第11話

カミナルがハレノヒと別れ、自分の担当する部屋に入った後のこと。

「なんでお前がいるんだ……」

「あっ……、カミナルちゃん待ってたよ~……」

今日は一人で担当するはずのテンペストボールの部屋に、何故かアマガサがいた。しかも勝手に椅子に座ってくつろいでいる。

「今日、この異世界はお前の担当じゃないだろ。それにハレノヒからお前は仕事は昼からだって聞いたぞ」

「し、仕事はそうだよ? ただここに来たのは……、カミナルちゃんに……、会いたくて……」

「えっ……?」

恥ずかしそうにモジモジしながら言っているアマガサを見て、カミナルはドキッっと────

しなかった。

「お前がオレに会いに来たってことは、また異世界に買い物に行って欲しいって頼み事だろ?」

「うっ……!? なぜそれを……?」

違う意味でドキッっとしたアマガサとは対照的に、カミナルは呆れたような表情になった。

「お前がオレのとこに来るときは大抵その頼み事だろ。ワンパターンだ」

「そ、そんなことないよ……?」

「常に家に引きこもってゲームばかりしているお前が、自分から他人のとこに行くなんて、頼み事する以外にないだろう?」

「そ、そんなことないって! 私は友達のことを大切に思っているから、常に友達の傍にいるんだよ!」

カミナルはため息をついた。

「最後にお前の方からからオレに会いに来た時も一緒に異世界に来てほしいって言いに来たときだな」

アマガサはギクッとなった。

「き、気のせいじゃないかな……?」

わざとらしく目線を逸らしたアマガサにたいして、カミナルは再びため息をつく。

「まったく、お前は……。オレたちの方から会いに行かないといつまでも家に引きこもってるだろ」

「そ、そんなことないよ……? ちゃんと仕事には来てるし……」

「それは当たり前だ────、ってお前は仕事にもちゃんと来てないみたいじゃないか。昨日のこと、ハレノヒから聞いたぞ」

「あーー、昨日の事ね……。し、食事会は楽しかったよ~……」

「そのこともだが、そうじゃない。仕事に遅刻したことだ。しかもクラウディアに迎えに来てもらったんだって?」

「ストップ! ストップだよカミナルちゃん!」

いきなりアマガサが両手をパーにして前に突き出す。

「お説教は勘弁して! 昨日、食事会でもクラウディアちゃんに死ぬほど怒られたの!」

「ン……? まあ、なら今日はいいか」

実際はそんなに長時間説教をされたわけではないのだが、カミナルはあっさりとアマガサの話を信じてしまった。このあたりがクラウディアから「カミナルはアマガサに甘い」と言われている所以である。

「で、なんだ? 買い物って、今回も異世界にゲームを買いに来てほしいってことか?」

「さすがカミナルちゃん。話が早くて助かるよぉ~」

「まったく……。異世界渡航は禁止のはずなのにな」

するとアマガサがキランッと光らせた。

「カミナルちゃん……。カミナルちゃんはそれを言っちゃいけないよ~……。だって……」

アマガサは両手を腰に手をあててドヤ顔をする。

「カミナルちゃんだって一緒にゲームを買ってるからねっ!」

「バッ、バッカお前! あまり大きな声で言うな!」

カミナルが珍しくクールな雰囲気をくずし、慌てて手のひらでアマガサの口を塞ぐ。

「モゴモゴ……。カミナルちゃんだって同罪だよ!」

「わかってる! わかってるから大声で言うな!」

カミナルは何とかアマガサの口を塞ごうとする。

そう、実はカミナルもゲームが趣味なのである。アマガサほどのオタクではないが、やはりそこはゲーマー。アマガサと一緒に異世界に行ったときに自分もゲームを買っているのだ。

カミナルはウェザーリゾートでのゲームの発売が遅い事には不服であった。

「あまりオレがゲームやってることは周りに言うなって! あ、いや、もちろん異世界渡航してることもだが……」

同じゲーマーとしてアマガサとカミナルの違うところは、カミナルは隠れゲーマーというところである。

ゲーマーということをわりとオープンにしているアマガサに対して、カミナルがゲーマーということを知っているのはアマガサ、クラウディア、ハレノヒくらいである。他の気象精霊達からは、クールビューティーなイメージを持たれているのがカミナルという気象精霊であった。

「他の連中にゲーマーってバレたら恥ずかしいだろっ!」

「趣味だったら恥ずかしがっちゃダメだよ! 自信持たないと!」

得意な話題になり、水を得た魚のようにアマガサが生き生きと暴走しだす。

カミナルは何とかアマガサの口を塞ごうと必死になっている。

「ああもう! ハレノヒ! 助けてくれーーーー!」

カミナルの必死のヘルプコールもすでに別れたハレノヒには届かない。


結局この後、アマガサが窒息寸前まで首を絞め続けて事なきを得たカミナルであった。

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