第一章 プロローグ編
第1話 この新米管理人に鉄拳を!
…はっ
学校からの帰り道、突然意識を失い気が付くとよくわからない真っ暗な場所に俺はいた。
最後に聞いた音はトラックが突っ込む音だったか。
頭がくらくらする。視界がぼやける。体が上手く動かない。
一つのテーブルがある、向かい合わせの椅子の片方に、俺は座っていた。
…いつの間にか、目の前に白いローブを纏った神々しい女性、いわゆる「天使」を連想させる女性が
座っていた。
「あなたは死にました」
天使は口を開くとそう言った。
理解ができない。思考が停止する。しかし、その異常が本能を廻りそう告げる
「な、何でだ!何で俺は死んだ!?」
上手く声が出ないが叫ぶ。
頑張って勉強して入学した高校、休みがちでも何とか単位を取って進級できた直後、理不尽が俺を襲う。
「世界には共通して幸運と不幸が大気のように循環しています、そして、中には豪運と呼ばれる人間も存在します。
大抵そういった類は、後に何らかの形で不幸が降り注ぐのですが、稀に不幸を弾く幸運な体質の持ち主も
存在するのです。では、彼らが請け負うはずだった不幸は一体どこへ?」
「…まさか」
心当たりがある、というか有りすぎて困る。昔から不幸続きだ、道端に突然空き缶が転がったりしたり、宿題のプリントが風に飛ばされてやり直す羽目になるところまで散々だ。
「そう、弾かれた不幸は、何も関係ない人間に襲いかかる。事故、盗難、病気…現象は様々ですが、最悪の場合、あなたの様に死に直結する不幸になります。滅多にありませんが、未解決事件や[編集済み]等はこの弾かれた不幸が原因となっているのです。私はそういう人間を見るのは初めてですが。ざまぁ」
天使は冷淡に告げる。頭が冷えて動き始めた。怒りと悲しみが入り混じる。というかこいつ一言多いな、キレそう。
「しかし我々管理者としても、弾かれた不幸…我々は位相と呼んでいますが、位相によって死んだ人間をそのままにしておくと、別の世界で今のあなたの様な怨念が影響を与えてしまうので、こうして私達管理者が直々に会いに来ているのです。感謝して下さい。」
管理者ってなんだよ
額に青筋を浮かべながら質問する。
「で?その管理者様が不幸な俺に何しに来たんだよ」
「そう急かさないでください早漏野郎。 …コホン。あなたたちの怨念を他世界に持ち込ませないために、管理者の権限を用いて別の世界に召喚します。いわゆる異世界転生…もとい召喚です。」
あー…図書館にあったなそんな感じの本 誰が早漏だコラ
「ついでにあなたたちの怨念の出どころ…もとい理不尽な死への不満を抑えるために、管理者権限でちょっとばかしあなたに幸運が降り注ぐようにしました。どうです?私達、最高でしょ?」
やっぱコイツうぜえわ …ん? ちょっと待てよ?
