第4話 駄メガミの成り上がり
<職業:メガミ>
「メガミ」とは、この世界における管理者の呼び方である。
不幸を撥ね退け、世界から恵みを受け取る幸福の象徴である
この職業に就いた者は、常時レベルに応じた体力・魔力が回復し、確率系スキルは発動率及び効果量がアップする。また、ほぼ確実に相手の急所に攻撃が入る、確定クリティカルもその一つである。
また習得できる魔法は最大級のものばかりであり、消費魔力も膨大だが上記の通り常に魔力が回復するので
実際は詠唱時間や効果範囲を加味すると、消費魔力は半分程度まで軽減される。
しかし、獲得条件は未だに謎が多く、今の所判明しているのは「女性である」「隠しステータスである「神聖」が生まれつきクラスA以上である」ということだけである。実際にこれまでにこの職業を獲得できた者は資料上三名のみである。また、前任者を含めた管理者達は定期的にこの世界にアバターとして来ているので、
そこで勇者の手助け(というかお膳立て)をして、最終的にメガミとして信仰を得る。完全にデバッグジョブである。
当然ラフェルは三名の内の一人なのだが…
管理者として認識されなかったラフェル(のアバター)は、ラフェルを不正な介入者として判断し、これでもかというほど弱体化させた。
まずステータス。権限で最大値まで上げていた魔力、精神力、体力は平均以下となり中でも幸運は最低値まで下がってしまった。幸いなことに、メガミは基本確率系スキルを持ってないため、本人の幸運値はスキルや魔法にそこまで影響しないが、無いといろいろ不便である。
そしてクラススキル。一度習得してしまえば他の職業でも発動できる通常のスキル(盗賊が使っていた<ステップブースト>はその一つである)、それとは別に、その職業限定で発動できるスキルをクラススキルという。これは常時発動、任意発動に関係なく職業を変えると発動できなくなる。
そしてメガミはクラススキルあってこその職業である。実際ステータスはクラススキル抜きにすると、他の最上位ジョブである
そんな唯一の長所も敢無く撃沈。
つまり、今のラフェルは新米冒険者にも負けるクソ雑魚となってしまったのだ!
そして当のラフェルはというと…
「嫌です!嫌です!痛いのやだああああああああああああ!!!」
「うるさい行くぞ!もう金が無いんだ!」
同情してくれた優しい受付嬢さんからもらった資金は全てラフェルの胃袋の中だ。
ついでに俺の分も食われた。
「やだやだー!私暗いところ苦手なんですよォーッ!」
「問答無用!行かなきゃ今日は晩飯抜きだァーッ!」
というわけで依頼掲示板から定期探索で一番簡単な<☆1:洞窟定期探索>を受けることにした。
冒険者ギルドの依頼掲示板には、住民たちが資金を集めてギルドに依頼を出すオーダークエスト、
ギルドが直接依頼を出すギルドクエストの二種類がある。
オーダークエストは大抵が魔物退治であり、畑を荒らすゴブリンから、荷車を襲うオークやリザードマンからの護衛等がある。当然一番危険度が低い☆1でも下手をすると死ぬ危険がある
ギルドクエストはオーダークエストと違い、様々な種類がある。
軽めの薬草採取から、護衛依頼、賞金首である魔王の配下の討伐もこれに含まれる。
中でもおすすめなのが、この定期探索である。
一度探索し、魔物を全滅させた洞窟や森でも、時間が経つと住処を追われた魔物達がそこに住み着き、繁殖する。その為定期探索はその難易度に関わらず報酬が高く貼りだされている。
ただし討伐依頼よりは安いので、定期探索でクエストに慣れて、オーダークエストを受けるという流れが鉄板である。
「…よし、ついたな。」
目的の洞窟にたどり着いた。
いかにもファンタジー世界でありがちな、大理石でできた洞窟である。
空気はひんやりと冷たく、所々水の滴る音が聞こえる。中に泉でもあるのだろうか
ともかく、実際に行ってみなければわからない
「さて、行くぞ」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」
「……」
一応松明は等間隔で付けられており、真っ暗というわけではない。それでも暗く、目が慣れるのに時間がかかりそうだ。
しかしコイツの怖がり方と言ったら…まるでホラー映画でも見ているかのようだ。そんなに怖いか?
