第14話

カミナルが仕事を始めてからしばらくたった頃。

「おい、起きろアマガサ。そろそろお前の仕事の時間だろ」

カミナルは椅子の上でスヤスヤと寝ているアマガサの身体を揺すり、起こそうとする。

「うん……、むにゃむにゃ……。仕事やだぁ……」

「わがまま言うんじゃない。ほらさっさと起きないと、クラウディアに怒られるぞ?」

「クラウディアちゃん!?」

クラウディアという名前を聞いた途端にアマガサがガバッと飛び起きた。

「え? え? ……クラウディアちゃん、いないよね……?」

眠気が一気に覚めたようで、アマガサはキョロキョロと辺りを見回す。クラウディアがいないとわかると胸を撫でおろした。

「も、も~。カミナルちゃん、質の悪い冗談はやめてよね~。またクラウディアちゃんに怒られるかと思ったよ~」

「今日は特に怒られるようなことはしてないだろ……。どれだけクラウディアを恐れてるんだよ」

「そりゃあ、クラウディアちゃんは暇さえあれば私にお小言いってくるからねぇ。まったく、怒られる方の身にもなってほしいよ」

「お前が怒られるようなことをしなければいいんじゃないか……?」

プリプリと怒っているアマガサを見て、「そう言えば」とカミナルが言う。

「そのクラウディアだけど、もう少しでここに来るぞ」

「ええっ!? な、なんで? クラウディアちゃんは今日は午後からのはず……。というか、さっきのはカミナルちゃんの冗談だったんじゃ……」

「確かにさっきのはお前を起こすための冗談だったんだけどな。実はお前が寝てる間にクラウディアから電話が来てな。アマガサが家に居ないから居場所知ってるか、って聞かれたから、オレのとこにいるって言ったらこれからこっち来るってさ」

「ええ……。なんだろ、今度は何のことで怒られるんだろう……」

「お前のクラウディアに対するイメージは怒ってくることしかないのか……」

呆れるカミナルであったが、もう一つあることを思い出した。

「そう言えばクラウディアがお前のことを褒めてたぞ?」

「え? なんで?」

首を傾げるアマガサ。クラウディアから褒められる心当たりがなかった。

「今日はちゃんと自分で仕事場に行けて偉いってさ。昨日の説教がきいたのかなって」

「ええ~? クラウディアちゃんがそんなことを~? まあねぇ。私も本気を出せばちゃんとできるんだよぉ」

アマガサが体をくねらせて照れている。

「まあ────」

クラウディアにはなんで早く来たのかの理由を言ってないから感謝しろよ、と言いかけたがカミナルは口を閉じた。クラウディアには言ってないが、今日アマガサがちゃんと来たのはカミナルに会うというのがメインであり、仕事はついでである。さらにはその要件は異世界渡航に来てくれというものなため、余計に質が悪い。

だがせっかく喜んでいるアマガサに言うのは無粋だと思いカミナルは黙っていた。

「んん? どうしたの? カミナルちゃん」

「何でもない。ほら、早く自分の担当のテンペストボールに行けよ。また寄り道してるとクラウディアに怒られるぞ?」

「はーい」

とそこで

「お邪魔するわよ」

「「あっ」」

クラウディアが部屋に入ってきた。

「あっ、クラウディアちゃん……。い、いや~、奇遇だねぇ。今ちょうど仕事に向かおうとしてて……」

クラウディアがアマガサの存在に気付き、そっちを向いた。

「あらアマガサじゃないの。やっぱりまだここにいたのね。仕事に遅れるわよ」

注意をするクラウディアであるが、口調はどこか優し気である。

「う、うん。ちゃんと今からいくよぉ~」

いつもと違い、優しい口調のクラウディアにアマガサが戸惑っている。

「悪いわねカミナル。アマガサが邪魔してなかった?」

「い、いや。特には……」

いつもアマガサを叱ってるクラウディアとの態度の違いに、カミナルも戸惑っている。

「そう? なら安心だわ。────そう言えばアマガサ」

「ひゃい!?」

いよいよ怒られるのかと思ったアマガサはビクッとし、直立不動になる。しかしクラウディアからかけられた言葉は意外なものだった。

「偉いじゃない、アマガサ。ちゃんと自分で仕事場に来られて。しかもかなり早めに」

「ご、ごめんっ! ……って、えっ?」

予想外にクラウディアからかけられたのは褒め言葉であった。怒られると思っていたアマガサは思わず謝ってしまった。

「ちゃんと来れて偉いって言ってんのよ。昨日のお説教が聞いたのかしら?」

「う、うん! 昨日怒られたからねぇ。今日はちゃんときたよぉ」

どうやら怒られたわけではないとわかったアマガサは一転して胸を張る。

「よかったな、アマガサ。クラウディアに褒められて」

カミナルもアマガサにそう言った。

(アマガサがクラウディアに褒められるなんて……。これは雨が降るぞ)

まさにこれから雨を降らせに行くアマガサなわけだが。

しかし

「それじゃあいいところは褒めたから……。仕事に行く前にアンタの家にあったこのメモについて説明してくれる?」

クラウディアの持っているメモ用紙には「○月○日、モンスター狩人購入予定! カミナルちゃんに付き添いをお願いする!」と書かれていた。

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