第6話

「やっと落ち着けたわね」

ウェイトレスに案内され、三人は席についた。夕方の時間帯ということもあってか、店内はそこそこの込み具合である。

「待たずに座れてラッキーだったね」

「本当にね。あんなに店の前で無駄話してたのに」

「あはは……。なんでお店に入ってからにしなかったんだろうね」

ハレノヒが苦笑する。

「で、そこの店員とまともに話せなかった奴」

そう言われた瞬間、アマガサがビクッとした。

「な、なんでしょうか……?」

「アンタの人見知り、重症過ぎんでしょ。そんなんでよく日常生活できてるわね」

先ほど店内に入ったとき、アマガサは店員から話しかけられた。もっとも話しかけられた内容としては、よくある「何名ですか?」と「おタバコはお吸いになられますか?」というありきたりなものだったのだが、アマガサは人見知りが発動して「うえぇ……」と上手く答えられなかったのである。

「アンタ、そんなレベルの人見知りなのに、よく異世界まで一人で買い物出来てるわね」

「え、ええっと……」

アマガサが言いよどむ。するとハレノヒが会話に入ってきた。

「アーちゃんの異世界での買い物は私やミーちゃんがよく一緒に行ってるよ?」

「は、ハーちゃん!! シーッ!! シーッ!!」

「はぁ?」

クラウディアの片方の眉毛が吊り上がった。言い終わってからハレノヒは「あっ…」と言い、しまったという顔になった。

「ちょっと、アマガサ。どういう事かしら?」

「ご、ごめんね、アーちゃん。この事はクーちゃんには内緒だったね……」

するとクラウディアのもう一方の眉毛も吊り上がった。アマガサは、もう余計なことを言わないでと言わんばかりに、ハレノヒに向かって手をバタバタと振っている。

「アマガサ! アンタ、ハレノヒとカミナルに無理言って異世界にまで来てもらってんの!?」

「む、無理やりじゃなくて、ちゃんとお願いしたらついてきてくれたというか……」

「一緒よ! お願いしてるんじゃない!」

「ふ、二人とも、嫌な顔をしないで来てくれたから……」

「そりゃ、二人とも優しいし、そもそもアンタに甘いからでしょうが!」

クラウディアはハレノヒの方を向く。

「ハレノヒもハレノヒよ。異世界渡航は禁止だって知ってるでしょう?」

「いや~。アーちゃんにお願いされると断れなくて……」

「断れないじゃなくて、禁止事項なんだっての! そもそもアマガサを甘やかすな!」

「ちょっと待って、クラウディアちゃん。私は一方的にお願いしたわけじゃないよ」

突然アマガサがキリっとした顔になる。

「ちゃんと買い物のあとは二人にご飯とか奢ってあげてたよ!」

「やかましい! だったらなんだっての!」

「いや~、アーちゃんは異世界に詳しいから、美味しいご飯屋さんに連れてってもらっちゃってさぁ~」

ハレノヒが困ったように苦笑いする。普段節約生活をしているハレノヒは、食事の奢りにはとても弱いという弱点があった。

「まったく……。異世界渡航してるとはいえ、一人で買い物できるようになったのかと思ったのに……」

「ふ、二人についてきてもらってるのは店までで、買うときは一人で買えてるから……」

「そこまで行ったら同じでしょうよ。小学生でも一人で買い物できるってのに、アンタときたら……」

クラウディアが呆れたようにため息をつく。

「い、いや、でもゲームの発売日に二人が来れないときは頑張って一人で買いに行ってるから……」

「あらそうなの? 偉いじゃない────、ってだからそもそも異世界渡航自体がダメなんだってば!!」

一瞬、感心しかけたクラウディアであったがすぐに思い直した。それでもその程度で感心している時点で相当アマガサに対して甘いのだが。

「ほらほら二人とも。キリがないから早く料理注文しようよ~。私お腹すいちゃった」

このままではクラウディアがアマガサに対して説教を始めると思ったハレノヒはアマガサに助け舟を出すように話題を変えた。もっとも、ハレノヒが言った空腹という理由も間違ってはいないが。

「それもそうね。お説教は料理が来てからにしましょうか。いつまでも注文しないとお店に迷惑かかるし」

「お説教はするんだ!?」

ハレノヒの助け舟に気づいたアマガサであったが、残念ながらお説教回避とはいかないことがわかり、ショックを受けた顔になる。ハレノヒも苦笑いをしている。

「とりあえず注文どうする?」

「えっとねー、私は─────」

「じ、じゃあ私は─────」

「それでいいのね? じゃあ注文するわよ」

クラウディアが「すいませーん」と店員を呼ぶ。

まだ食事会は始まったばかりである。

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