第6話 騎士(タンク)&ポンコツ
「コード:LFA8-V 黙示録の守護者よ、その権限を解放する!」
定められたコードを紡ぎ、権限を肉体に譲渡する
「コード実行承認。戦闘行動を開始します。制限:ランクC」
先程のラフェルの声とは異なり、感情の無い機械の様な声が流れる
「最適解を計算…完了。詠唱開始」
オークが颯馬にとどめの一撃を加えようとした瞬間
オークの右腕は吹き飛んでいた
「プガァッ!?」
鈍い感覚だが、斬り飛ばされた痛みは確かにオークを悶えさせた それと同時にオークのヘイトがラフェルに向かう
「「
ラフェルの体が一瞬崩れそうになるが、機械的に起き上がる。
「残り魔力残量わずか。ノタリコンでの詠唱は不可能、耐久値から推測して通常魔術での撃破は不可能です」
魔力の消耗により意識は朦朧とするが、勝手に動く体に体力を更に持ってかれる。
「はぁ…はぁ…ならぁ…あれがあったはずです…ノーコストで使えるやつ…」
「了解ですマスター」
両手を右腰の後ろに回し、あたかも構えているような体制をとる
オークの左腕が突っ込んでくる しかし彼女は避けようとはしない。
死を覚悟した颯馬だが、その直後にスパッと切れる音と響くオークの悲痛な叫びにより重い瞼を明ける
そこには右腕が切断されたオークがふらついたラフェルに突撃するところだった。
「お前の力じゃ無理だ!逃げろ! カハッ…」
無理に叫んだため血が肺に入り、咳き込む
そしてオークが激突する直前ラフェルが両手を大きく振り下ろす
計算された動きはオークの本能にあることを訴えさせる それは剣を振り下ろす姿だった。
その瞬間、オークの体が想定された切り口に従って左肩から右腰まで内側から真っ二つに切り裂かれる
まるで本当に剣で斬られたかのように。
そしてオークは息絶えた。
「グ…ん…しょっと…」
血を吐きながらなんとか立ち上がる
「大丈夫…ですか…颯…馬…」
ラフェルがこちらに近づき、そのままふらりと倒れ込む。先日同様、魔力切れだ。
「おっとっと…担いでいけっつーのか…」
瞬間、ラフェルの目がかっと開く
「非安全区域内での魔力切れを確認。起動します。」
再び機械的な声に変わり、立ち上がる。
「初めまして、転生者様。私はマスターのアバター内部に存在する疑似肉体人格、名称:
「???…何を言っているんだ?」
「推定…確認。言語レベルをランクBに格下げ。…説明の前に、村に戻りましょうか。つかまってください」
「あ、ああ…」
2時間後。
ラフェルに肩を貸してもらいなんとか村に辿り着く。
「安全区域への到着を確認。マスター、到着しました。」
そのまま一瞬目を閉じ、すぐさま開く。
「ふぅ…疲れたぁ… ってえぇ!?離れて下さい!」
「え゛っ!?酷くね!?俺怪我人だよ!?あっ…」
突き飛ばされた衝撃で張り詰めていた糸が切れ、気を失う。
最初の一撃で思いっきり壁に激突し、左腕を完全に砕かれ、それでも気力だけで意識を保っていたが
村に到着した安堵感で、とっくに限界が来ていた。
次に目が覚めると、そこは宿屋だった。ギルドへの報告と報酬受け取り等は全てラフェルがやってくれたそうだ。
扉が勢いよく開かれ、薬ビンを持ったラフェルが入ってきた。
「はぁ…はぁ…ありました…エリクサー…」
目を覚ましたことも気づかず、口を開かされ、瓶の中身が注ぎ込まれる。
突然の出来事についていけず、思わずむせる
「ゴホッゲホッ…もうちょっと優しく!」
「ああ、起きたのですか …ちぇ」
さっき言ってたエリクサーだったか、RPGとかでよくある高級な回復アイテムというイメージだが、本当に実在したとは。 痛みが引いてきたか、即効性があるのは嬉しい。
「手当金も含めて報酬のほとんどをつかっちゃいましたけど、左腕も半分くらいまで再生してるはずです
。貴重品なんですから感謝してくださいね!」
「ははは…また貧乏生活だ…」
夜。眠る前に質問する。
「そういえば、「準ずるペン」…だっけ?なんか機械っぽかったけど、あれって何だ?」
「あれは私の肉体に宿るもう一つの人格です、というか思考能力です、通称ペンちゃん! 非安全区域で私の精神が疲弊した場合、即座に入れ替わります。例えば、私の心の中に介入してくる相手や、マインドコントロールって言えば分かりますかね。その対策の為のもう一つの人格です。利用されない為に感情がないので、機械的な声になるんです。あと、私の知識がなくても戦闘ができるようあなたたちの世界の知識を詰め込んであって、半ば独学で理解を進めているの部分もあるので、私の知らない魔術とかも使えます。オークの腕を斬り飛ばしたやつとか…あれどうやって出したんだろ…カヴの剣…詠唱からしてクリフォトの…?」
「よくわからんが、つまり二重人格ってことか。大変だな」
「まぁ端的に言えばそうですね、否定はしません。ただ、加減を知らないので戦闘では今はあまり使いたくないんですよね…。 ん、あ、そうだ。この子を使えば」
何かを思いつく。
「コード認証…マスター、何の用ですか」
「ペンちゃんペンちゃん、私の認証コード使って「世界の基盤」にアクセスできない?」
「計算…不可能だと結論付けました。」
「そこをなんとか!お願い!」
「分かりました。反動で私が消えたらマスターの責任ですからね」
あかん、何言ってるのかわからん。「世界の基盤」?管理とやらと何か関係があるのか?