震える手を引っ張り中へ進む。受付嬢さん曰く、中はそこそこ長いが一本道で、迷うことはまずないそうだ。
少し進むと予想通りゴブリンに出くわした。見張り番だろうか。数は二匹 盗賊の恩恵を試すのにちょうどいい
向こうは予想外だったのか、こちらに気付くと少し狼狽える様子を見せる
先手必勝!この距離なら外しはせん! 前屈みのまま突撃する
<職業:盗賊>は、その素早さで敵を翻弄し弱点を突く中級者向けの職業である。
主なメリットとして、クラススキルの【
なお、アイテムスティールは一番原理が謎に包まれており、王都の研究員達の間では様々な説が飛び交っている。
デメリットとして、紙装甲がまず目立つ。当然速度を重視したステータスは防御を犠牲に成り立っており、その値は魔法職を出し抜いてワースト一位である。付けられる防具も制限され、胴体は軽鎧限定、他にも一定の重量を越えるアクセサリは付けられず、装備全体の重量にも制限がかかる。
そして気を付けるべき点として、ヘイトが溜まりやすいことだ。当然ながら高速で接近し攻撃するということは、敵の眼前に姿をバリバリ晒しているので前衛職である剣士や騎士を差し置いてヘイトが溜まることが多々ある。その為、普通は【常時:ハイディング】で姿を眩まし、ヘイトを上げない様にする必要がある。しかし、このヘイトの上昇量は使いようによっては役立つことがあるので覚えておいて欲しい。
「そぉら!」
強化された脚力で一気に接近、間に滑り込み足払いを掛ける。狼狽えろくな反応も出来ずゴブリン達はそのまま転倒する。そこにとどめのナイフで容赦なく首を斬る まず一匹
その間にもう片方が起き上がるが、もう遅い。
戦闘態勢もろくに取れていないゴブリンは、足ががら空きなのだ。もとより今颯馬は屈んだ状態なので…
「ギギッ!」
そのまま振り返り遠心力を利用してもう一匹の足を掻っ切る。両方切断とまではいかないが、もはや立つこともできまい。
そして棍棒を持つ手を抑え、そのまま首を---
「よし、片付いたぞ。」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」
「なぁ、いい加減慣れてくれよ。特典の剣の元に行くにはまずクエストで資金を集めなきゃどうしようもないだろ?」
「そ、それはそうですけどどど…」
ピチョン 天井から滴る水がラフェルの頭に直撃する
「ひいいいいいいいいいいいい!!!帰るううう!おうち帰るうううう!!」
「落ち着け!お前今帰る家無いだろ!!!」
「(真実を知ってしまった顔)」
「上から水が漏れ出してる。多分、この上に湖があるんだ。松明もここから付けられてない、ちょっと借りていくぞ」
ゴブリンの持っていた棍棒に、食事処からもらってきたナプキン…というか紙をナイフで細く切り、巻き付ける。そして近くの松明から火をもらう。
「これで暫くは大丈夫だろう。さ、行くぞ。」
暫く進んだ時、ふと立ち止まる
「なぁ…思ったんだけどさ、なんで途中から松明が切れてたんだろうな…ギルドはこの事を知っているのか…?」
「えっ…な、何です?」
「定期探索って書いてあったよな…ってことは、定期的に冒険者たちがやってくる。だから魔物達はその後しばらくいなくなる、ましてやこんな洞窟だ、普通全部殺しきれるだろう。」
「そう…ですね。この洞窟は特に抜け道も無いと聞きましたし…」
「ってことは…もしかしたらやべぇかもしれないぞ…俺たち…」
嫌な予感は的中する
この洞窟の松明は、どれも壁に固定され、ゴブリン程度の腕力ではびくともしない。
それにもし外れていても前の冒険者達が気付いてギルドに報告したはずだろう。又はその元凶に当たって全滅しても、戻ってこないところから危険度が上がり、☆1のまま貼りだされているはずがない。ということは、俺たちがこのクエストを受ける直前に奴らはここで巣を作っている。
そこには…
場所は変わり、王都:玉座の間
近衛が均等に並び、その最奥には赤と金で彩られた玉座、そこには白いケープに身を包み、しかし右胸から右腕にかけてはだけている、古代ローマを連想させる青年が座っていた
そこに一人の兵士が追加される
