第10話

「せっかく今日はお前たちとゆっくり話が出来ると思ったのに……」

「なんか仕事のタイミング悪いよねぇ」

肩を落としているカミナルにハレノヒが話しかける。

「そうだな……。オレたちはそれぞれ担当の天候が違うが……。とは言っても、ここまで時間がバラバラになることは珍しいな」

「そうだよね。私は一人で作業することが多いけど、アーちゃん、クーちゃん、ミーちゃんの三人はよく一緒に仕事してるもんね────」

そこまで言ってハレノヒがハッと気づいた顔になる。

「あれ……? もしかして私だけみんなといる時間短いのでは……?」

「まあ……。それは担当の天候的にしょうがないんじゃないか……」

カミナルがそっと目を逸らす。

「なんで私の担当晴れなんだろう……」

「それは気象精霊として生まれたときから決まってるし、しょうがないだろ」

「でもでも! みんなと相性最悪過ぎるよ! アーちゃんとなんて晴れと雨なんだからまったくの別もんじゃん!」

「そうは言っても……。晴れはオレの雷とも相性悪いだろ」

「大丈夫だよ! なんならこれからミーちゃんの担当する異世界を晴らしてから雷起こそうよ!」

勝手に暴走したハレノヒはカミナルが出てきた部屋に入ろうとする。それを慌ててカミナルが引き留める。

「バカ、お前! そんなことしたら大変なことになるだろっ!」

「えっ、なんで? 超レアな天気だから異世界の人喜ぶよー。珍しいもの見れたーって」

カミナルがはぁ、とため息をついた。

「そうかお前知らないのか……。いいか? 確かに空が晴れてるのに雷が鳴ってる気象はあるんだ」

「だったらいいんじゃないの? 珍しいんでしょ?」

「確かに珍しいが、それは大変なことの前兆なんだ」

「大変なこと?」

ああ、とカミナルが深刻そうに頷く。

「ゲリラ豪雨だ」

「ゲリラ豪雨?」

ハレノヒがきょとんとする。

「まさかゲリラ豪雨を知らないわけじゃないよな?」

「流石にしってるよー。アーちゃんがよく大変だー、って愚痴を言ってるし。それがなんで大変なの?」

「いいか。空が晴れているのに雷の音が聞こえるときは、じきにその場所でゲリラ豪雨が発生する合図なんだ」

カミナルが深刻そうな顔で続ける。

「それだけなら一次的なものだから洪水とかの心配は少ないんだが、もう一つ危険なことがある」

「も、もう一つの危険なこと?」

「ああ。一時的なものだとしても異世界の住人が空が晴れたと思って外に出るだろ? すると雷が落ちてきて、それに打たれるかもしれない」

「そ、そうなの?」

ハレノヒが驚く。

「空は晴れていても雷が落ちるかもしれない不思議な天気なんだ。生物が住んでいない異世界ならまだしも────、ってまあ指示に背いてる時点でアレなんだが……。ともかく、危険なんだ」

「そ、そうなんだ……。知らなかったよ……」

ハレノヒがしょんぼりとなる。

「まあ、知らなかったんならしょうがない。────いやまあそんな天気にしようって発想もどうかと思うが……」

「でもでも! そういう天気もあるってことだよね?」

「まあな。ただ滅多にないらしいし、オレも経験したことないんだが」

「でももしその天気にするってことになったら、不謹慎だけどちょっと嬉しいかも」

「なんでだ?」

カミナルが尋ねる。

「だってそうなれば私たち四人で仕事できるじゃん!」

「まあそうだけどな……。異世界的にはそうなってほしくはないだろうな」

カミナルが苦笑いする。ハレノヒが確かに、といったような顔つきになる。

「そりゃね。私たちの仕事は異世界の人たちの生き死にに関わることだからね……。でも、私たちが一緒に仕事出来るって可能性があるってわかっただけでも嬉しいよ~」

「まだそのことを気にしてるのか」

「だって、私だけ仲間外れなんだモーン」

「しょうがないだろう。仕事は仕事、プライベートはプライベートで考えろ」

「はーい。────あっ、そろそろ仕事の時間だ」

ハレノヒは腕時計を見てそう言った。カミナルも自分の腕時計を確認した。

「そうだな、オレもそろそろ時間だ。じゃあな、ハレノヒ。また今度」

「うん。バイバーイ、ミーちゃん」

ハレノヒが手を振りながら自分の担当する部屋に入っていく。

「さてと……。オレも一仕事するか……」

軽く伸びをしながらカミナルも自分の担当する部屋へと向かって行った。

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