第12話

「はぁ……、はぁ……。し、死ぬかと思った……」

「お前が余計なことを言うからだ」

ゼーゼーと息をしているアマガサと対照的にカミナルは涼しい顔をしている。

「べ、別にいいじゃん……。ゲームくらい誰だってしてるってぇ」

「いや、だが……。オレのキャラに合わないだろう?」

「キャラとかじゃないよ! ゲームを愛しているなら、恥ずかしがらないで堂々としてないと!!」

「あーーッ!! わかったから落ち着け!」

再び暴走しようとしていたアマガサをカミナルが止める。早く用事を済まして、アマガサには帰ってもらいたいカミナルであった。

「で、いつ行くんだ? 早めに言ってもらわないとこっちも用事が入るかもしれないぞ」

「うーんとねぇ……。明日♡」

「急すぎるだろっ!」

アマガサの無茶ぶりにカミナルがツッコむ。流石のクールなカミナルも冷静ではいられなかった。

「お前……。いくらなんでもいきなり過ぎるぞ」

「私もすっかり忘れててぇ……」

カミナルが「フンッ」と鼻で笑う。

「ゲームを愛するとかなんとか言っておいて、発売日を忘れるとはな……。さっきのお前に聞かせてやりたいな」

「うぐぅ……! そ、その……、前に買ったゲームに夢中になり過ぎてて……。 他にもやってる最中のゲームも……その……ごにょごにょ」

「お前、またクリアしてないゲーム積んでるのか?」

カミナルが呆れたようにそう言った。

「ちゃんとクリアしてから次のゲームやらないと、そのゲームに失礼なんじゃないか? あと、作った人に対しても」

「ぐっ……! 発言だけ聞くと、カミナルちゃんの方がゲーム愛が強いように聞こえる……!」

アマガサが苦虫を噛み潰したような顔になる。

「そりゃオレは、ちゃんとクリアしてから次のゲームを買ってるからな。最後までやりきるさ」

「ぐっ、ぐうの音もでない……!」

完膚なきまでに叩きのめされたアマガサだが、ハッとあることを思い出した。

「フッフッフッ……!」

「な、なんだよいきなり笑いだして」

「カミナルちゃんは今やっているゲームはあるかなぁ?」

「い、一応あるが……」

アマガサはにやけ顔をしたまま続ける。

「ならそのゲーム、今日中にクリアしたほうがいいよぉ? ────カミナルちゃんのゲーム愛の主張を通すならッ!」

「な、なぜ……?」

「なぜって? ……なぜならッ!!」

アマガサはここぞとばかりにオーバーリアクションで答える。

「何と! 明日は大大大人気ゲーム、モンスターズ狩人シリーズの最新作が発売されるからなのです!」

「な、なんだってーーー!?」

とある異世界にて発売されているゲームシリーズ、モンスターズ狩人。

その異世界でも爆発的な人気を持っているが、それだけではなく、アマガサたちの住むウェザーリゾートでも大人気となっている。

どれほどの人気かというと、普段は滅多にゲームをやらないクラウディアやハレノヒが買いに行くほどの熱狂ぶりである。もちろん、カミナルも大ファンであった。

だがしかし、異世界での発売日とウェザーリゾートでの発売日は違う。かなりの期間を置いて発売される。なのでゲーマーのアマガサは異世界での発売日に買いに行こうという魂胆である。

そこでカミナルがあることに気づいた。

「あれ? モンスター狩人の発売日は異世界でも三日後じゃ……?」

カミナルがゲーム雑誌に載っていた発売日を思い出した。

「フッフッフッ……! 甘いよカミナルちゃん……!」

アマガサがビシッとカミナルの方に人差し指を突き出す。

「フラゲだよ、フラゲ!」

「おまっ……! ダメだろそれは!」

フラゲ─────フライングゲットのことであり、ゲーム購入においては発売日よりも早くゲームを購入することである。個人商店などのゲーム屋でまれに行われることがあり、店主と顔なじみであったりすると買える場合もある。

「いいんだよべつに! 犯罪じゃないし」

「だとしても、でも……。それは……!」

「ふふふ……。さあカミナルちゃん、私についてくれば、誰よりも早くモンスター狩人がプレイできるよぉ~?」

「ぐっ……! しかし……! ゲーマーとしては……!」

カミナルはゲーマーとしてキチンとした発売日に買わなくてはいけないという考えと、しかしまたゲーマーとして早く遊びたいという気持ちの板挟みにあっていた。

「ほらほら~。どうするの~?」

珍しく強気な、またテンションが高いアマガサの問いかけに、カミナルは────


「オレは……、行─────────────── く」

アマガサはニヤリと笑った。

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