「なぁ、そのシステムっていつから始まったんだ?」
「結構前からですね。でも幸運が付いてくるのは私が管理者になってからです。ちなみに前の管理者は性格に難があって位相の犠牲者を異世界に送る際に連れ去られてしまったみたいです。まぁ、私はそんなことありませんけどね。( ・´ー・`)」
なるほど、そういや友達がそんな感じの本があるって言ってたな。
「オーケイ、ならさっさと連れてってくれ。俺は今すぐお前をぶん殴りたい。」
「お~怖いですね。了解です。ところで、何か特典などは入りませんか?すっごい剣とかスマホとかスキルとか!一応そのままでもあちらの世界で満足できるよう措置がありますが。」
「あー…じゃぁ、まぁ適当にすっごい剣で」
「すっごい剣ですね!具体的に何にしますか!?振るとビームが出る剣ですか!?それとも自動追尾カボチャが出てきたリ相手の血を吸ったり斬撃が飛んだり」
「適当に考えといて」
「分かりました!じゃぁオーソドックスにエクスカリバーでいいですね!デザインは何にしましょう、アーサー王の剣にしましょうか、それとも空腹王?あっこれおすすめですよ、鞘も無償でついてきます!」
「適当にっつったろ!っていうか何でお前そんなに詳しいんだよオタクか!」
「下界の知識はそちらの常識の範囲内でアバターを作成して情報を収集していたのですよ、他の管理者達はオタクの対処にあたふたしていたみたいですから。いやー、しかし文明が進むと便利ですね~。昔は現地に直接行かなきゃ手に入らない情報が、今はネットですぐにわかる。しっかし下界の娯楽はほんとに面白い!他の世界は文明がそこまで発達していないのでせいぜいボードゲームが限界でしたが、ネトゲやカードゲーム、はたまたアニメは新体験ですよ!」
「意外と満喫してんじゃねぇか! っていうかアバターってあれか?映画の?」
「違いますよ、分身体の意味です。
さて、特典の登録は完了しました。さ、こちらへ」
何もないはずの空間に歪みが生じる
「では、いってらっしゃいませ。」
「…最後に一つ質問いいか?」
「何でしょう?」
「…幸運ってさ、弄ったらまた位相とやらの犠牲者が出るんじゃねぇの?」
-「世界には「共通して」幸福と不幸が大気のように循環しています」-
「 あ 」
「(バカだコイツ)」
「えーっとじゃぁ、やっぱり無しで…」
「させん!貴様も道連れじゃああああああああ!」
管理者とやらの手を引っ張り歪みに突っ込む
「待って待って!まだ転移座標の確定と心の準備がー!」
歪みに突っ込んで、どれくらい経っただろうか。気が付くと俺は
上空はるか数百メートルはあろう空中にこのウザ管理者とやらと放り出されていた。
「うええぇぇぇーーーーーーーーー!!!!???」
「バカバカバカー!だから待ってと言ったじゃないですかこの早漏野郎!」
「誰が早漏だコラぁ! 落ちるううううう!!!」
「ええぃ仕方ないですね!ちょっと掴まっててください!変な所触らないで下さいよ!」
「えっ」
唐突に管理者が上を向く
「
管理者の背中から気流が吹き出し、落下の勢いを弱める
ゆっくりと降下し、森の小道のようなところへ着地した。
「助かったぁ~」
「助かったぁ~ じゃないですよ!カレイドスコープ対策用アバターが無ければどうなってたか!」
「え、何それ…」
「説明は後です!とりあえず、本部に連絡を…」
管理者は片耳に手を当てたまま動かない
「ん?」
「え?どうして?本部につながらない…」
「本部ってなんだよ」
「私達管理者の本部です、本部には私と同じ世界を管理してエネルギー…信仰を回収する管理者達が集まって、そこで〔編集済み〕とか〔削除済み〕とかしてるんですけどぉ」
「ごめん、日本語でおk」
「とにかく!私達管理者の集まりに連絡が取れないんです!あぁ~どうしよう~」
「………そういやさ、さっきお前「位相の犠牲者に連れ去られた」って言ってたよな。」
「え、えぇ、そうですけど」
「そいつってさ、どうしてる?」
「あっちの世界で散々やらかしてますよ、犠牲者を満足させるはずが彼らの資金を使い潰して勝手に酒盛りしたり貴重なリソースを意味もない宴会用の「その他」系に振ったり…あ」
「もしかしてさ、そいつがやらかしたせいでお前、好き勝手やらせない為に管理者権限とやら今無いんじゃねぇの?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
-数年前-
「全く…彼女には困ったものです…性格もさることながら、イレギュラーな事態とはいえ、先導する立場なのに犠牲者の足を引っ張るとは。」
