第16話
「まだ開店しないのか……」
カミナルは手をこすり合わせている。
「まだあと一時間くらいあるねぇ」
アマガサが腕時計を見て答えた。
アマガサとカミナルの二人はまだゲーム販売店の前で開店を待っていた。アマガサたちは先頭に並んでおり、すでに後ろには列が延びている。
「アマガサ、この世界が冬なんだったら先に言ってくれよ……」
「ご、ゴメンねぇ……? 聞かれなかったから……」
アマガサたちの暮らしているウェザーリゾートにも季節の概念はあり、ただいまウェザーリゾートは春と夏の中間くらいの季節である。
一方、今アマガサたちのいる異世界は冬も冬、一月という真冬の時期であった。
アマガサは事前に知っており、また早朝から並ぶことも考えてダウンを着込んできたが、カミナルはどちらかと言うと薄着の格好であった。自分では割と暑がりだと思っているカミナルでも真冬には辛い恰好である。それでも並び始めたときは平気だったのだが、時間が経つと流石に寒い。
「まさかこんなに寒いとは……。いや、立ち止まってるからっていうのもあるか」
「は、はいカミナルちゃん。あったかい飲み物だよぉ」
そう言ってアマガサは背負っていたリュックサックから水筒を取り出してカミナルに渡した。
「お、おお。なんだ、気が利くじゃないかアマガサにしては」
「私にしてはって酷くない!?」
アマガサから渡された水筒から飲み物を飲む。中身はコーヒーだった。
「アマガサがこんなに気遣いが出来るようになって、オレは少し感動している」
「私の評価どれだけ低いの!?」
「それはお前、前だったら飲み物用意していたとしても、自分だけ飲むとかしていただろ」
「そ、そこまで酷くないよ!」
「そうか? でも実際にこの世界が冬だって私に言わずに、自分だけ冬物の用意しているじゃないか」
「い、いや、言おうとはしてて……。忘れちゃって……」
アマガサが気まずそうに目線を逸らした。
実際、アマガサは冬服の用意をしているときにカミナルにも伝えようとはしていた。していたのだが、後でいいか、後でいいかを繰り返しているうちに忘れてしまったのである。アマガサ自身も自分が悪いことをしたとわかっているため、何も言えなくなっていた。
「まあいい。コーヒーのおかげで少しは温まった」
カミナルは相変わらず手をこすり合わせているが、先ほどよりは寒く無さそうな顔をしていた。
「そう言えば、お前にこの店の情報を教えてくれたノワキってやつは一緒に来てないのか?」
「ノワキちゃん? うん、今日は来てないよ」
「ソイツもゲーマーなんだろ? 買わないのか? それともモンスター狩人に興味ないとか」
「いや、ノワキちゃんも買うよ? 今日は仕事があって来れないんだって。だから私に代わりに買ってきて欲しいっておねがいされてねぇ」
「そうなのか。残念だな」
なんとなく、同じゲーマー同士、ノワキとは一度会ってみたいとカミナルは思っていた。あまりゲーマーだということは周囲に広めたくはないが、一緒にゲームをする友達はもう一人くらいいてもいいだろうと考えていた。やはりゲームは多人数でやった方が面白い。
「昨日、家に帰ってからノワキちゃんに今日の事電話したんだよねぇ。カミナルちゃんが来てくれるって話したら、ノワキちゃんも会いたがっていたよぉ?」
「またお前は勝手にオレの話を……。まあ、この場合はいいか……」
「今日、ノワキちゃんにゲームソフト渡すときにカミナルちゃんも一緒に来る? 紹介するよぉ」
「おお……。お前に人を紹介するだけのコミュニケーション能力があったのか……」
するとアマガサが怒り出す。
「なんですとっ! 甘く見ないでよ、流石に友達同士ならちゃんと紹介できるよ!」
「いつかは初見の人でもちゃんと対応できるようになろうな」
アマガサの対人能力、そして今後について心配になるカミナルであった。
「そう言えばこの店、だいぶ人気なんだな。オレたちの後ろにかなり長い列ができているぞ」
カミナルは大行列になった後ろを見てそう言う。
「そりゃそうだよ。なんせノワキちゃんのオススメする店だからね! 店員さんも、品揃えもサイコーだよッ!」
「なら出来ればフラゲじゃないときに来たかったな……。 そのノワキってやつはよく来てるのか?」
「そうらしいよぉ? なんかいろんな店を見てきて、ここが一番良いってさ。引きこもりの私とは大違いの行動力だね!」
「自慢することじゃないだろ……」
開店時間が近くなり、テンションが上がってきたのか、アマガサが自虐し始める。
そこでふとカミナルがあることに気づいた。
「あれっ? お前、ノワキの分のモンスター狩人の購入も頼まれたんだよな?」
「うん」
「あと、クラウディアの分も」
「そうだね。それがどうしたの?」
「……お前、今所持金いくらあるんだっけ?」
「……あっ……」
先ほど二人分のお金しかないと言っていたアマガサ。
先日、先にノワキから貰っていた資金を家に忘れてきてしまっていた。
「……カミナルちゃ~ん……」
半泣きの表情でカミナルの裾を掴むアマガサを見て、カミナルはため息をついた。
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