦 後編

「ここからは、私もご一緒します。メガミとして、貴方を守る!」


―――――――――

メガミがカルネスの前に立つ。

「払いなさい!<ガデス・ブラスト>!」

右手から放たれる魔力の奔流は、「孔」を完全に満たし消滅させる。



「フン、今更メガミが来たところで何も変わらん。貴様らの終焉は必然だ。」

「そんな事…やってみなければわからない!」

「夜空」を杖の代わりにし右手だけでなんとか立ち上がる明登

「そんな体で何ができる。朽ちるがいい!<アカシック・ノヴァ>!」

魔王の掲げた右手に膨大な熱が集まる。しかしその形に乱れは無く、完璧に制御できている

「ワシですら制御できないあの魔法を詠唱破棄で…!」


「灼かれろ!」

振り落とされる最大級の魔法。しかし管理者であるメガミも既に同じ域に達している


「させません!<アブソリュート・ゼロ>!」

対属性である水属性の最大級の魔法。0ケルビンという物理的にあり得ない絶対零度という奇跡は大気をも凍結させ、全てを止める。


全てを溶かす火魔法と全てを凍らせる水魔法

しかし対属性とはいえただ反発するのではなく、それぞれの属性に優劣が存在する。

火属性は風属性に強い   炎は大気を焦がし

風属性は土属性に強い   嵐は大地をめくる

土属性は水属性に強い   大地は水を糧とし

水属性は火属性に強い   氷河は星の瞬きすら止める


魔力量はほぼ互角。ならば属性の優劣が勝敗を決する

「小癪な!」

「魔法は原則後出しなのですよ!」

「チッ…<アビス>!」

止めきれない氷の波は「孔」に吸収させる。

あの<アビス>ですら溢れた<アブソリュート・ゼロ>の欠片で満たされるのだ。

いかに彼らの次元が違うか容易に想像できる。

勇者の目線では切り札の一つである<アビス>が、魔王とメガミにとっては緊急用程度にしかならないのだ。



そして、最大級の魔法が連発される。

規格外すぎる魔力に明登達はついていけない。


「<カオス・クリエイト>!」

「<ジャッジメント・レイ>!」

混沌が生み出され、裁きの光がそれらを穿つ。

魔王が仕掛け、メガミが有利属性で反撃する、世界を支配する二つの力は互いに譲ることはない。

荒れ狂う暴風には命の火を、絶対零度には大地の怒りを。


だが、確かに一時的な有利はとれるが決定打にはならない。

さらに互角と思われた勝負にも、メガミはハンデを抱えていた。

そう、動けない明登達だ。

常に明登達に気を配らなければならないメガミは、魔王の攻撃に防御を取り続けるしかなかいのである。


そしてそこを利用された。

「足手まといごと葬ってくれる!<グラビティ・プレス>!」

「! させない!<ノワール・ウィンド>!」

重力の重しを竜巻で吹き飛ばす。

しかしそちらに気をとられているうちに、魔王の接近を許してしまう

「終わりだ!<カオス・インジェクション>!」

カルネスの時と同じ。瞬間移動にも等しい歩行術で一瞬にしてメガミの懐に入り込む。

「しまっ…!」


至近距離で放たれるウロボロスすら砕く必殺の一撃。

たとえメガミでも、その一撃は耐えられない




彼は「勇者」だ。たとえサイコパスで魔物に対してはどこまでも非情になろうと、片腕がつぶれ全身がズタズタになろうと、彼は人間を、世界を守る「勇者」だ。その覚悟がある。「賢者」とともに培ってきた覚悟が。

