第2話 転生したのにハードすぎる件
俺と管理人は森の小道を歩いていた
「…そういえば、まだあなたの名前を聞いていませんでしたね。」
「ん?お前管理者だろ、犠牲者の名前とか事前に聞いてないのか?」
「私が死神の目でも持ってるとでも?下界の人間なんて何十億人といるんですよ、一人一人の名前なんて有名人でもない限り知りませんよ。」
「ふぅ~ん…万能ってわけでもないんだな。」
「それに名前は魔術的契約でも重要なキーワードとなるんです。我々管理者の中にも前任者のように性格に問題がある管理者が好き勝手しないよう、犠牲者の名前は緊急時でもない限り本人から直接確認する必要があるんです。」
「ほんほん…相変わらずよくわかんないけど、俺の名前は
「颯馬さん、ですね。私はラフェルと言います。とりあえず魔王討伐までよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。とりあえず一発殴らせろ」
「なぜぇ!?」
「お前がすっごくムカつく性格してるからだよ!自分で気づいてないのか!」
「どこがムカつくんですか~!?お助け~!」
大声で叫んだその時、突然草むらから小型の生物が飛び出してきた。 数は一匹
その生物はおよそ人間の子供に近い体型をしていて、緑色の体色、醜い顔、尖った耳、むき出しの牙
その右手には棍棒のようなもの。 いわゆるゴブリンというものか
小型の生物は普通群れをつくって生活している。単独行動は基本的にしないと思うが、恐らくはぐれたのだろう
「おい、何か武器とかないのか!?」
「ありませんよそんなもの!丸腰でも戦える前提で作ったんですから!」
「クソッ…」
ゴブリンが飛びかかってくる
とっさに後ろに飛ぶ 無理な体制でバランスが崩れそうになる。
しかしそれは向こうも同じこと。いくら棍棒とはいえゴブリンでは少々扱いにくい代物だ
「今度はこっちの番だッ!」
思いっきり踏み込み、全体重を掛け拳を振るう 鈍い音に確かな手ごたえを感じる
「ギャッ!」
ゴブリンが吹っ飛ぶ。60kgの拳を受け、子供の体型程度のゴブリンでは踏ん張ることすら許されない
痙攣しているうちにゴブリンの棍棒を奪う
「悪く思うなよ…」
棍棒を大きく振りかぶり 脳天へ--
バキッ
ゴブリンの頭蓋骨が砕ける音が鮮明に聞こえる。
急な戦闘による極度の疲労。醜い顔を殴った時の拳の感覚、反作用による右手の痺れ
確実に一つの命を奪った事を実感する
「あなた…思ったより勇気あるんですね…」
「ああ…結構しんどいなこれ…明日は筋肉痛確定だな…」
ゴブリンが身に着けていた巾着袋から数枚の硬貨をポケットにしまう
「さて…村に行くか」
小道を再び歩き始める
しばらく歩くと、何か物音が聞こえてくる
「まさか…」
「えぇ、さっきのゴブリンがはぐれだとしたら…」
忍び歩きで物音のした方を覗く
予想通り、そこには数匹のゴブリンがいた。全員が棍棒を持ち、耳をピクピクさせている。
音で獲物を探っているのだろうか
口元に指を当て、ラフェルにコンタクトを送る。
彼女もうなずくが、なにやら様子がおかしい。
まるで何かを我慢しているような…
「ぶあっくしょん!!!」
あ
くしゃみに気付いたゴブリン達が向かってきた
「おいおいどうする!さっきみたいに一匹二匹どころじゃないぞ!」
「仕方ないですね…時間を稼いでください!一気に蹴散らします!」
二匹のゴブリンが左右から襲いかかる
後ろに飛びギリギリで躱す、足を挫きそうだ
もう一匹が真っ直ぐに突っ込む 左手に棍棒を持ち替えスイングする
ゴブリンの左頬に棍棒が直撃し、吹っ飛ばすが手ごたえが無い
「南に炎あり、東に風あり、ここに天使の統合を示す。」
後ろの三体が回り込み、先の二体が再び襲いかかる