「Access to world:124. Passchord:LFE/910-21. Connect From hod to Malchut User:Lafel...Succes.マスター、ハッキングに成功しました、一部権限の再取得に成功しました。」
「よくやったぞペンちゃん!あとで褒美をあげよう!」
「…で、どういうことだ? 日本語で分かりやすく。」
「この世界の管理システムは対介入者用にわざと抜け穴を作ってあるんです。(ま、主に私のせいですけど(ボソッ))
ゲームで言うデバッグモードみたいなやつです、そこで管理者としての権限を一部奪取したんですよ、当然失敗すれば世界そのものに消されるので今はかなり危険な賭けでしたけどね。ま、管理者としての賜物ですね。ところでペンちゃん、どれくらいできた?」
「クラススキル【常時:大地の恵み】、全ステータスを微上昇。以上です」
「少ないよぉ~」
「無理おっしゃらないでくださいマスター。認証キーのデータコードがあれば完全に権限の再取得が可能ですが手元に無い以上逆探知寸前でもこの程度しかクラッキングできませんでした。認証キーを忘れたマスターの落ち度です。」
「酷ッ!ていうか何で知ってるの!?」
「精神人格のマスターと違って肉体人格の私は脳の記録からマスターの行動を把握できます。前にも伝えました。」
「ぴえん」
「まぁよかったじゃねぇか、よくわからんが聞いた通りだとクラススキルが戻ったんだろ?」
「そりゃそうですけどぉ…」
相変わらず萎れたままだ。贅沢な奴め
「しゃきっとしろ、右手が使えるから殴るぞ」
「ひぇ~分かりました~ご勘弁を~!」
一晩宿屋で過ごし、左腕をなけなしの所持金で買った包帯で固定してギルドへ向かう。
受付嬢さんにカードを渡し、レベルを上げる。
ゴブリンを計6体で30、クエストクリアで50、オークのアシストボーナスで20でぴったし100だ。
協力して倒した場合、与えた傷の量に応じて20%、50%、80%でアシストボーナスが入る。
ラフェルの経験値は今回でゴブリン2体で10、オーク1体で100、クエストクリアで50で計185/10000
道のりは長い。
しかしクエストクリアでも経験値が入るってどういうことだろう。まさにゲームだな
スキルポイントが手に入ったので、【任意:投擲】に1振り分ける。
一定以下の重量、体積の物体を投げる際にダメージと命中精度にボーナスが入る任意スキルだ。
「では、どのクエストにしますか?」
「えーっと、その前にパーティを募集したいんですけど…」
「募集掲示板ですか?それなら…」
「あ、いえ。傭兵みたいな感じで」
「分かりました。それならここで飲んでいる他の冒険者さんに声をかけてみてはいかがですか?他にも二人組の方も何組かいらっしゃいますし。」
「よし!いっちょやりますか!」
「ダメ」「12レベル以上になって出直して来い」「お前腕治ってないだろ?」「インチキ野郎とは組まねぇよ」
「うわぁぁぁぁぁん…」
「気を取り直して下さい!まだ終わったわけではありません、日を改めて挑戦しましょう!」
「ぐすっ…うん…」
「(ああ、これ幼児化しちゃってますね…思ったより豆腐メンタルでしたか。よし、一発殴りますか)」
腕を振りかぶった時、声がかかる。
「あのー…メンバー募集してるんですよね?」
一人の女性が声をかける。
一見すると小柄だが、着ている鎧はそこそこよさげに見える。鉱石にはあまり詳しくないが…鉄製か?
