第3話 痛いのは嫌なので盗賊に転職しようと思います
トレフ村を出て、森を道沿いに歩く。
ラフェルが言うには次の村、ジェニム村はここから約十数キロあるらしく、宿屋の店主からもらった貴重な食糧等が入った袋を背負いながらその距離を歩くのは、一日では間に合わない。おまけに俺は昨日の戦闘で背中を打たれ、今もまだ痛いままだ。
また当のラフェルももとは最大だったステータスが見た目通りの町娘に成り下がっており、念のため腕相撲してみたが普通に勝った。
「さて…暫く歩いたが、そろそろ俺休憩していいか?」
「ダメです、一刻も早くジェニム村に到着しなければなりません、最短距離で行けば明日の昼頃には到着しますが、なるべく昼の内に進んでおかなければ。昨日戦闘したゴブリンを筆頭に、魔物達は昼夜逆転の生活が基本なんです。」
「ならなんで昨日の奴らは昼なのに起きてたんだ?」
「都市部から離れれば離れる程、段々と奴らの生活リズムは私達と同じになってくるんです。人間から身を守るため、あえて夜に行動するに連れて、段々夜の生活に慣れたって感じですね」
「ふぅ~ん…小動物みたいだな。」
「まぁ、このトレフ村とジェニム村をつなぐ森は明るい方なので昼間はあまり魔物は出てきませんし、最悪ジェニム村には衛兵がいるはずなので、運が良ければ見回り兵に村まで送ってもらえます。ですからGO!GO!」
そして、荷物が少ないのも幸いし特に襲われることはなかった。
そうして、夜がやってきた。
夕方の内に歩くのをやめ、ラフェルに火を熾してもらう
「魔術はこちらの世界ではゲームの魔法みたいに多少気軽に打てますが、あちらの世界では位相にずれが生じるのでこんなくだらないことで使うことは本来できないんですよ!」
と怒られてしまったが
小道から少し外れ、湖のそばで野営をすることになった。
しかしラフェルが俺の分まで食おうとしてくる。
「駄目だこれは俺の分だーッ!」
「よこすのです!寄越しなさい!よこせえええええええええ!」
見た目は華奢なJKくらいなのに、かなり食い意地を張っている。宿屋でも金が無いのに朝食をお代わりしようとしてたし…
そうこうしているうちに星が出てきた。
「火熾してくれてなんだが、お前の使う「魔術」ってなんだ?黒ミサとかとどう違うんだ?」
「黒ミサは魔術の中でも呪術に位置する奴ですね、魔術という大きなくくりの中に黒ミサや私が使っている十字教系統等があるんです。ちなみにこちらの世界には「魔術」は「魔法」というくくりで分類されていて、こちらの世界独自の法則で動いています。」
「なら、それでいいんじゃないか?」
「ところがどっこい、「魔法」は詠唱時間はそこまで長くないとはいえ、頭文字を発音するノタリコンのような略式詠唱はできませんし、何より習得に時間がかかります。あと大抵の魔法は「魔法使い」系の職業をとらなければ発動すらできません。」
「なら魔術はどうなんだ?誰でも使えるのか?」
「はい、その気になればあなたでも使えますよ。しかし、魔術の欠点として準備に時間がかかるんです。何をしたいか、効果量は、属性は等々、それらははっきりすればするほど威力が増しますが、細かくすればするほど詠唱時間や知識の必要量が増えますし、略式詠唱しようとすると消費魔力が跳ね上がります。」
「ふぅん…よくわからんが、大変なんだな。」
「はっきり言って魔法の方が便利ですよ、魔術でわざわざお高い宝石を使うよりも、魔法でマナポーション買った方が効果量は同じでも費用が天地の差ですからね。詠唱も固定化されているのであちらの世界の知識も必要ありませんし。」
「そっか…ならさっさとジェニム村に行かねぇとな。」
「ですね、今日はもう寝ましょうか。」
夢を見た。それは昔の、俺の誕生日だった。県外の会社に勤めて年に数回しか会えない姉、有名大学に進学してもう何年も会ってない兄、肌に艶がありしわも少ない母、髪がまだ黒く禿げる前の父。みんな笑顔で祝ってくれた。もう会えないのかな…
小鳥の鳴き声に目が覚める。あの素晴らしい光景が夢であることを実感する。
軽く準備運動をし、ジェニム村に向けて歩き始める。
「そういえば、俺のいた世界って今どうなってるんだ?」
「前任者の報告によると、転生者同士でトラブルがあり、特典に認証機能もついてなかったので大変なことになったとのことなので、転生者は常に一人になるようこちらの時間の流れを何倍も早くしてるんです、つまりあちらは今あなたが死んですぐの状態ですよ。そして転生者が寿命を全うするのを確認したら、次の転生者を送り込む。」