とっさに棍棒でガードし、前方の隙間へ滑り込む。
足払いを掛け一体を転ばし、そのまま走り腹に拳を振り降ろす
しかしその隙を許されるはずもなく、背中から強烈な痛みを感じ、仰け反る
「ガハッ!」
痛みに耐えながら、次撃を棍棒でガードする
しかし捌ききれない、直撃する!---
「大天使ミカエルの加護を持って、ラファエルの名のもとに火と風を統合せん!」
突然、ゴブリン達の中心部に爆炎が巻き起こる
全体を巻き込んだ爆発、風でコントロールされ、ギリギリ俺が入らない範囲で爆風が吹き荒れる
しかし、あまりの熱量により、余波だけで髪が焦げる
「熱ッ!」
火が収まると、そこには真っ黒に焼けこげたゴブリンの跡が残っていた
中心部にいた二匹は完全に蒸発し、残りの三匹も体の半分を失い、焦げクズと化した
「うわ~…すげぇなこりゃ」
「ふぅ…あ゛ぁ゛~疲れたぁ~」
ラフェルはふらりと倒れ込む
「おっと、大丈夫か?」
「軽い魔力切れです…体力が生命力に由来するなら魔力は精神力に由来するのです」
「ん~…つまり今のあんたは…」
「体を動かす「体力」はあるのですが、動かす「気力」がなくなっている状態です。回復まで暫くかかります、ちょっと休憩させて下さい」
「えーっと…あ、あそこの木にしよう」
「よいしょっ…と」
大木の根元にラフェルを降ろす
「すみません、助かりました。」
「気にするな、これでおあいこだ。」
「…少し、寝させて下さい…」
「わかった。」
寝息を立て、ラフェルが眠ったことを確認する
空を見上げ、太陽の位置を確認する。この世界にも太陽はあるのか、ラフェルはこの世界と俺たちの世界が繋がっていると言った。それは惑星の単位なのか、はたまたただ単に繋がりがあるだけで、管理者や介入者とやらのように、世界を行き来できる存在目線での話なのか。
太陽は大体あちらで三時くらいを指していた
体感で一時間ほど前、俺は死んだらしい。それは現実とはかけ離れたラフェル、この世界が物語っている。じゃぁ、今ここにいる俺は何だ?あちらの俺が死んだのなら、この健康そのもの…ではないが、五体満足な俺の体はどうやってできた?
嫌な予感が体中を駆け巡る
「んむぅ…」
不意に聞こえる寝言に俺の思考は中断された。
考えても仕方がない。あちらの俺は死んだとしても、今俺はこの世界で生きている。
「痛たたたた…俺も少し休むか。」
30分くらい経っただろうか、ラフェルが目を覚ます。空は赤みがかかり始め、道が少し暗くなってきた。
「ふぅ、十分回復できました。暗くなる前に村へ急ぎましょう。」
「ああ。」
「ところで…私が眠っている間、変な事しませんでしたか?」
・ ・ ・
「は?」
「この前後輩ちゃんと〔編集済み〕する夢を見たんですテメェがやましいことしたからでしょう恥ずかしいから言わせんなこの早漏野郎!」
「勝手に自分からやましいこと言っておいてなんだその逆ギレはー!?」
「許しません鉄拳制裁!」
「殴りたいのは俺の方だぁー!」
ドタバタしながらも何とか森を抜け、村にたどり着いた。
空はすでに夕方に差し掛かり、午後五時半くらいだろうか。
こちらに気付いた農家のおじいさんが話しかけてきた
「おお、旅人さんかのぉ、随分変わった服を着ているようじゃ。いらっしゃい、トレフの村へ」
「こんばんは。遅くにすみませんが、どこか泊まれるところは無いですか?」
「それなら宿屋に向かうといいね、案内しよう」
「でも私達あまりお金がないんですが…」
「安心しなされお嬢さん、この村の宿屋は次の日の朝にちょっとお手伝いをしてくれればお代は必要ないんじゃよ。」
「そ、そうなのですか…(経営大丈夫なのですかその宿屋…)」
じいさんに案内され宿屋に到着した。
「ここじゃよ」