青髪で短髪、童顔だからだろうか、俺の身長が高いからだろうか(176cm)、小学生くらいに見える。
職業は、装備品もとい鎧と盾からして騎士だろう。剣すら持っていないとは、どうやって生きてきたのか
「私をパーティに入れてくれません…か?」
「いいのか?俺らレベル1と2の通称インチキパーティだぞ?」
「いいんです。私も断られ続けてましたから…」
「何でだ?そんな高そうな鎧着てて。ところで…レベルは?」
「1です」
途端に、二人の顔が青ざめる。高そうな鎧を着ているのに1って…
もう察しちゃったよ
「あっ…(察し) クエスト…受注したことはおありで?」
「ま、前のパーティの時に…逃げ出してきちゃいましたけど…」
「まさか、戦闘経験は…無いとか言わないよね?」
「(ガラスのハートが砕ける音)」
「おいおい…流石に戦闘は一回くらい経験あるだろ…レベルの割に装備よさげだし、多分貴族の令嬢だろ?」
「お小遣い持ち逃げした家出少女なんですぅ…うぇぇぇん…やっぱり家出なんてするんじゃなかったぁ…」
「はぁ…とりあえず来るもの拒まずがうちの現状でな、歓迎するよ。 パーティできる金も無いけどな。」
「いいんですか!?ありがとうございます!ありがとうございます!」
「た・だ・し!コイツ含め勝手に逃げるのは許さんからな!」
「ひぇー!」
「ちょっ、何で私も含まれるのですか!?」
-Few minute later-
「ところで、お前名前なんて言うんだ?」
「私ですか?私はレガスと言います。」
「(令嬢っぽくない名前だな…なんというか…なんでだろ、あれか?レ○ギガスを連想させるからか?(※ポ○モン大好き))」
ちなみにレガスの持ちだしたお小遣いはおそらく王都からジェニム村まで来たであろう旅費と、装備品に全て消えたそうだ。
あと、王都にも当然ギルドがあるが、どれも難易度が高く、王都育ちの冒険者は基本的に貴族の息子や娘ばかりで、全員各家での戦闘訓練を受けているらしく、最初からレベルが下位職で15とか行っているそうな。
レベルの上げ方もとい経験値の入手方法は様々で、基本的に「戦闘」、「ギルドの定めるクエストクリア」、「スキル・職業に応じた訓練」が挙げられる。
戦闘は魔物との戦闘、他にも戦闘訓練などの模擬戦でも魔物を倒したとき程ではないが、経験値が入る。
王都育ちのお坊ちゃんやお嬢様が最初からレベルが高いのはこの戦闘訓練で経験値を得ているからである。
つまり、純粋に場数が違うということだ。
クエストクリアでは、ある種のボーナスの様な物が発生する。ギルドクエストは今回のようにあまり手に入らないが、オーダークエストは多めにこのクリアボーナスが発生するらしい。原因は不明だが、手に入るならよしとしよう。ゲームっぽく何となく納得しにくい
訓練では、職業毎の恩恵を生かした訓練により、経験値が入る。例えば、颯馬の盗賊では素早さが売りなので、短距離走の要領で急加速を繰り返したり、他にもスキルなどを繰り返し使っても経験値が入る。
スキルにもレベルがあるが、これはスキルポイントを振り分けないと上げられない仕様上、本体の方に入るのだろうか。
当然ながら「天職」が無い限り冒険者として転職しないと訓練の経験値は手に入らない。
ただし、ステータスは僅かながら上昇する。
他にもジェニム村のように、王都近郊の街や村には訓練所が存在し、代金を払えば訓練が受けられる。
そして経験値は冒険者カードを作る前から入るが、レベルアップの恩恵はカードを作って処理しなければ受けられない。これは初心者狩り等の盗賊団が強くならないようにする為である。
また、冒険者カードには倒した魔物が自動で記録され、そこから経験値が発生してる。そのため、全員参加可能、いわゆるレイドクエストでは、この倒した数によって報酬・経験値ボーナスが発生することもある。
だが結局のところ、この世界の住人達は誰一人として冒険者カードのメカニズムを解明できていない。新たな職業・スキル・魔法の登録や削除は王都の冒険者統括部が行っているらしいが、職業とスキルの登録は天職を持つ本人しか行えず、新しい魔法の作成も、魔力の流れ・作りと詠唱を噛み合わせなければならず、適当に作ることは出来ない。ラフェル曰く、こちらの世界のプログラミングの要領らしい。
以上が経験値の入り方らしい。まぁ要するにクエストをこなし続ければ勝手に入ってくると考えれば気楽かもしれない。
レガスの情報を含めて、当面はジェニム村でレベル上げと資金稼ぎをすることにした。
王都のクエストは最低でも20レベルは必須、30レベルでやっと暮らしていけるらしい。魔王城に近づく分魔物も強力なものが多くなるそうだ。
早く魔王城に到達して、さっさと特典の剣とやらを入手せねば。道のりは、まだまだ長い。
とりあえず…こいつ連れて軽めの定期探索で宿代を稼ぐか
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すぐ逃げ出すポンコツを何とか捕まえ、定期探索を進める颯馬達。
ラフェルの力が一部取り戻され、安心していたのも束の間 事件は起こる。
再び立ちはだかる新たな強敵! 敵の放つ魔法に苦戦するが、颯馬の機転により騎士の本領が発揮される!
次回!異世界は管理者とともに 第七話:私はまだ本気を出せません
早く王都へ行きたいんじゃぁー!!
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