第9話
「あれ? ミーちゃんじゃ~ん」
食事会の次の日。
テンペストホール内で、今日担当の部屋に入ろうとしていたハレノヒは、向かいの部屋から出てきた少女とバッタリと鉢合わせした。
「ハレノヒか……。おはよう……、というかこんにちは、か?」
挨拶で悩んでいる少女の名前はカミナル。アマガサたちと同じ気象精霊であり、雷を司っている。
外見は金色の髪をセミロングにした髪型で、クールな顔つきをしている。
前日の食事会でも話題で挙がっていたようにアマガサたちの幼馴染であり、小さい頃からこの四人で仲良しグループを作っていた。
「昨日はすまなかったな。夜勤明けた後、夜までずっと寝ていた」
性格は見た目通りクールであり、口調も固いため初めて接すると近づきがたい印象を持つ。
「こっちこそゴメンね? 夜勤明けだってこと忘れて誘っちゃって。起こしちゃわないか心配だったよ~」
しかし、昔からの付き合いのハレノヒはそんなことは慣れっこと、明るく話しかける。
「いや、まさかオレも十二時間以上も寝続けるとは思っていなくてな……。流石に目を覚ました時は驚いた」
「あはは。ミーちゃん、昔から一度眠ると滅多に起きないじゃーん?」
ハレノヒが笑いながらカミナルの鼻を軽くつつく。
「ムッ。流石に普通に夜寝れば、朝は起きられるぞ」
「流石にそうじゃないと仕事ができないよー」
「それはそうか……。いや、最近夜勤が多くてな。どうも生活リズムが崩れてしまっているんだ。だから昨日あんなに寝坊を」
カミナルが照れ臭そうに頬を掻く。
「アーちゃんから聞いたよー。最近大変なんだってね。ちゃんと休まないと」
「休みも必要だが、お前たちの集まりには極力参加したい。四人で集まれるなんて昔みたいに簡単ではないからな」
ハレノヒがニコッと笑う。
「ミーちゃんのそういう素直なところ大好きだよー。普段からもっと柔らかくしてれば、もっといろんな人が近づいてきてくれるのに」
途端にカミナルがブスッとした顔つきになる。
「この性格は生まれつきだ。どうしようもない」
「えーー、そうだったっけ? ミーちゃん昔はもっとこう────」
「そう言えばハレノヒ。昨日はアマガサとクラウディアも来たのか?」
触れられたくない話題なのか。カミナルは無理やり話題を変えた。
「えー? んっとね、昨日は私とアーちゃんとクーちゃんの三人で集まったよ」
「そうなのか。全員集まれるチャンスだったならやはりオレも行きたかったな……。それでどんな話をしたんだ?」
「他愛もない話だよー。最近の仕事のことについてとか。あっ、アーちゃんがクーちゃんに怒られてたけど」
ハレノヒが昨日のことを思い出しながら話す。
「また怒られてたのか……。クラウディアはアマガサと一緒にいると、説教しかしてないんじゃないか?」
「あははっ! でも昨日のは私も怒られちゃったよ」
「ハレノヒが? 珍しいな」
「うん。クーちゃんがね、アーちゃんをあまり甘やかすなってさー。私はそんなつもりないんだけどなー」
「ってことは私も怒られたのか……」
カミナルがため息をつく。するとハレノヒは驚いた表情になった。
「すごーい! なんでわかったの? ミーちゃんの事も怒ってたこと」
「そりゃ、オレはアマガサを甘やかしてる自覚があるからな」
「えー? そうなのー?」
他人事のようにハレノヒが聞き返す。
「逆にお前がその自覚無いのがすごいと思うぞ」
「だってー。アーちゃんにお願いされたら断れないんだもん」
ハレノヒは昨日の食事会と同じ答えを言った。
「まあオレもそうなんだが……」
カミナルの場合はアマガサがというよりも誰かに頼み事をされたら断れない性格なのである。生粋のお人好しである。
「アーちゃんを甘やかすのは仕方ないっ! だってアーちゃん可愛いんだもん!」
「それがいけないんだろうな……」
そう勝手に結論付けるハレノヒに、ため息をつきながらカミナルが答える。
「まあ、もうこの話は置いといて。ほかにどんなことを話したんだ?」
「えっとね~……。最近のミーちゃん忙しそうだなって話とか」
すると申し訳なさそうにカミナルが頭をポリポリと掻く。
「さっきも話したけど、最近夜勤が多くてな……。とりあえず昨日でひと段落ついたから、しばらくは大丈夫だと思う」
「それなら近いうちにまた四人で集まれそうだね!」
「ああ。今日とかも大丈夫だぞ?」
昨日の集まりに参加できなかったのが悔しいのか、カミナルは今日集まろうと提案する。
「今日はどうだろうなー。アーちゃんとクーちゃんはそれぞれ昼と午後から仕事だからね」
「そ、そうなのか?」
カミナルは残念そうな顔をする。
「さすがに二日連続はねー」
お金のこともあるし、とハレノヒは心の中で付け加えた。
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