「どうしたんですか?」
「前任者の事ですよ、全くなんで私がこんな文明の進んだ世界を担当しなくちゃならないんですか…ブツブツ」
「ああ、確かに彼女は困り者でしたからねえ…あなたも相応ですが」
「なので、「管理者は担当の場を離れたら権限を一時的に失う」という制約を提案しようと思うんですよ!また好き勝手暴れる人達が増えたら困りますから!」
-そして現在-
「(嗚咽)」
「ドンマイ」
-Few minutes later-
「ふぅ、落ち着きました。しっかしどうしましょう、本部に連絡は付かないわ変な所に飛ばされるわ…」
「そういやお前、この世界を調査とかしてないのか?」
「してましたよ、このアバターで。これは他の世界からの介入者、可能性の重ね掛けで次元を超えるカレイドスコープの所有者等の対策にステータスを最大になるよう作ってあるんです。当然管理者権限も一部引き継いでるわけでして、本部へのメッセージも使えるはずなんですけど…」
「今は無くなってると
…相変わらず何言ってんのか全くわかんねぇ。カレイドスコープって何だよ…」
「万華鏡の事ですよ…
うぅ…ついでに何故か出力も出ません、さっきの詠唱だっていくら
「スルーするなよ… それも権限の中に入ってたり…」
「違いますよ!このアバターは事前に作った物なのでステータスに変化はないはずです!」
「ぴんぽ~ん、先輩、いますか~?」
突然空から声が聞こえる
管理者を見ると、上を見上げながら驚いて硬直している
「な、ななな何であなたが」
「定期連絡が途絶えたので見にきちゃいました~、先輩、もしかしていまそちらにおいでで?」
「そ、そうです!この早漏野郎に連れ去られたんです!お願い助けて」
「そんなこと言われましても~、私はその世界の管理者ではございませんのでこれ以上の干渉は不可能です~」
「(白目)」
「ん~? 先輩~、ちゃんと下界に降りるときには認証キー持って降りなきゃアバターがほとんど機能しないって先日伝えたばかりじゃないですか~、もう~先輩のおっちょこちょい~。」
「あー…その辺にしておいてやれ、こいつ今にも死にそうだぞ。」
「あら~あなたは犠牲者さん?先輩は根は悪い子じゃないんですよ~、先輩をよろしくお願いしますね~」
プツンという音と共に声が途切れる
「…で、頼みの綱の最大ステータスとやらと後輩さんもダメと」
「あなたの責任です!あのとき無理矢理引っ張ったから認証キー置きっぱなしだったじゃないですか!」
「えっどこに」
「〔編集済み〕に…ああ、あなたたちには認識できませんか。うぅ~どうしましょう~…あ!特典のエクスカリバーならなんとかできますよ!」
「具体的には?」
「あれは条件が揃えば時空に歪みができる程のパワーが出るんです。この世界はあなたたちが元居た世界に繋がっているので、そこで私のアバターについてる緊急用の認証キーを起動させられれば!」
「…で、その剣はどこに?」
「………忘れました(∀`*ゞ)テヘッ」
「忘れましたじゃねえだろお前ぇー!俺は自分の物が知らないうちに他人に盗られるのが一番嫌なんだよォ!」
「いいじゃないですか!どうせあなたのステータスではすぐに使えませんから!それに一応あなた以外が引き抜く場合は筋力と意思が最強じゃなければ引き抜けないようロックされていますから安心です。」
「なら、しばらくは大丈夫なんだよな?」
「えぇ、座標固定してない場合はおそらく初期位置…すぐにわかるよう最難関ダンジョン…魔王の城の最深部に刺さってるはずです。たぶん」
「お前、性格悪いな…」
「本来は座標固定してあなたを送り出した座標付近に刺すはずですし、最悪私が行けば回収は容易だったはずなんですよ。この世界の住人に取られないようわざわざ魔王の城の最深部を初期座標にしたんです。」
「まぁ、本来はな。」
「グスン…」
「あーわかったわかった!魔王退治してやるから泣くな!」
「本当ですか?世界の均衡を保つためにかなり強くなってますよ、魔王」
「…幸運ってまだ生きてる?」
「設定する前に権限を失ったのでありませんよそんなもの」
「どうしよう」
「…とりあえず最寄りの村に行きましょう、転職とクエストが受けられる冒険者ギルドがありますよ。ここからだと徒歩数分程度ですね」
かくして、駄女が…ダメ管理者を道連れにした不幸な高校生の運命はいかに…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます