第5話 駄メガミの成り上がり 覚醒編
そこには、予想した通りのデカい奴がいた。
背丈はゴブリンの三倍くらい、でっぷりと太った腹に、不釣り合いなほど隆々と膨れ上がった腕の筋肉
いわゆるオークと呼ばれる亜人種の魔物だ。
何といっても恐るべきはその腕力で、強固な個体は鉄の扉をも素手で破壊するほどの力を持ち、人間ごときがまともに喰らうと気絶で済めばマシなレベルだ。
外された松明は、中央でたき火として使われ、それを囲むようにゴブリン達が食事をしていた。野蛮なイメージがあるが、いくら魔物とはいえ肉を生で食べることはそうそうない。が、狂気にあてられた変異種等は他の生物を生で食べるものもいるらしい。
たき火の火が思ったより明るいのか、それとも食事に夢中で気づかないのか。ゴブリン達の目はこちらに気付いてない。ただでさえ鈍いオークはなおさらだ。
「どうします?」
「幸い向こうはこちらに気付いてないが、あれが見張りだったとするとそろそろ次が来るはずだ。まずそいつらを仕留める。」
数は七匹、内一匹がオーク。食事に夢中でオーク含めた五匹は気付いていないが、囲みにいない二匹はそろそろ気づくだろう。見回すと、荷車からでも奪ったのか、酒瓶が散乱し、何本かはまだ空いていないと思われる。視認できる情報はこれくらいだろう。ちなみに、異常に視力が良いのはクラススキル【常時:集中力向上】のおかげである。当然常時なので攻撃を喰らった際も発動し、普段より倍痛みが増すとか…
洞窟の壁に隠れ、しばらく待つ。見張りが帰って来ず、おかしいと感じた次の見張り番は冒険者達が来ているかもしれないという考えに至ることなく探しに細い道に入るが、その瞬間隠れていた颯馬達が襲いかかる。
ラフェルが松明の代わりにしていた棍棒を思いっきり叩きつけ、派手な音と共に色々飛び散る。
そしてラフェルに気をとられているゴブリンの首を背後から颯馬が掻っ切る。
棍棒の火を消す前に少し炙っておいたため、ナイフはゴブリンの皮膚を溶かし容易に首を切断する。
棍棒の音で、ゴブリン達が食事を止め、向かってくる。オークも異変を感じのっそりと立ち上がるのが確認できる。
一斉に突撃してくるゴブリンに向けて、棍棒を投げる。棍棒はくるくると回転しながら先頭のゴブリンの頭部に直撃する。フリスビーが得意で良かった。天気が良い日はよく誘ってくれた兄に心の中で感謝する。レベルが上がってスキルを習得できるようになったらとりあえず【任意:投擲】はとっておきたい
気絶したゴブリンを押しのけ迫る三匹。
見張りの二匹目から回収した棍棒で飛びかかってくる先頭のゴブリンをタイミングを合わせて叩き伏せる
鼻の骨を砕く確かな手ごたえ。 残りの二匹は俺とラフェルにそれぞれ向かってくる
先頭を叩いた隙を狙って棍棒を振り降ろしてくる。ナイフの腹で防御する。折れる可能性も考慮し、力を逸らすようにそのまま流す。そしてがら空きになった頭に左手の棍棒を叩きつける。
頭蓋骨が割れたのを確認し、棍棒で気絶した最初の一匹の息の根を止める。
ラフェルの方を見ると、ちょっと感じが変わった気がするが、あちらもなんとかなったようだ。
しかし、ゴブリンに気をとられ、もう一匹の強大な存在が迫ってくることに気付かなかった。
「ひいいいいいいいいいいいい!来るな!来るなああああ!」
一方そのころラフェルは、棍棒を両手で握りしめ、でたらめに振り回していた
狙いもろくに定まらず、空振りの連続である。本人は至ってマジメだが、実際命の危機に直面したことはほとんどない為怖がるのも無理はないが、やはり町娘。
もはやメガミの威厳はどこにもない。
こつん と足がでっぱりに当たりバランスを崩す。そのまま棍棒がすっぽ抜けてしまう、
「 あ 」
またか。
流石幸運値ワースト。ろくなことがない
なんとか態勢を立て直したが、既にゴブリンは飛びかかってきていた
もうだめか、と思った瞬間。ラフェルの体はスイッチが入ったかのように切り替わる
「
一瞬だけ声から感情が消え去り、機械音声のように言葉を発した。
とっさに素手で発動できる魔術をノタリコンで詠唱する。その感僅か0.5秒