そこは少し古めの木製、二階建ての建物があった。
「案内ありがとうございます、助かりました。」
「いいんじゃよ。こんな辺境の村、そうそう人が来ん。じゃ、気を付けてな」
じいさんに感謝して、店内に入る
店の一回は喫茶店のような作りで、テーブルと椅子が三セット置かれている
一人で経営しているのだろうか、四十代ほどの男性が片づけを始めていた
他に客はおらず、人の気配はない。
「ああ、いらっしゃい、何名様?」
「二名です」
「二名だね、宿泊?それともお食事?」
「宿泊でお願いします」
「わかった。二階の一番手前の部屋に泊まってくれ。これが鍵だ、あとろうそくも。朝食は八時だよ。
あと代金なんだけど、君達この村は初めてかな?」
「はい」
「それなら明日の朝、村の家々にパンを配ってくれればタダでいいよ。
村長の家、大工の家、教会、道具屋の四つだ。まぁ、こんな小さな村にそれ以上家なんて無いんだけどね。」
「分かりました。ありがとうございます」
二階に上がり、一番手前の部屋の鍵を開ける
簡易的なベッドが二つと、ろうそくを置く代、質素なテーブルと椅子がある
鍵を閉めると、ラフェルはベッドに飛び込んだ
「ひゃっほーい!」
「行儀悪いな…っていうか服に汚れとかついてないのか?木の下で寝てただろ?」
「この衣は多少の汚れや傷なら簡単に修復できるんです、いくらアバターとはいえ文明があまり進んでいないこの世界では洗濯もろくにできませんから。」
「そうか…なら早く資金を集めていろいろ買わなくちゃな…」
「そうですね…くそう、こうなるんだったら最高クラスの装備とか付けるんだったー!」
「今更言ってもしかたないだろ。
ところで、店長の人曰くこの村には冒険者ギルドとやらが無いんだが、どういうことだ?」
「 あ 」
「(またか…)」
「すみません~もう一個先の村でした~(∀`*ゞ)テヘッ」
「っていうことは…」
「また森を抜けなきゃいけないですね~(;'∀')」
「このォ、馬鹿野郎!」
そして次の日、朝食を食べ大急ぎで手伝いを済ました
「もう村を出るのかい?」
「はい、私たちは王都へ行かなければいけないんです」
「(王都なんてあるのか…初めて知ったぞ…っていうかこのクソ管理人、何も言わずさっさと寝やがって…)」
「そうか…気を付けてな。これはサービスだ、とっときな。」
そう言うと店長は、皮製の水筒と干し肉等の携帯食料を渡してくれた
「いいんですか!?こんなに…」
「なぁに、気にすんな。その代わり、王都に着いたらこの村を紹介してくれよ。ここ数ヶ月、旅人が来なくてな、商売あがったりだ。」
「わかりました、しっかり宣伝してきます!ありがとうございました!」
「おう!気を付けてな!」
そして舞台は変わり、魔王城
禍々しくもこれ以上ないほど美しく飾られた間、その最奥にある座にて、一人の王が目を覚ます
「…む…ここは…」
「お目覚めになされましたか、我らが御方」
座の前には六体の人ならざる、しかしその外見は人に寄せられた魔物が平伏していた
その中の一人が声を上げたのだ。
「すまない、少し眠っていたようだ。」
「さて、久しぶりに面白いことになりそうだ。」
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何事も無く次の村、ジェニム村へたどり着けるかと思ったその時、謎の一団が颯馬達を襲う!
そこに現れた完全武装のさらに謎の優しい人(?)!
そして冒険者ギルドにたどり着いた颯馬達は、さらなる真実を知ることになる!(主にラフェルが)
次回! 異世界は管理者とともに 第三話 痛いのは嫌なので
お楽しみに!
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