「そうか…ところでこっちの世界って文明とか発達しないのか?」
「発達すると思いますか?この世界には魔法があるんですよ?」
「それもそうか。車とか、長距離を移動するための機械とか瞬間移動とかで全部パーだしな。」
「それに、最悪発展して核戦争とかで滅びてもよく似た世界を観測し管理下に置けばいいことですから」
「管理下って…世界を丸ごと家畜扱いかよ」
「最終的な我々の目的は信仰を得ることですから丁寧~に育てますよ。丸々と太るまで。」
「お前そのナリでよくそんな事言えるな…聖職者とか大泣きだぞ?」
「知りませんよあなたたちの事情なんて… 待ってください、人の気配がします。」
「!」
「数は…四、五、いや、それ以上!?」
森の影から一人の男が姿を現す
軽装にバンダナ、手にはナイフ。いかにも盗賊と呼んでくださいと言わんばかりの服装
「職業は…前方の男は
ついでに囲まれてます!」
「へへっ、察しがいいな嬢ちゃん。素直な娘は嫌いじゃないぜ」
「まずいな…どうする?」
「厄介なことに回復術士が手持ちの魔術の効果範囲外です。おまけに私達は今丸腰、勝算はほぼゼロです」
「畜生ッ!」
「ウンディーネの加護を持って我が魔力を氷剣に体現せよ!<アイスブレイド>!」
「いくぜぇ!<ステップブースト>!」
後方から氷の刃、前方からは異常な俊足で距離を詰める盗賊
「お前本当に盗賊か!?」
振りかぶったナイフをギリギリで躱す
「盗賊は接近戦も得意なんだよ覚えときなガキが!」
しかし、強化された盗賊の脚力は、常人の反射速度では太刀打ちできない
もろに回し蹴りをくらい吹っ飛んでしまう。
木にぶつかり、気を失いそうになる
「グッ…」
「颯馬! とにかくこいつらを…キャッ!?」
詠唱を開始しようとした直後、いつの間にか背後に回っていた騎士に羽交い締めされる
「クッ…ガハッ…」
「おいあんまり傷つけんなよ!傷がつくと高く売れねぇからな!」
もうだめか、俺たちは奴隷として死ぬまで働かされるのか。
刹那、一瞬にしてラフェルを羽交い締めしていた騎士の首が飛ぶ。
「何ッ!??」
気を失いそのまま倒れるラフェルを、首を落としたその人が抱きかかえ、そっと降ろす。
それは軽装に身を包み、目元以外を布で隠した姿、そして手には一本の反りがある片刃剣。
あれは…あの姿は…
ま さ に ニ ン ジ ャ !
「アイエエエエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
盗賊は忍者のような男を見た瞬間、恐怖に震えて失禁した。汚ねぇ
あまりの恐怖に、ナイフが手からこぼれ落ちる
当然颯馬は知る由もないが、この世界の忍者もといニンジャは数々の暗殺を引き受けており、金さえ払えばどんな相手もも必ず殺してみせるという。また、国家間の戦争の際に国家予算の大半を懸けてニンジャを雇ったら、相手国の兵士を殺しつくしてしまったという伝説も残っている。文明が発達せず、生きるためには戦わなければならないこの時代の人間にとって、ニンジャとは死神に等しい存在なのである!
そしてニンジャは手を合わせると
「ドーモ。ターゲット=サン、ニンジャ118です」
とオジギをする そして生存本能に従い盗賊は逃げ出す、目の前の獲物を無視して。
「アイエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
しかしながら盗賊もニンジャの端くれ(下位職)、オジギとアイサツは必ず返さなければならない。
ニンジャのイクサにおいてアイサツは絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれている。
そしてオジギを終えた0.02秒後、ニンジャは跳躍し盗賊に膝蹴りを喰らわした。
「イヤーッ!」
「アバーッ!」
亜音速の蹴りは、盗賊の体を粉々に粉砕する
そして明らかに摩擦で火が付く速度で投げられたスリケンは盗賊の首を捉えていた!
「サヨナラ!」
「アバーッ!」
ニンジャに依頼がされる程この盗賊団は悪名高かったようだが、ニンジャの前でははるかに無力!
ショッギョムッジョ!インガオホー!
そして首を撥ねられた盗賊はしめやかに爆発四散!
