第13話

「それじゃあ明日よろしくねぇ」

手をヒラヒラと振りながらアマガサは近くにあったイスを連結させ始めた。簡単なベッドのようなものを作ると、そこに横になった。

「なんで帰らないんだよ」

図々しく寝始めようとしたアマガサにカミナルが声をかける。

「だ、だってぇ~。私の仕事、あと三時間後くらいからだしぃ。ここで時間潰させてよぉ」

「一度家に帰ればいいじゃないか」

「家に帰ってもいいけど……。多分今日はもう来ないよ?」

何故か脅すようにアマガサが言う。カミナルは呆れていた。

「わかったわかった……。そこにいてもいいから、ちゃんと仕事はしてくれ」

「はぁ~い。……でもでもえらいでしょう? 今日は自分から仕事をやりにきたよ?」

「それが普通なんだがな。まあ、いつものクラウディアに引っ張られて仕事をやってるよりは遥かにましか」

明日の約束を取り付けられて気分がいいのか、いつもよりも饒舌にアマガサが話している。

「というか、オレに会いに来るために今日はここまで来たんだろ。明日のために」

「い、いや~? シゴトノタメデスヨ……?」

ぎこちなく返したアマガサであるが、確かにその通りだった。

仕事は昼からなのにこんなに早く来たのはカミナルが帰らないうちに約束を取り付けるためである。正直、自宅からカミナルにメールなり電話をすれば、今日はサボれるかもと考えていたのだが、直接言いに来たのはアマガサなりに頼む側の礼儀だと思ってのことである。そのレベルの常識はアマガサも持っていた。

「どうだかな。────まあいい。オレは仕事をするから邪魔するなよ」

「邪魔しないよぉ。私は寝てるから、カミナルちゃんの仕事が終わったら起こしてねぇ」

横になって手をヒラヒラと振りながらアマガサが言った。

「それがすでに邪魔なんだが……」

呆れながらもカミナルは仕事に取り掛かる。

テンペストボールの前に立ち、手をかざす。するとテンペストボール内の異世界にゴロゴロと雷の音が鳴り響き始めた。

「今日は広範囲で一か所だけか……。いつもみたいに局地局地に分散してると神経を使うから、今日は楽でいいな」

いつもほど集中しなくてもよいことがわかったカミナルはアマガサの方を向く。すでにアマガサは「スー……スー……」と寝息を立てている。なんとなくイラっときたカミナルはアマガサに話しかけて起こそうとする。

「そう言えばアマガサ。よくモンスター狩人のフラゲが出来る店がわかったな。」

「んんぅ……? むにゃむにゃ……。なにがぁ? カミナルちゃん?」

「そういう情報って異世界の人でも知ってる人少ないだろ? よくお前が知ってたな。普段異世界なんてオレかハレノヒとしか行かないのに」

アマガサは目をこすりながら起き上がる。

「ああ……、それはねぇ……。教えてもらったんだよぉ」

眠そうにアマガサが続ける。

「教えてもらったって、誰に?」

カミナルは心当たりが無かった。クラウディアもハレノヒもモンスター狩人をプレイしてはいるが、そこまでのゲーマーでない。自分の交友関係にもそこまでゲームに精通している友人はいなかった。

「うんっとねぇ……。ノワキちゃんって言う子」

「ノワキ……? ────ああ、前にお前が言ってたゲーム好きなやつか」

「そうそう。なかなかのゲームオタクでねぇ~。今度カミナルちゃんも会ってみなよ。いい子だよ?」

「ふーんそうか。じゃあ今度────、って!」

そこでカミナルがハッとした。

「お前! もしかして私がゲーム好きだって言ったんじゃないだろうな!?」

「ご、ごめん……。話の流れでつい……、言っちゃった♪」

「おいッ!」

てへっとするアマガサにカミナルが掴みかかる。

「そこから話が広まったらどうするんだ!」

「だ、大丈夫だよ……。ちゃんと秘密って言ったし……。の、ノワキちゃん、口固いから……」

そこでやっとカミナルがアマガサを離す。

「お前……。オレがゲーム好きって噂が広まったら恨むからな……」

「き、気にしすぎだってカミナルちゃんは~」

襟元を直しながらアマガサがカミナルを宥める。カミナルはまだアマガサの方を睨んでいる。

「私はお前と違って周りに知られたくないんだって────って、もうこの話はいい。何回繰り返すんだ」

「あれ? なんの話してたっけ?」

「ノワキって奴が明日の情報を教えてくれたんだろ」

「そうそう。ノワキちゃん、そういう情報に詳しくてね~」

「ってことはソイツも異世界渡航を平気でしてるのか……」

表面上は呆れているカミナルだったが、内心ではそういう情報を見つけられるノワキを少し評価していた。本当に少しだが。

「ま、まあまあ。とりあえず明日を楽しみにするべし!」

そう言うとアマガサはまた眠ろうとした。

そう言えば時間潰しにアマガサに話しかけたのにいつの間にか変な方向に話題が移っていた。

カミナルはため息をつきつつ、再びテンペストボールに向き合った。

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