「失礼します!陛下、六将率いる魔王軍第三部隊の詳細報告書が届きました!」
書類を受け取った青年は眉を顰める
「…なるほど。六将第三部隊…前勇者の報告にあった内の一人…いや一体か。やはり復活していたようだな…」
六将の一体、フィオネ・オルテルロック
王都でも希少な職業である天職の一つ、
やはり奴らも復活した魔王により蘇ったか。
そして十三年前の情報だが…
フィオネ・オルテルロックには妹がおり、姉妹揃って六将になったという。
名はフィオナ・オルテルロック。姿はフィオネと瓜二つであり、違う点と言えば扱う魔法・魔術の属性くらいだろうか。
十三年前、勇者は「怪しげな術」を奴らは使うと報告した。それを聞いた貴族や大臣達は北の魔女がまた何か閃いたのだろうと考えたが、その正体を青年…いや、青年の姿をした王は知っていた。
そう、魔術。この世界の法則の範囲外にある何か。当然知る由も無いが、介入者がオルテルロック一家に伝えたのである。
「(ニンジャ達の情報から、オルテルロック家は奴ら姉妹で六代目だという。元々あの家は貧しかったようだが、どういうわけかその家の者の周りではおかしなことが相次いでいたそうだ…恐らく、一代目の時点で魔術は誰か、この世界の者ではない誰かから教わっている。メガミが裏切ったか…?いや、メガミは勇者と共にいた。それに安易にこの世界の法則を脅かす魔術を教えるとは思えない…やはり黒幕はどこかに潜んでいるはずだ…)」
「陛下、どうなされましたか?まさか報告書に何か不備が…」
「いや、問題ない。流石は我が偵察部隊だ、彼らの情報はやはり性格だ。給料をはずんでおこう。」
「ありがとうございます!ではこれで、失礼いたします!」
「さて…困ったものだな…」
「(魔術は使用するには膨大な外の世界の知識がいる…そしてメガミが言うにはそれはその世界の宗教や神話といったのをなぞったものらしい…つまり、他の知能が低い魔物達は使えないとみていいだろう。北の魔女も、外の世界には詳しくないようだしな。だが…何度メガミが持ってきた「聖書」や「北欧神話」とかいう外の世界の本を読んでも、オルテルロックの魔術には当てはまらない。一体どういうことだ…?メガミの知らない別の何かがあるというのか…)」
メガミことラフェルの管理下にあるのは、颯馬が居た宗教や神話をなぞり発動する魔術が存在する世界、そして今いるこの魔法が存在する世界の二つである。しかし、もし介入者が別世界から仕入れた知識を持っていて、この世界でもそれが通用するとしたら? 魔術には二つのパターンがある。根底は同じだが、過程と効果が異なってくる。宗教や神話等、異なる世界の法則を自分たちの世界の法則に当てはめる魔術。そして、神話だけにとどまらず、自分の意識を魔力を通して自分たちの世界に体現する魔術。
前者は、解釈は人それぞれで詠唱も異なるのだが、元を辿ると同じところに行きつく。しかし、後者は個人の意識の世界を投影するといったものであり、鉱石魔術や
なお天体魔術はアムニスフィア以外にも存在するが、星の配置など条件が異なるので使用できない為、天体魔術をアムニスフィアと呼称している。
勇者の報告によると、フィオネ・フィオナはそれぞれ蝶を操っていた。この世界にも蝶はいるが、それは独自進化や大気中の魔力による突然変異で巨大化したもので、小型の蝶というのはこの世界にはもう存在しないはずの生物だった。そして、ニンジャの情報によると、姉妹、いやオルテルロック家の容姿は三代目から変わっていないらしい。
そして王はこの姉妹について、ある結論に至るのだった。
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辿り着いた洞窟の奥で、颯馬達は強大な敵に遭遇する!
レベル差の暴力で、追い詰められていく颯馬!
窮地に立たされた時、ラフェルが真の力を発動させる!
次回!異世界は管理者とともに 第五話:駄メガミの成り上がり 覚醒編
さぁて次回もぉサービスサービスゥ!
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