その余波を受け颯馬は気絶してしまう。
目を覚ますと、盗賊団の死体は綺麗に消えていた。そして足元に手紙が一つ
「ドーモ、タビビト=サン。ニンジャ118です
先程の盗賊団は私のターゲットでした。本来は昨日の内に倒しきるはずが、私を囲んで警棒で叩こうとアンブッシュされ、スゴイ=シツレイなニンジャの処理に時間がかかりました。ケジメとして指の代わりにスシを差し上げます。サイオー・ホース、あなたの旅に幸運があらんことを。
オタッシャデー!」
手紙のそばにはなんとトロスシが一皿おいてあるではないか!奥ゆかしいニンジャに敬意を示し、二人はスシを食べた。
数時間後…
スシのおかげで体力を完全回復した二人は、ジェニム村に到着した。
トレフ村の三倍ほどの面積があり、村の周囲には防壁が敷かれている。
ジェニム村を散策するとひと際大きな建物があり、冒険者ギルドであることがすぐわかった。
中に入ると、そこはまるで酒場だった。
武装した集団がテーブルを中心に酒を飲んだり、一人で飲んでいる人をパーティに勧誘する人達、はたまたナンパをしている青年もいた。
「ご用件は何でしょうか?」
「あの、冒険者カードって作れますか?」
ラフェル曰く、ギルドのクエスト等は、冒険者カードが無ければ受けられないらしい。
「冒険者カードですね? それではこちらにお名前をお願いします。」
なにやら怪しい羊皮紙が渡される。微妙にローマ字で何か書かれており、ちょっと読めてしまうあたりが不気味さを際立たせている。
「本当に大丈夫かよこれ…」
「言ったでしょう、名前は契約術式において重要だと。冒険者カードもその類ですよ。我慢しなさい」
しぶしぶ名前を書く。
「葛城颯馬様とラフェル様ですね。はいっ、これが冒険者カードです。よき冒険者ライフを~!」
まるで身分証明書のように細かく書かれたカードを受け取る
「えーと…早速で悪いんですけど、転職ってできますか?」
「新入りの方は無償で転職できますよ!冒険者カードをこちらへ」
カードを渡す、ラフェルとの会話を思い出す
「とりあえず私は魔法使いにします。新米冒険者は一度だけ無償で転職ができるので、あなたも何か好きな職業を選んでください。特に騎士がおすすめですよ」
「ん~…わかった、俺痛いの嫌だから盗賊にするわ」
「そうです、そうやって私の盾に…えぇ!?」
「何だよ」
「私の盾になってくれるのではないんですか!?」
「なるわけねぇだろとことん嫌な性格してるなお前!?」
「ここで私が死ぬとフリーズしますよ!!いいんですか!!」
「知ったこっちゃねぇ俺は生きるぞおおお!」
そういえばステータスも見れるって言ってたな…見るの忘れたけど
「な…何ですかこれ…」
受付の嬢さんが固まる
「あ、あなた何ですこれ!」
ラフェルを指さす
「<職業:メガミ>って、あなた契約書にイタズラでもしたのですか!?」
当の本人は絶句している。またか
「とりあえずコイツ置いといて俺は盗賊でお願いします」
「は、はい盗賊ですね…はい、転職完了しました、支給品もどうぞ!」
胸の辺りに微かに衝撃が走り、おぅ。っと思わず声が漏れそうになる。
この切り替えの早さは流石といった所か。受付嬢さんから皮製の軽鎧とナイフを貰う。しかしコイツどーするよ…
「あのー…コイツ結局転職できるんですか?」
「<職業:メガミ>は数ある職業の中で最高位に位置する職業なんです。恩恵は様々なんですけど…本来、この職業を持つ人たちは勇者クラスの実力者なので、このステータスの低さでこの職業はおかしいんです。だって平均以下どころかここ数年で一番低いですよこれ!? 特に幸運が最低値です!信じられません! おまけにスキルも全部使えない状況って……… 私まで言ってて悲しくなってきました…」
「あー…まぁ、そうなるな。」
「…コホン。つまるところ、冒険者カードに記載されている通り、上位職業から下位職業への転職は不可能となっておりますので、ラフェル様は転職できません。まぁ…頑張ってレベルを上げるかステータスを上げて下さい。」
「( ;Д;)」
「ドンマイ」
号泣寸前で嗚咽を漏らすラフェルの肩をポンと叩き、励ましの言葉をかける。
「そういや、獲得経験値…ゲームみたいなものか、が書いてあるんだって?どれどれ…
<EXP:5 必要EXP:100>…5ぉ?ああ、ゴブリン一体5なのね…
んで、コイツの経験値は…<EXP:25 必要EXP:10000> えぇ…」
「うわああああああああああああああああああん!!!!!!!」
-------
折角の最高位ジョブなのに、その恩恵が全く生かせずじまいのラフェル
そんな中、初めてのクエストに挑む!
狭い洞窟の中襲いかかるゴブリン達!
奥にある財宝を守る強敵との闘い!ワクワクするなぁ!
次回!異世界は管理者とともに 第四話:駄メガミの成り上がり ガッチャ!
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