「<エクセプト・スラッシュ>ゥゥゥ!!!」


あらぬ方向から飛んでくる刃に気が付くのに遅れ、そちらに向けて拳を放つ

パキンという音とともに「夜空」にヒビが入る

「今だっ!メガミ!」

明登の覚悟で、メガミも決意を固める。

「分かりました!!とっておきです!!」


<ノワール・ウィンド>を中断し即座に詠唱を始める。

「我はメガミ、世界を統べ、創成と終末の理を成す者。」


「死にぞこないがぁーッ!!」

「させるかあああああああ!!!!」

左腕は使えず、ちぎれないのが奇跡な状況だ。壁に激突し体中のあちこちの骨が折れている。

しかし彼は立ち上がる、意思の力で、皆を守るという「想い」の力が彼を動かしている。

そして「勇者」のスキルツリーの最後のスキルが解放される。

魔王の本気の拳を受け、「夜空」のヒビは全体に達する。


「世界に命じる。全ての力を持って、我が敵に終焉を」


「どけえええええええ!!!<アカシック・ノヴァ>ァァァァ!!」

もう「夜空」を展開する魔力も無く、「夜空」ももう持たない、しかし彼はまだ諦めない。

「ワシを忘れてはおらんかのぅ!<アカシック・ノヴァ>!!!」


――――――――

「エリクサーなら残っとるから最悪それでええじゃろ」

「この前言ってた「体力から魔力を精製する」ってやつ?あれ難しいんだよ、ぶっつけ本番はキツイぜ。」

「やれやれじゃのう」

――――――――

「貴様、いつの間に魔力を!?ええい、老いぼれがあああああ!!」

「なっとらんのぅ、だから未だに小童なんじゃ!! ぬおああああああああ!!!」

魔王の魔力に付け焼刃が勝てる訳も無く、魔力の反動と消しきれない炎に焼かれる。

「カルネスさん!!!」

「ワシの事は気にするな!奴を倒すことだけに集中せい!!」


「!!! 分かりました。皆さんの想い、無駄にはしません…!!

創成の力を持って、終末をここに!<worlds end世界の始まり、 super nova原初の炎>!!」

「メェェェェェェェェェェガァァァァァァァァァァァァミィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!」




詠唱完了。奇跡は起こる

魔王城の中に、これまでの魔法とは比べ物にならない魔力が溢れる。

その魔力の奔流は明登達のいる場所以外を全て灼滅する、もはやビッグバンに等しい。

魔王とて世界全ての力を使った完全詠唱の魔法、いや、「宇宙創成」を再現した"魔術"は魔王すら焼き尽くした。


しかし、曲がりなりにも相手は魔王。北大陸、即ち世界の半分を吸収した力は星の力を耐えきってしまう。

そして全ての魔力を使い果たしたメガミは、その場に倒れ伏す。魔力の反動で意識が飛んだのだ

「明登…さん…後は頼みました…よ……」

「ああ、任せておけ。」

先程の<アカシック・ノヴァ>でカルネスももう動けない。つまり、今魔王にとどめを刺せるのは明登だけだ。


ローブが灰となり、痩せこけた一人の男の姿があらわになる。それは人であり、既に人ではなかった。

「グ…こんなもので…止まらない。我の憎悪は、こんなもので…  !!」

目の前に立つ明登、しかしその右手にはただ拳があるのみ。

「おい魔王、「憎悪」っつーけどよぉ、いつまで抱えてんだ。」

「そんなものだと…!?

貴様に我の憎しみの何が分かる! 全てに裏切られ、殺された! 世界を救おうとしたのに、誰も耳を傾けなかった! 救おうとした者たちに殺されたのだ!!」


しかし本当の人間としての「想い」を抱いた明登は、魔王の「憎しみ」など敵ではない。


「それがどうした」


「なっ……」

「確かに「憎しみ」も感情の一つだ。時にはそのお陰で命が助かったこともあるかもしれない。だがな、「憎しみ」ってのは結局何も生まねぇんだ。「憎しみ」だけで生きているなんて、そんなもの死んでいるのと変わらない。

だから俺たちは、俺たち人間は、常に前を向いて生きている。たまたまその役割を担ったのが俺だっただけで、前を向いている俺たちが進むのを止めたお前に負ける訳無ぇんだよ!!!」


一瞬の静寂が訪れる。双方ともにもう虫の息だ、次の一撃で全てが終わる。

だが、既に勝負はついているのだ。この世界に降り立った時点で何を望んだか。

「……何を言おうと無駄な事だ。この身は既に朽ちている、我を否定した全ての人間を滅ぼすまで我の憎悪は収まらん!!」


そしてその瞬間は訪れる

「我らが憎悪に喝采をおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「いい加減前を向きやがれこの馬鹿野郎おおおおおおおお!!!」

拳と拳が交差する。

お互いの顔に拳が命中する。


――――――――

再びの静寂、そこにはただ一人立ち続ける者がいた。

「例えどんなに憎しみを抱いたとしても、誰もがいつかは前を向いて、過去に別れを告げなきゃいけねーんだ。


あばよ、魔王人間。」


勇者の最後のスキル。

それは強い想いを抱いた敵と対峙する中で、誰かを守りたいという本物の「想い」を抱いた時解放される。

【終幕:勇者の想い】。それは前を向く者への未来、後ろを振り返り続けた者への救済。

「想い」は、収束した可能性を覆した。


決着はついた。






静寂の中、一人の男の声が響く。彼もまた、後ろを振り返り続けた者の一人だった。

「やはり君の証明は正しかったようだ。"■■■"。この世界ならできる、この世界で今度こそ、僕は君を……!」

【勇者の想い】が彼に与えたのは救済か、それとも…

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