そして棍棒を左に躱し後頭部に「右手で」触れる。
すると触れた場所はたちまち光に包まれ、次第にそれはゴブリンの全身を包み光の粒子となって消失した。直後、ラフェルの体から糸が切れたように力が抜ける
「ふぅ…なんとかなりましたぁ~…。あっちはどうにかなったかな…」
颯馬のいた方を振り返ると、そこにはボロボロになり果てた颯馬の姿があった
ゴブリンに気をとられ、オークの突撃を躱せなかった。
圧倒的な質量差に吹き飛ばされ、壁に激突する。
「う…クソ…痛ぇ…」
背中の筋がいくつか切れているようで、起き上がるために力を入れようとすると背筋が痛む。
血が上ってきて、喉が詰まる。
構わずオークが突っ込んでくる。何とか体を転がし、直撃だけは免れるが余波でさらに吹っ飛ぶ。
そして今に至る。
「颯馬!大丈夫ですか!?」
「まだ死んじゃいないさ、死にそうだけどな…クソッ、筋肉野郎が…」
壁に直撃し目を回していたオークがこちらに向き直る。
息を切らしながらなんとか立ち上がる
「来るぞ…支援頼む!」
「了解です!無茶はしないでくださいよ!」
右手の人差し指を嚙み、流れ出る血を颯馬の背中に十字に塗りたくる
「「神の子」の血は原罪を許しサタンの囁き則ち悪性を遠ざける!」
素早く詠唱を終えると、颯馬の体を光が優しく包み、傷が少しずつ引いてゆく。そして光は颯馬のナイフへと収束する
「気休めですがオーク程度の皮膚なら浄化できるはずです!」
「よっしゃ!」
軋む脚に力を込め駆け出す、痛みはラフェルの魔術で多少はマシになっている。
浄化って何だよと思いながら、死体の無いゴブリンから察した。
オークが右腕を振りかぶる。タイミングを合わせ左に避ける
振った腕の間接を狙い切りつける。光に包まれたナイフはオークの腕に切っ先が触れただけで、容易に刃を沈み込ませる。
しかし届かない。隆々に膨れ上がるオークの腕は、生半可な攻撃では効果が薄い。今のも精々表面を切ったに過ぎないだろう。
左腕のアッパーが来る。とっさに屈み回避するが、髪の毛が何本か持っていかれる。すぐさま右手で半月を描き、二の腕を切りつけるが、やはり薄い。
「チィッ!」
なかなか攻勢に持ってこれず、焦りが生じ始める
焦るな、少しずつ削らなければ
「どうしよう…何か打つ手は…」
焦りは伝染し、ラフェルも膠着する状況に焦りを感じていた。
しかし下手に動けば颯馬に構わずこちらに向かってくるかもしれない。颯馬はクラススキルにより敵の動きが若干遅く見えるため、なんとか避けられている状況だが、ラフェルでは反応が間に合わない。それに、魔力も魔術を連続行使、特に三節以上をノタリコンで詠唱したためかなり消耗している。せいぜいあと一、二発といったところだろう。
「(この子に任せると、確かにあいつは倒せるかもしれない。でも私たちの命も危険に晒してしまう…そんなことできない…)」
「ぐゎあああっ!」
颯馬が吹っ飛び、骨が砕ける音が響く。
魔物とて生物だ。颯馬の動きを少しずつ学習し、動きを予測する。そして読みを誤った颯馬は咄嗟に防いだものの、左腕を完全にやられてしまう。
そして強化された感覚は痛みすらお構いなしに倍増させる。
動けない颯馬。近付くオーク。恐らくもうすぐ颯馬は肉塊と成り果てるだろう。
そんなことは絶対に許さない
「コード:LFA8-V 黙示録の守護者よ、その権限を解放する!」
定められたコードを発し、権限を肉体に譲渡する
そして、再びスイッチが切り替わる。しかし、今度は一瞬ではなかった
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ラフェルの放った魔術により、なんとかオークを撃破する颯馬たち。より強くなるために新たな仲間を募るが、誰も話を聞いてくれない!諦めかけたその時、一人の人物が名乗りを上げる!
次回!異世界は管理者とともに 第六話:ナイト&ポンコツ
君は、小宇宙を感じたことがあるのか!?
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